在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

2025-12-01から1ヶ月間の記事一覧

攻めの栄養療法を科学する30~各種疾患・合併症における禁忌事項

● 脂質異常症 ― エネルギーを「増やすほど悪化する」代表的病態 ― ■ 脂質異常症とは 血中のリポたんぱくは、脂質を全身へ運搬する役割を担っています。通常、脂質代謝はホメオスタシス(恒常性)により厳密に制御されていますが、何らかの要因により血中脂質…

攻めの栄養療法を科学する29~悪液質(カヘキシア)

― 栄養を「増やしても」改善しない病態 ― **悪液質(cachexia)**とは、通常の栄養療法では改善が困難な、進行性の代謝異常症候群です。 単なる低栄養とは異なり、 著しい骨格筋量の減少 慢性炎症の持続 機能障害の進行 を特徴とする、複合的な栄養不良状態…

攻めの栄養療法を科学する28~侵襲(しんしゅう)と栄養療法

― 高度侵襲下では「攻めの栄養療法」は禁忌 ― ■ 侵襲とは何か 侵襲とは、 重症感染症 大手術 多発外傷 熱傷 など、生体を傷害し、生体恒常性(ホメオスタシス)を破綻させる強い刺激を指します。 侵襲が加わると、生体内では以下の反応が起こります。 **内因…

攻めの栄養療法を科学する27~「攻めの栄養療法」は誰にでも有効ではない

― 禁忌を理解しない“栄養強化”は、かえって危険 ― 「攻めの栄養療法」とは、体重や筋肉量を増やすことを目的に、単なる消費エネルギーだけでなく「エネルギーの蓄積分」も考慮してエネルギー必要量を設定する栄養療法です。 しかし、この方法はすべての患者…

攻めの栄養療法を科学する26~各種疾患・合併症における禁忌事項

慢性心不全|「増やす栄養」と「抑える栄養」のバランスが鍵 慢性心不全とは 心不全は、 「心臓に器質的・機能的異常が生じ、心ポンプ機能の代償機構が破綻した結果、呼吸困難・倦怠感・浮腫が出現し、運動耐容能が低下する臨床症候群」 と定義されます。 慢…

攻めの栄養療法を科学する25~各種疾患・合併症における禁忌事項

脂質異常症|「量を増やす」だけでは悪化する 脂質異常症とは 血中のリポたんぱくは、コレステロールや中性脂肪といった脂質を運搬し、全身を循環しています。通常、脂質は生体内のホメオスタシスにより一定範囲に保たれていますが、何らかの原因で血中脂質…

攻めの栄養療法を科学する24~侵襲|高度侵襲下では「攻めの栄養療法」は禁忌

侵襲とは何か 侵襲とは、重症感染症・大手術・多発外傷・熱傷など、生体を傷害し、生体恒常性を大きく乱す刺激を指します。 侵襲が加わると、生体内では以下が生じます。 内因性エネルギー供給(endogenous energy supply)の増大 ストレスホルモン・炎症性…

攻めの栄養療法を科学する23~はじめに|「攻めの栄養療法」は万能ではない

**「攻めの栄養療法」**とは、体重や筋肉量を増やすことを目的に、エネルギー消費量に加えて“エネルギー蓄積量”を考慮して必要量を設定する栄養療法です。 ただし、単純にエネルギー量を増やせばよいわけではありません。 糖質・脂質・たんぱく質の配分 患者…

攻めの栄養療法を科学する22~回復期|「回復させるための栄養」が主役になる時期

回復期は、脳卒中・大腿骨近位部骨折・廃用症候群などにおいて、病状が安定した段階を指します。回復期リハビリテーション病棟に入院する**65歳以上の高齢者では、中等度以上の栄養障害を有する患者が約44%**に及ぶと報告されています。 Nishioka らの研究…

攻めの栄養療法を科学する21~はじめに|栄養療法は「治療の基盤」

栄養療法は、健康の維持・増進のみならず、生活習慣病やさまざまな疾患の治癒・改善を支える重要な治療の一部です。患者が何らかの栄養障害に陥った場合、適切な栄養スクリーニングと栄養アセスメントを行い、早期に栄養状態を維持・改善する方策を講じるこ…

攻めの栄養療法を科学する⑲~低栄養とサルコペニアの診断と重症度判定

― GLIM criteria と AWGS をどう使い分けるか ― ■ 低栄養の診断(GLIM criteria) ● 診断 現症基準と病因基準のそれぞれ1項目以上に該当する場合、低栄養と診断します。GLIM criteria では、スクリーニング後にこの診断ステップへ進むことが前提とされていま…

攻めの栄養療法を科学する⑱~低栄養とサルコペニアをどう評価するか

― GLIM criteria と AWGS を用いた実践的アプローチ ― ■ ポイント整理 低栄養の診断は GLIM criteria を用い、 ①スクリーニング → ②アセスメント → ③診断 → ④重症度判定 の手順で行う サルコペニアは進行性・全身性の骨格筋疾患であり、転倒・骨折・身体障害…

攻めの栄養療法を科学する⑰~KTバランスチャートを使用する際の注意点

KTバランスチャートの各段階には、到達目標・次のステップへ進むための評価基準・必要な達成目標が明確に示されています。そのため、評価を行う際にはKTバランスチャート エッセンスノート⁴)を活用し、評価者間で基準を共有したうえで、正確な評価と多職種…

攻めの栄養療法を科学する⑯~KTバランスチャートの信頼性と妥当性

― エビデンスと臨床現場での実感 ― ■ エビデンスからみたKTバランスチャート Koyama らは、高齢者肺炎において入院後早期から食支援を開始することで、入院期間の短縮および経口摂取率の改善が得られることを示しました¹)。この結果は、「食支援は後回しに…

攻めの栄養療法を科学する⑮~口からの摂取をあきらめないための

多職種による「攻める」アプローチ ■ KTバランスチャートが示す多職種連携の視点 口から食べることをあきらめないためには、一職種だけではなく、多職種がそれぞれの専門性を持ち寄り、重なり合いながら関わることが不可欠です。 KTバランスチャートの13項目…

攻めの栄養療法を科学する⑭~「口から食べる」を本気で支えるために

― KTバランスチャートと“攻めの栄養管理” ― ■ 口から食べることを「攻めていく」ために 口から食べることを守り、さらに一歩前へ進めるためには、評価を可視化できるツールが欠かせません。その中で有効なのが KTバランスチャート です。 KTバランスチャート…

攻めの栄養療法を科学する⑳~サルコペニアの摂食嚥下障害(Sarcopenic dysphagia: SD)とは

― 「医原性サルコペニア」を起こさないことが最大の予防 ― ■ ここがポイント **サルコペニアの摂食嚥下障害(SD)**とは、全身と嚥下関連筋群のサルコペニアによって生じる摂食嚥下障害 医原性サルコペニアは、医療行為によって新たに生じるサルコペニアで、…

攻めの栄養療法を科学する⑬~【口から食べることをあきらめないために】

"> ">食べることは、単なる栄養摂取行為ではありません。 家族と同じ食卓を囲む 食べ物の香り・味・温度・食感を楽しむ 外食というレジャーを楽しむ 人と共有する時間と体験を持つ これらの“付加価値”が、人の活動・参加・生活の質(QOL)を支えています。 …

攻めの栄養療法を科学する⑫~【サルコペニア嚥下障害に対する治療】

― 栄養 × リハ × 多職種連携による「攻めの栄養療法」 ― サルコペニアを背景とした摂食嚥下障害は、従来の嚥下リハビリだけでは改善が難しいことが知られています。その理由は、嚥下筋の筋力低下だけでなく、全身の低栄養・筋量低下 が同時に進行しているた…

攻めの栄養療法を科学する⑪~【疾病構造の変化とサルコペニア嚥下障害への新しい対応】

日本は世界でも類を見ないスピードで高齢化が進み、医療の中心は「治す医療」から “併存疾患を抱える高齢者の生活を支える医療” へと変化しています。こうした疾病構造の変化の中で、摂食嚥下障害も従来のアプローチだけでは十分に改善できないケースが増え…

攻めの栄養療法を科学する⑩~【攻めの栄養療法の重要性】

― 高齢者の経口摂取を守るために ― ■ はじめに 日本では急速な高齢化に伴い、要介護高齢者の数が増え続けています。要介護となる主な原因として、 認知症 脳卒中 骨折 高齢者の衰弱(フレイル) などが挙げられ、これらの患者さんの多くは 低栄養 を合併して…

攻めの栄養療法を科学する⑨~【EBMに基づく臨床意思決定】

目の前の患者に「診療ガイドライン」をどう適用するか リハ栄養診療ガイドラインを理解するためには、EBM(Evidence-Based Medicine)=科学的根拠に基づいた医療 の考え方が不可欠です。EBMは「研究エビデンスだけ」で決めるものではなく、次の3つが重なっ…

攻めの栄養療法を科学する⑧~【リハ栄養診療ガイドライン2018】

成人がん・急性疾患の最新エビデンスと、EBMに基づくガイドラインの読み解き方 リハビリテーションと栄養療法は、どちらも患者さんのQOL(生活の質)や回復過程に強く影響します。「リハ栄養診療ガイドライン2018」では、主要4疾患(脳血管疾患/大腿骨近位…

在宅診療セミナーの開催~ 湘南鎌倉総合病院 総合診療内科部長 瀬戸雅美先生を座長に迎えて

在宅診療セミナーの開催について この度、2016年1月16日、三浦半島の医療を牽引されている湘南鎌倉総合病院 総合診療内科部長 瀬戸雅美先生を座長に迎え、逗葉訪問看護ステーションにて特定看護師トレーニングを開始される海老原文さんを演者として、“在宅診…

攻めの栄養療法を科学する⑦~【リハ栄養診療ガイドライン2018】

4つの主要疾患に対する “強化型栄養療法” の意義をわかりやすく解説 在宅医療・リハビリテーションの現場では、栄養状態が患者さんの回復に大きく影響します。そのエビデンスを体系的に整理したのが 「リハ栄養診療ガイドライン2018」 です。 本ガイドライン…

攻めの栄養療法を科学する⑬~【口から食べることをあきらめないために】

食べることは、単なる栄養摂取行為ではありません。 家族と同じ食卓を囲む 食べ物の香り・味・温度・食感を楽しむ 外食というレジャーを楽しむ 人と共有する時間と体験を持つ これらの“付加価値”が、人の活動・参加・生活の質(QOL)を支えています。 高齢者…

攻めの栄養療法を科学する⑥~【診療ガイドラインを“使いこなす”ということ】

――EBMとリハ栄養の実践から考える、臨床判断のあり方―― リハ栄養診療ガイドライン2018が発表されて以来、臨床現場では「どの患者に、どこまで介入すべきか?」という判断場面が増えています。 しかし、ガイドラインは そのまま自動的に当てはめれば良い“マニ…

攻めの栄養療法を科学する⑤~【リハ栄養診療ガイドライン2018のポイントまとめ】

――4疾患に対する最新エビデンスと実践への活かし方―― リハ栄養の実践では、「どの患者に、どの程度の栄養介入を行うべきか?」という判断が常に求められます。 その指針となるのが、リハ栄養診療ガイドライン2018 です。ここでは、ガイドラインが示す重要ポ…

攻めの栄養療法を科学する④~【診療ガイドラインとEBM】

――リハ栄養診療ガイドライン2018をどう使うか―― 医療現場では「エビデンスに基づく医療(EBM)」という言葉が欠かせません。しかし、EBMを“現場で実践する”となると、多職種を巻き込むリハ栄養の領域では特に難しさを感じることもあります。 今回は、「診療…

攻めの栄養療法を科学する③~【攻めの栄養療法をどう実践する?】

――リハ栄養ケアプロセスに沿った実践ステップ―― 低栄養・サルコペニア・フレイルがある患者さんでは、**「食べられるようになったらリハをする」**では遅く、栄養 × リハビリを同時に進める“リハ栄養”が極めて重要です。 中でも今回のテーマである 攻めの栄…