在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

ネックの広い動脈瘤塞栓術

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ブロードネックの動脈瘤塞栓術

動脈瘤塞栓術において問題の一つはネックの広さです。


ネックが広い場合には、そのままコイルを入れると正常な血管にコイルがはみ出てしまいます。
正常な血管にコイルが出てこないようバルーンカテーテルという風船付きの管を入れてはみ出しをおさえます。
例えば、脳底動脈という動脈瘤は開頭による手術がとても難しい場所です。

この場所を血管内治療で治療する場合、ネックの広さや血管の温存が難しい場合があります。
こういった形の動脈瘤に普通にコイルを入れるとコイルがはみ出てきますが(左図)、バルーンで押さえることによって塞栓が可能になります(右図)。
こうしたネックを作る作業を英語でネックプラスティ(neckplasty:ネックを作る)と呼んでいます。
この風船が日本で使えるようになった際には、とても画期的でしたが現在ではその種類も増え、状況に使い分けるまでになっています。
またこの風船にも色々な種類があって、上の図のように非常に柔らかくて血管に沿って広がるタイプのものが出てきました。

 

このバルーンが使えるようになって、まだ10年チョットです。

その後に沢山の道具(武器)が増え、益々血管内治療は安全かつ難しい症例も治療できるようになりました。

本当に医学の進歩は凄い!と感じる日々です。

静岡から患者さんが来てくれました!

先週の外来での出来事

2012.12.31いわゆる大晦日に緊急で手術した患者さん
両側瞳孔散大し、正直社会復帰は難しいと思ってました
その後に外来に歩いて受診された時は、心底驚き「やったー!」という気持ちでした

写真の通り、振り返るくらいのイケメン男子!

そして勤務先が神奈川に変わっても外来に来てくれて
なんと、先週千葉まで外来に来てくれました

やはり、この仕事選んでよかったです、心から本当に

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モデルの様なイケメンナイスガイ

 

急性期再開通療法に新しい武器登場

塞栓性脳梗塞に対する、血管内治療はこの10年で劇的に変化しました。

思い返せば、ウロキナーゼ動注療法からメルシリトリーバーに始まり、いまではステント型3種類、吸引型1種類が使用できます。

今月から、さらに新しいデバイスが登場するそうです。
吸引型のデバイスとしてはこれまでペナンブラカテーテルが唯一の存在でしたが、これで2種類となりました。
先端が柔らかく、内腔が大きいカテーテルです。
ポンプは使用せず、同包されている注射器を使用して吸引します。

ソフィアフロー なんて名前がかっこいいですね。

因みに、今日の朝(午前0時くらいですが)もこの治療で行いました。

ひとまず失語が改善し、麻痺も回復傾向です。

やったー!

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新しい血栓吸引デバイス

 

詫磨先生 赴任

少し遅れましたが横須賀うわまち病院が、今後久里浜(三浦半島南端)へ移転することになりました。

ノンビリスローライフ脳外科生活も悪くないのですが、まだまだ発展途上の身としては、久里浜移転追従はチョットと考え勤務先を千葉脳神経外科病院へ。

半分千葉、半分湘南生活も慣れてきたところで、うわまち病院での後輩詫磨先生が

僕と一諸に働き勉強したいということで、今月より千葉脳外科病院へ赴任してくれることになりました。

千葉県はとてもとても脳外科医不足であり、千葉脳神経外科は千葉県で虚血性疾患を中心に脳卒中患者の入院が最も多い病院にて彼の赴任は本当にありがたいです。

また、自身が沢山の紆余曲折しながら学んだことを少しでも彼に教えることが出来たらとも考えおります。

まぁ、教えるというより共に直達手術、血管内治療で安全かつ適切な治療を患者さんに提供できるよう頑張って参ります。

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今日のop後

 

血管内治療における憂鬱

血管内治療における動脈瘤の治療において、治療の引き際というのはいつも迷うところです。

動脈瘤に出来る限りコイルを詰めて完全閉塞を目指せば、再破裂の確立は低くなります。

しかし、必要以上にコイルを詰めて術中破裂や塞栓性合併症(治療によって脳梗塞を起こしてしまうことです)を避けたい。

治療の辞め時の見極めは、極めて難しいと感じます。

但し、ネック(動脈瘤の根本)が少し造影されるくらいは許容されるのでは、思っていたのですが。

 

Neck Remnants and the Risk of Aneurysm Rupture After Endovascular Treatment With Coiling or Stent-Assisted Coiling: Much Ado About Nothing?

Neurosurgery  2019 Feb 1;84(2):421-427

 

コイル塞栓術を施行した1292個の脳動脈瘤を調査して、626個の脳動脈瘤術直後の残存描出を認めた。これらのうち、13個(2.1%が追跡期間に破裂した(平均7.3ヶ月)。13個中11個(84.6%破裂脳動脈瘤だった。

 

・コイル塞栓術後にネック残存を認めた未破裂脳動脈瘤が、実際に破裂に至るリスクは低かった(0.6%)。

 

・一方、ネック残存を認めた破裂脳動脈瘤症例は、再破裂の危険性が高かった(3.4%)。

 

動脈瘤のネック残存は破裂例では、再破裂が多いという印象です。

治療して元気に退院された患者さんが、再度クモ膜下出血で運ばれて来る。

これほど、辛い気持ちになることはありません。

何より、患者さんは再度命の危険に晒されます。今後も自問自答する課題を与えてくれた文献でした。

 

 

 

脳動脈瘤に対する血管内治療

 

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動脈瘤にコイル塞栓術を行っているイラスト

この図は動脈瘤を治療する為コイルを挿入しているところです。

動脈瘤という血管のコブにコイルという髪の毛より細い金属の線を充填して、血流を遮断し動脈瘤内へ血流が来ないようにしている様子です。


実際の治療は、足の付け根の大腿動脈(だいたいどうみゃく)から管を入れて行います。
その管の中にマイクロカテーテルというさらに細い管を通して、動脈瘤の中まで入れるのです。
そしてコイルを入れていけば、動脈瘤はつまってしまい、出血しなくなります。

動脈瘤の入り口の部分をネックといいます。
ネクタイのネックと同じで、「くび」という意味です。
医学的には「頚」とか「頸」という字を使い、「頚部(けいぶ)」などと言ったりします。
以前は「ネックが狭い動脈瘤はコイルによる塞栓術に適している」とされていましたが、現在では沢山のデバイスが使えるようになり、仮にネックが広くても治療可能となってきました。
もちろん、ネックが狭い方が治療手順はシンプルになり、治療する側としてはストレスは少ないのも確かです。何故ならネックの狭い方が動脈瘤の中に入れたコイルがはみ出てくることがなく、安全につめられるからです。
ネックの狭い動脈瘤では、1時間もかからず、時に30分くらいで治療が終わることもあります。

開頭の治療で、30分くらいで脳が見えてくる時間です。

やはり患者さんへの負担や予期せぬ出来事は時間が長いほど起こるのは間違いなく、こうした点も血管内治療の優位性の一つと考えてます。

もちろん治療の成否を決めるのはネックの広さだけでなく、動脈瘤にいたるまでの血管の動脈硬化や蛇行なども大事な条件です。


また後方循環と呼ばれる部位にできる動脈瘤は開頭の治療がとても難しい場所です。

しかし、血管内治療では必ずしも難しくなく、こうした場合も血管内治療を選択すべき場合です。

Stroke 2019:未破裂中大脳動脈瘤において血管内治療v.s開頭手術

今、個人的に常々考えているのは未破裂中大脳動脈瘤に対し

どの様な場合に血管内治療を選択すべきか?

これを脳卒中学会のシンポジウムでセッションが行われていました。

因みに上記の表はNeurosurg Rev. 2014から引用したものです。

これによると完全閉塞の確率は、直達手術は97%、血管内治療は75%であった。

これだけ見ると、開頭手術有利ですね。

但し、中大脳動脈瘤は本来破裂率低い動脈瘤であり、必ずしも完全閉塞目指さず

ネック(動脈瘤の入り口)は少し甘く塞栓されても許容されるのでは?というのが個人的意見です。

この動脈瘤に対し、開頭手術が苦手な解剖学的特徴は明確であり(中大脳動脈が短いタイプ)、これに対して血管内治療で治療可能な場合は、血管内治療行う、それ以外は原則この部位に関しては開頭に利があるのでは?というのが現在の私のスタンスです。

もちろん、これから新しいデバイス(WEB:サクランボ状のネットのようなデバイス)が日本で使えるようになれば、また新しい展開になると思いますが。

いずれにしても、未破裂動脈瘤で最も重要な原則は治療可能か否か、完全閉塞出来るか否かでなく、決して合併症を作ってはならない。

この原則に従い、治療方針を決めることが最も重要と私は考えます。