在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

認知症について家族へ向けて2~「もの忘れ」と「記憶障害」はどう違う?

「もの忘れ」と「記憶障害」はどう違う?
―― ミステリートレインの旅から学ぶ認知症の世界

今まで、どちらかと言えば医療向けでブログ書いてきましたが、少しご家族からの要望もあり物語風にして

御家族向けに認知症についてできる限り分かり易く解説してまいります。


「最近、もの忘れがひどくなった」――それは誰にでも起こること。
しかし、認知症による「記憶障害」は、そのひとことでは語れない深さがあります。

今回は、ストーリーをもとに、「もの忘れ」と「記憶障害」の違いと、在宅ケアで大切にしたい視点をお伝えします。

「もの忘れ」と「記憶障害」、何が違うのか?

人の記憶はもともと曖昧なものです。予定をうっかり忘れる、使い慣れた単語が出てこない……これらは日常的な「もの忘れ」です。

では、認知症でみられる「記憶障害」はどう違うのでしょうか? 本書はわかりやすい例で説明しています。

もの忘れ

「3月3日18時に友人と食事」と約束した。当日は忙しく忘れていたが、19時に友人からの電話で思い出せた。「覚えていたときの自分」を想起できる。

記憶障害

19時に友人から電話が来ても、約束したこと自体を思い出せない。「自分が考えた・行動した」こと自体を忘れてしまうのが特徴。

手帳に予定が書き込まれていても、「書き込んだこと」を覚えていないため、その予定が本当なのかどうか確証が持てない。これが記憶障害の日常です。

「ミステリートレイン」とは、乗るとだんだん記憶をなくしていくトレインの比喩です。ある方の体験談を紹介します。

旅人の声(本人の体験)

いつもの通勤電車に乗り、少しぼーっとしたとき、ふと気づくと「自分は今どこにいるのか、どこに向かっているのか、どこから来たのか」がまったくわからなくなっていた。窓の外を見ても何も思い出せず、電車は終点まで行ってしまった。定期券を見て、ようやく目的地がわかった。

これは、「降りる場所を忘れた」のではなく、「会社に向かっていたこと自体」を忘れたのです。過去も現在も未来も、すべての記憶が突然すっぽりとなくなってしまう状態です。

記憶とは「記銘 → 保持 → 想起」のプロセス

記憶障害は、「記憶のプロセス」のどこかに問題があることで起きます。

記銘
情報を取り込む
保持
蓄えておく
想起
取り出す
行動
実行する

このどこかが機能しないと、「電車から降りられなくなる」「メニューが思い出せなくなる」といった困りごとが生まれます。たとえば――

1
記銘のトラブル「しんじゅく=新宿」という意味への変換ができず、情報が頭に入らない
2
保持のトラブル一度覚えても、すぐに忘れてしまう(路線番号や出口の数字など)
3
想起のトラブルアナウンスを聞いても「次は浅草か」とは思えるが、「自分が降りる停留所」と結びつかない
4
行動のトラブル降りる場所はわかっているのに、なぜか自分の手がボタンに向かって伸びていかない

在宅生活で起きる「困りごと」一覧

こうした記憶のプロセスの障害は、日常生活のあちこちに影響します。以下に、まとめられている具体例を整理します。

心身機能障害 01体験や行為を記憶(記銘・保持・想起)できない
  • 火をつけたことを忘れ、コンロで吹きこぼしてしまう
  • 洗濯・料理していることを忘れる
  • お金を引き出したことを忘れ、「誰かが使った」と疑ってしまう
  • 自分が注文したことを覚えていない
  • 何度も同じ話を繰り返す
  • 完了した仕事がどれかわからなくなる
心身機能障害 02知識・情報を記憶(記銘・保持・想起)できない
  • 食事のメニューが思い浮かばない(ひき肉を見ても料理が出てこない)
  • 薬を飲み忘れる(薬を飲まなければならないと思えない)
  • 降車駅や目的地を忘れる・間違える
  • 仕事で必要な商品情報が何度見ても覚えられない
心身機能障害 03自分の思い(考え・意図)とは異なる行動をしてしまう
  • 意図せず他人の皿の料理を食べてしまう
  • ✓電車ドアに立てない(意識しすぎて逆に動かないことも)

「工夫」が、その人らしい生活を守る

ミステリートレインの乗客は、その後こんな工夫をするようになりました。乗る駅と降りる駅を書いたメモをパスケースに入れ、首からかけて通勤する。「認知症のため、困っているときは手助けをお願いしたい」という一文も添えて。

メモを見せながら話すと声をかけやすいし、誰も変な目で見ることはなく、親切に教えてくれます。

さくら在宅クリニックでは、こうした「ちょっとした工夫」を、ご本人・ご家族・多職種チームで一緒に考えることを大切にしています。その人の「できること」を最大限に活かし、尊厳ある生活を続けるための在宅医療を目指しています。

認知症のことで気になることがあれば、お気軽にご相談を

逗子・葉山・鎌倉エリアの在宅医療なら
さくら在宅クリニック

在宅酸素療法を科学する2~在宅酸素療法(HOT/LTOT)を受けている患者さんから、「毎日何時間つければいいの?」「軽い場合でも必要?」という質問をよくいただきます。

🌸 さくら在宅クリニック|逗子市
#在宅医療#LTOT#在宅酸素療法#COPD#生命予後#低酸素血症#逗子市#MRC#NOTT#LOTT

長期酸素療法(LTOT)は生命予後を改善するか?
重症〜軽症COPDへの最新エビデンス
— さくら在宅クリニックの視点から

MRC試験・NOTT・LOTT試験など主要臨床研究をわかりやすく解説。在宅酸素療法の適切な適応・投与時間の考え方を整理します。

📅 2025年4月🏥 さくら在宅クリニック📍 逗子市・葉山町・鎌倉市
在宅酸素療法(HOT/LTOT)を受けている患者さんから、「毎日何時間つければいいの?」「軽い場合でも必要?」という質問をよくいただきます。さくら在宅クリニック(逗子市)では、最新のエビデンスに基づき、患者さんの状態に合った酸素療法の処方を行っています。本記事では、重要な臨床試験の結果をわかりやすく解説します。
🔬 重症低酸素血症とLTOT — 2つの歴史的試験

慢性の低酸素血症に肺性心の合併が生じると予後が非常に不良(死亡率30〜100%)であることが知られていました。1970年代後半、この問題に正面から取り組んだ2つの大規模ランダム化比較試験が実施されました。

試験①
MRC試験(Medical Research Council)— 長期在宅酸素療法の生存効果
87名
対象(70歳未満)
15時間/日
酸素投与(鼻カニューレ2L/分)
5年間
観察期間

対象:FEV₁ 0.5〜0.75L、PaO₂ 49.4〜51.8 Torr、PaCO₂ 56〜60 Torr、平均肺動脈圧32.3〜35.0 mmHgの重症患者。

n 5年間の死亡数 死亡率
酸素療法群 42名 19名 45%
対照群(酸素なし) 45名 30名 67%

✅ LTOTはPaCO₂の上昇を引き起こすことなく、PaO₂低下の進行と肺血管抵抗上昇を抑制する傾向が確認された。

試験②
NOTT(Nocturnal Oxygen Therapy Trial)— 常時vs夜間のみ
203名
COPD患者(低酸素血症あり)
19.3ヵ月
平均観察期間
約2倍
常時投与群の生存中央値改善
時点 夜間のみ群(12時間) 常時酸素療法群
12ヵ月死亡率 20.6% 11.9%
24ヵ月死亡率 40.8% 22.4%

✅ 酸素投与時間が長いほど生存率が高い。1日18時間の酸素療法群では生存中央値が酸素なし群の約2倍に。

📌 重症COPD(安静時低酸素血症)へのLTOTのまとめ

MRC・NOTT両試験ともに明らかな生存率の改善を示した。酸素療法の使用時間が長いほど生存率が上昇し、1日15時間以上の長期酸素療法が重症慢性低酸素血症に有効である。

⏱️ 24時間投与 vs 15時間投与 — どちらが有効か?

重症の低酸素血症では長時間の酸素使用が望ましいことがわかりましたが、「完全に24時間使用することが15〜16時間よりも明らかに生存にメリットがあるか」を調べたスウェーデンの前向きコホート研究(Ahmadi et al.)が発表されました。

試験③
24時間 vs 15〜16時間/日 — スウェーデン前向きコホート研究
2,249名
COPD患者(合計)
1.1年
中央値フォローアップ
1,129名
フォローアップ中死亡(50%)

酸素投与時間を連続型変数として解析したところ、15時間/日を超えて1時間長くなるごとのハザード比は1.0(95%信頼区間 0.98〜1.02)となり、長い使用時間は死亡との関連がみられなかった。

臨床的な解釈:低酸素血症があっても、1日の短時間(例:入浴・外出時など)であれば酸素をオフにしていても生命予後への悪影響は少ない可能性がある。酸素デバイスを常に装着することの心理的負担がある患者さんには、息切れの悪化などのデメリットがなければ、短時間の中断を許容できると考えられる。
🫁 軽症〜中等症の低酸素血症へのLTOT
NETT(National Emphysema Treatment Trial)— 安静時正常・運動時低酸素

COPD患者1,215名のうち、安静時PaO₂が60 Torr未満の低酸素血症の有無と酸素使用状況から生存率を調査。安静時には低酸素血症がないが重症の肺気腫がある患者(%FEV₁ <45%)の33.8%(n=260)が、常時酸素療法を受けていた。

酸素を常時使用していた群で死亡率が高く見えたが、酸素療法が有害なのではなく、運動時低酸素血症が高死亡率につながっていたものと推測された。

LOTT(Long-Term Oxygen Treatment Trial)— 最大規模のRCT
試験④
LOTT — 軽症〜中等症低酸素COPDへの長期酸素療法のランダム化試験
738名
安定COPD(42施設)
1〜6年
フォローアップ
p=0.52
主要アウトカム(log-rank)

対象の内訳:①安静時中等度低酸素(SpO₂ 89〜93%):133名(18%)、②労作時のみ中等度低酸素:319名(43%)、③安静時および労作時低酸素:286名(39%)。

アウトカム 酸素なし群 酸素あり群 ハザード比
死亡or初回入院 36.4件/100人年 34.2件/100人年 0.94(0.79〜1.12)
死亡 5.7件/100人年 5.2件/100人年 0.90(0.64〜1.25)
初回入院 34.5件/100人年 31.6件/100人年 0.92(0.77〜1.10)

⚠️ 酸素処方なしとありの2群間に有意差なし。比較的軽症の低酸素血症のCOPDには、死亡改善効果は得られないと考えられる。

📋 エビデンスのまとめ — 重症度別の考え方
✅ 重症(安静時低酸素血症)

LTOTは生存率を明らかに改善(MRC・NOTT)。1日15時間以上の長期継続が推奨。

⏱️ 24時間 vs 15時間

生命予後への差は確認されず。短時間の中断を許容できる可能性あり(Ahmadi et al.)。

⚠️ 軽症〜中等症(LOTT)

生存率・入院率ともに有意差なし。安易な処方は避け個別評価が重要。

💡 注意点

間質性肺炎・肺高血圧合併例にはLOTTの結果を適用できない。QOL改善効果は別途評価が必要。

🏠 さくら在宅クリニックでの実践ポイント

1重症COPD(PaO₂≦55 Torr or SaO₂≦88%)には積極的にLTOT処方。1日15時間以上を目標に管理。
2入浴・外出時などの短時間中断は、息切れ悪化がなければ許容。患者さんの心理的負担を軽減。
3軽症〜中等症(安静時SpO₂ 89〜93%)には一律処方せず、運動時低酸素の有無・QOL・息切れ症状を個別評価。
4間質性肺炎・肺高血圧合併例は別途専門的判断が必要。COPDのデータをそのまま適用しない。
5LTOTを適切な対象に導入できるよう、定期的な在宅SpO₂モニタリングと多職種連携で評価継続。

🌸 さくら在宅クリニック — 在宅酸素療法のご相談・紹介

COPD・間質性肺炎・心不全などで在宅酸素療法(HOT/LTOT)をお考えの患者さん・ご家族、また病院・施設からの退院連携をご希望の医療機関様はお気軽にご連絡ください。

📍 診療エリア
逗子市・葉山町・鎌倉市・横須賀市(湘南エリア)
🩺 対応内容
訪問診療・HOT/LTOT管理・呼吸器疾患・在宅看取り
🤝 連携・紹介
病院・施設からの退院支援・連携歓迎
📞 お問合せ
さくら在宅クリニック(逗子市)

在宅医療を科学する69~デュオドーパポンプとは? 進行期パーキンソン病の新しい治療選択肢

デュオドーパポンプとは?
進行期パーキンソン病の新しい治療選択肢



#パーキンソン病#デュオドーパ#神経内科#在宅医療#薬物療法#レボドパ#QOL改善#持続投与

パーキンソン病が進行すると、内服薬だけでは症状をうまくコントロールできなくなることがあります。そのような方に用いられるのが「デュオドーパポンプ」です。今回は、その仕組みや特徴についてわかりやすくご説明します。

デュオドーパポンプとは

デュオドーパポンプとは、進行期パーキンソン病の患者さんに対して用いられる、持続的な薬剤投与システムです。内服薬による治療が難しくなった段階で検討される、専門的な治療法のひとつです。

使用する薬剤は「デュオドーパ®(レボドパ・カルビドパ水和ゲル製剤)」という内用ゲルです。経口のレボドパと同様の成分ですが、腸に直接届けることで吸収を安定させます。


どのように薬を届けるのか

治療の流れは以下の3ステップで行われます。

  • 1チューブの留置:経鼻・胃瘻から腸管内へチューブを挿入し、腸の上部(十二指腸または空腸)に直接薬を届けるルートを確保します。
  • 2携帯型ポンプの装着:小型の携帯型ポンプを体に装着し、一定の速度でゲル薬剤を注入します。
  • 3血中濃度の安定化:持続的に投与することで、血中レボドパ濃度を一定に保ち、症状の変動を抑えます。

内服薬との違いと期待できる効果

パーキンソン病では、内服のレボドパが消化管から吸収される速度にばらつきがあるため、「オン・オフ現象」や「wearing-off(効果切れ)」が起こりやすくなります。デュオドーパポンプは腸へ直接・持続的に投与することで、これらの問題を改善します。

🚶

運動症状の安定化

すくみ足・オン・オフ・ジスキネジアの改善

📉

日内変動の軽減

一日を通じて症状のブレが少なくなる

QOLの改善

生活の質が向上し、より活動的な日常へ


デュオドーパポンプは、「腸に直接レボドパを持続注入するポンプ治療」です。内服治療でコントロールが難しくなったパーキンソン病患者さんに用いられる方法で、症状の安定化と生活の質の向上が期待できます。ご興味のある方や詳しく知りたい方は、担当医やさくら在宅クリニックまでお気軽にご相談ください。

認知症について家族へ向けて1~「本人の視点」で認知症を知る

「本人の視点」で認知症を知る


今まで、どちらかと言えば医療向けでブログ書いてきましたが、少しご家族からの要望もあり物語風にして

御家族向けに認知症についてできる限り分かり易く解説してまいります。

 

「困っているのに、自分の口でうまく説明できない」
そんな認知症の方ご本人の気持ちに、私たちはどれだけ寄り添えているでしょうか。

認知症に関する情報は、医療従事者や介護者の視点から書かれたものがほとんどです。しかし、「ご本人がどんな世界を生きているのか」を理解しないままでは、ケアに本当の意味でのすれ違いが生まれてしまいます。

今回は、在宅医療の現場で大切にしたい「本人視点のケア」について考えてみます。

「認知症」とは、なにか? まず知っておきたいこと

定義

認知症とは、「認知機能が働きにくくなったために、生活上の問題が生じ、暮らしづらくなっている状態」のことです。

「認知機能」とは、目・耳・鼻・舌・肌などの感覚器官で対象をとらえ、それが何であるかを解釈したり、思考・判断したり、計算や言語化したり、記憶に留めたりする働きのことです。

たとえば、外出先のトイレを探すだけでも、私たちは「視覚で知覚→記憶の想起と解釈→判断と実行」という3ステップを無意識に踏んでいます。認知機能が低下すると、この一連の流れがうまくいかなくなるのです。

「お風呂を嫌がる」のは、なぜ? 行動の「理由」を知ることの大切さ

在宅ケアの現場でよく聞かれる「入浴拒否」。これを「介護への抵抗」と捉えてしまうと、根本的な解決にはつながりません。

実は、その背景にはさまざまな認知機能のトラブルが隠れていることがあります。

  1. 温度感覚のトラブルで、お湯が極度に熱く感じる
  2. 皮膚感覚のトラブルで、お湯をぬるっと不快に感じる
  3. 空間認識や身体機能のトラブルで、服の着脱が困難
  4. 時間認識や記憶のトラブルで、入浴したばかりだと思っている

単純に、家族に手間をかけさせたくないと思っているケースもあるでしょう。

背景にある理由がわかれば、対応の仕方は変わります。「できること」も「できないこと」も、人それぞれ。認知症を「ひとくくり」にしないことが、とても大切なのです。

💡 たとえば食パンを何度も買ってくる行動ひとつとっても、「いつ買ったか忘れた」のか「戸棚の扉を閉めたことで見えなくなり記憶が消えた」のかで、原因はまったく異なります。

「本人視点」が、ご本人も介護者も楽にする

実際の現場からは、こんな声が届いています。

ご本人の声

「自分の口でうまく説明できないし、相手にすぐ理解してもらえなかったけど、これを読んでもらうと『ああ、こんなことが起きてるんだ』ってわかってくれる人が多くて嬉しかった。」

ご家族の声

「わたしたち家族が、彼女に見えている世界を理解し、寄り添い、彼女と心地よく過ごすためのヒントを探していたときに、とてもわかりやすく世界の見え方を教えてもらえました。」

在宅医療だからこそ、「生活」ごと見える

病院では見えにくい「生活の場での困りごと」こそ、在宅医療の強みです。さくら在宅クリニックでは、認知症のある方ご本人の視点を大切に、ご本人・ご家族・多職種チームとともに「その人らしい生活」をつくることを目指しています。

認知症は、今のところ医学的に治す方法はありません。しかし、「どうやって認知症とともに生きるか」――付き合い方や周りの環境は変えることができます。

ちょっとした工夫が、その人の尊厳を守り、認知機能の低下を防ぐことにもつながります。「病」を診て「症状」に対処するのではなく、「人」を見て「生活」をともにつくり直す。そんなアプローチを、私たちは大切にしています。

認知症ケアについて、お気軽にご相談ください

逗子・葉山・鎌倉エリアの在宅医療なら
さくら在宅クリニック

在宅酸素療法を科学する1~酸素療法は「なんとなく使うもの」ではなく、低酸素血症の病態を正しく理解した上で実施することが大切です

#在宅医療#酸素療法#低酸素血症#在宅酸素療法#HOT#逗子市#COPD#呼吸器

低酸素血症が体に及ぼす影響と
在宅での酸素療法の役割
— さくら在宅クリニックの視点から

急性・慢性の低酸素血症のメカニズムと、生体への有益・有害な反応を解説。
在宅酸素療法(HOT)の適応や管理についても紹介します。

📅 2025年4月🏥 さくら在宅クリニック📍 逗子市・葉山町・鎌倉市
さくら在宅クリニック(逗子市)では、COPD・間質性肺疾患・心不全などにより在宅酸素療法(HOT)を行っている患者さんを多く診療しています。酸素療法は「なんとなく使うもの」ではなく、低酸素血症の病態を正しく理解した上で実施することが大切です。本記事では、低酸素血症が体に与える影響を科学的に解説します。
🌍酸素と大気 — 地球の歴史から学ぶ

酸素不足が生体に与える影響への認識は、高地での酸素欠乏による死亡の報告がおそらく最初と考えられています。地球が誕生した46億年前からしばらくの間、大気の主成分は二酸化炭素と窒素でした。

約27億年前に出現したシアノバクテリアの光合成により酸素が増加し、現在と同程度の酸素濃度になったのは1億年前とされています。地球の歴史において「酸素が十分にある」のはごく最近のことです。

古生代後期(約3億3,300万年前)には大気中の酸素濃度が現在よりかなり高く、約35%程度まで増加した可能性があり、この時期の昆虫類の巨大化と関係しているとも考えられています。

酸素療法の歴史
1541年スイスの化学者Paracelsusが大気中に生物に必要な成分が含まれると推測(酸素の存在が示唆された最初)
1774年Carl Wilhelm Scheeleが初めて酸素("fire-air")の単離に成功
1800年代初Thomas Beddoesがイギリスで最初の酸素治療を実施(喘息・肺結核・心不全に応用)
1860年代酸素輸送にヘモグロビンが関与することが発見
1921年Jonathan Meakinsが肺炎患者への酸素療法の成功を報告。慢性閉塞性肺疾患(COPD)への治療応用へ
急性の低酸素血症 — 生体の即時反応

低酸素血症は細胞における酸素欠乏を意味します。生体の酸素保持量はわずかであるため、肺からのガス交換による酸素補給が欠乏すると、直ちに生命の危機につながる恐れがあります。

急性低酸素血症では、生体は以下の5つの生理的反応で対応します。

換気量増加
VA/Qマッチングが増加し酸素飽和度を改善
肺動脈攣縮
換気血流比(VA/Q)マッチングの改善
エリスロポエチン増加
赤血球増加→ヘマトクリット値上昇→動脈中の酸素量増加
心拍数増加
心拍出量を増やし組織への酸素運搬を増加
1回心拍出量増加
④と合わせて組織への酸素運搬を強化

🧠 頭脳への影響

動脈血酸素分圧(PaO₂)が55 Torr以下に低下すると、短期記憶や判断力に影響が生じます。認知症との鑑別が必要な場合も。在宅患者さんで「何か変」と感じたらSpO₂の確認を。

🔄慢性の低酸素血症 — 有益と有害の表裏

慢性の場合は、さらに様々な低酸素状態に対する生体の適応変化が絡み合います。慢性の低酸素血症は組織の酸素欠乏をきたし、赤血球産生の亢進・中枢神経系の低酸素血症・末梢血管の拡張・肺動脈の血管攣縮を引き起こします。

これらの反応は、酸素欠乏に対抗する有益な反応であると同時に、そのために起こる有害変化と表裏一体です。

図:慢性の低酸素血症による生体への影響(有益・有害)

組織の酸素欠乏
中枢神経系の酸素欠乏
有益呼吸ドライブ亢進→動脈血酸素分圧・二酸化炭素分圧の改善
有害神経・精神機能の障害+呼吸仕事量の増加→栄養障害
末梢血管拡張
有益心拍数増加+心拍出量増加・酸素供給増加
有害心不全・心筋虚血・不整脈誘発
赤血球産生の亢進
有益酸素運搬能力上昇
有害血液粘性上昇+微小血管内流動性低下
肺動脈血管攣縮
有益VA/Qマッチングの改善と動脈血酸素分圧の改善
有害肺高血圧・右心負荷→肺性心
在宅医療のポイント:慢性低酸素血症への酸素投与は、これらの有害な影響を抑えるために有用です。ただし、COPD患者さんでは高流量酸素投与でCO₂貯留が悪化するリスクもあります。SpO₂の目標値は88〜92%(COPDの場合)が一般的です。
🏠在宅酸素療法(HOT)— さくら在宅クリニックの対応

在宅酸素療法(Home Oxygen Therapy:HOT)は、慢性低酸素血症を抱える患者さんが自宅で酸素を吸入しながら生活できる医療です。

HOTの主な対象疾患

COPD(慢性閉塞性肺疾患)・間質性肺炎・肺線維症・心不全・睡眠時無呼吸症候群(重症例)・肺高血圧症など

さくら在宅クリニックでの管理

逗子市・葉山町・鎌倉市エリアの患者さんへ訪問診療を行い、在宅酸素療法の適応判断・流量設定・機器管理を包括的にサポートします。在宅での血中酸素飽和度(SpO₂)モニタリングや、急性増悪時の対応についても患者さん・ご家族と事前に取り決めを行っています。

病院・施設からの退院後の在宅酸素療法継続についても、連携・紹介を歓迎しています。

🌸 さくら在宅クリニック — 酸素療法・呼吸器管理のご相談

COPD・心不全・間質性肺炎など、在宅酸素療法が必要な患者さんの訪問診療に対応しています。病院・施設からの退院支援や紹介状のお申し込みもお気軽にどうぞ。

📍 診療エリア
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🩺 対応内容
訪問診療・HOT管理・呼吸器疾患・在宅看取り
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病院・施設からの退院支援・連携歓迎
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誤嚥性肺炎を科学する69~「口から食べる」を支える KTバランスチャートとは?

#在宅医療#摂食嚥下#KTバランスチャート#誤嚥性肺炎予防#逗子市#食支援

「口から食べる」を支える
KTバランスチャートとは?
在宅での食支援に活かす13の視点

📅 2025年4月🏥 さくら在宅クリニック📍 逗子市・葉山町・鎌倉市
在宅医療の現場では、「お口から食べること」は患者さんの生活の質(QOL)に直結する大切なテーマです。さくら在宅クリニックでは、逗子市を中心に鎌倉市・葉山町などの患者さんへ訪問診療を行う中で、食支援ツール「KTバランスチャート(KTBC)」を活用し、多職種チームで包括的な食支援を実践しています。
🌸KTバランスチャートとは

KTバランスチャート(Kuchikara Taberu Balance Chart:KTBC)は、食支援に必要な情報共有・介入計画・介入効果判定に使いやすいツールとして開発されました。

13項目・各項目1〜5の5段階判定による包括的な評価で、点数をレーダーチャート上に描画します。信頼性(再現性)と妥当性が論文でも検証された、根拠ある評価ツールです。

専門家だけでなく、介護施設スタッフでも容易に使用できることが証明されており、ほぼすべての環境でどなたでも用いることができます。

KTバランスチャート — 13項目のレーダー図(イメージ)

①食べる意欲②全身状態③呼吸状態④口腔状態⑤認知機能⑥咀嚼・送込⑦嚥下⑧姿勢耐久性⑨食事動作⑩活動⑪摂食状況⑫食物形態⑬栄養
現在の状態目標
📋13の評価項目

KTBCは以下の13項目で患者さんを総合的に評価します。在宅医療の現場でも、多職種チーム(医師・看護師・言語聴覚士・管理栄養士・介護士)が共通の「ものさし」として活用できます。

1食べる意欲
2全身状態
3呼吸状態
4口腔状態
5認知機能(食事中)
6咀嚼・送り込み
7嚥下
8姿勢・耐久性
9食事動作
10活動
11摂食状況レベル
12食物形態
13栄養
🌿①食べる意欲 — 評価の詳細

食べる意欲は、脳・体調・意識状態・精神症状に左右されます。KTBCでは以下の5段階で評価します。

評価 内容
1 促しや援助をしても食べようとしない
2 促しや援助で少し食べる
3 促しや援助で半量食べる
4 促しや援助でほとんど食べる
5 介助の有無に関わらず食べようとする・食べたいと意思表示する
ポイント:食べる意欲が低くても、食支援をあきらめないことが大切です。②全身状態・③呼吸状態・⑩活動・⑫食物形態へのアプローチによって改善する可能性があります。KTBCで他の項目に目を向けることが、食べる意欲のケアにつながります。
🏠在宅医療での活用 — さくら在宅クリニックの取り組み

さくら在宅クリニック(逗子市)では、訪問診療・訪問看護と連携しながら、以下のような場面でKTBCを活用しています。

📌 誤嚥性肺炎のリスクがある患者さんへの予防的アプローチ。KTBCのレーダーチャートで弱点を「見える化」し、チームで共有します。

📌 胃ろうや経管栄養中の患者さんの「口から食べる」ことへの段階的な移行支援。目標スコアを設定し、定期的に評価します。

📌 認知症のある方の食支援。食べる意欲・認知機能・食物形態を組み合わせて評価し、ご家族やヘルパーと情報共有します。

KTBCは逗子市・葉山町・鎌倉市の在宅患者さんの食支援に関して、ご紹介・連携も歓迎しています。かかりつけ医や病院からの退院支援のご相談もお気軽にどうぞ。

🌸 さくら在宅クリニック — 在宅医療・食支援のご相談

逗子市を中心に、葉山町・鎌倉市・横須賀市など湘南エリアの在宅医療に対応しています。摂食嚥下・食支援に関するご相談、紹介状のお申し込みはお気軽にご連絡ください。

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訪問診療・在宅看取り・摂食嚥下支援・栄養管理
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在宅医療を科学する68~オフ症状への治療対応と問題点 ― COMT阻害薬・アマンタジンの使い方 ―

# パーキンソン病# オフ症状# COMT阻害薬# アマンタジン# 在宅医療# 高齢者薬物療法# レボドパ# ジスキネジア# 嚥下機能# 副作用管理
 
パーキンソン病の進行に伴い、レボドパが効いている時間(オン)と効かなくなる時間(オフ)の波が大きくなります。在宅医療の現場では、このオフ症状にどう向き合い、薬を安全に使いこなすかが重要な課題です。本記事では、オフ症状への治療薬として用いられるCOMT阻害薬アマンタジンの特徴と注意点をまとめます。
COMT阻害薬(エンタカポン等)
  • レボドパの代謝を抑制し、作用時間を延長させる目的で使用されます。
⚠ 問題点・在宅での注意点
  • 下痢・肝障害などの副作用があるため、高齢者への導入は慎重に行う必要があります。
  • 在宅では便のコントロール悪化に注意が必要です。家族や介護者との連携が重要です。
アマンタジン(シンメトレル)
  • ジスキネジア(不随意運動)の改善に有用とされています。
  • オフ時間を短縮する症例も報告されています。
  • 嚥下機能改善の報告があり、在宅で検討されるケースが増えています。
⚠ 問題点・在宅での注意点
  • 幻覚・腎機能関連の副作用に注意が必要です。
  • 高齢者では特に過敏であることが多く、せん妄を誘発するリスクがあります。腎機能のモニタリングが欠かせません。

在宅医療のポイント

高齢のパーキンソン病患者への薬剤調整は、副作用の出現リスクが高く、少量から慎重に導入することが基本です。また、下痢・幻覚・せん妄などの症状は本人だけでなく家族・介護者が最初に気づくことも多いため、在宅チーム全体での情報共有が治療の質を高めます。