在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

脳動脈瘤とは

患者さんにクモ膜下出血です。

動脈瘤があります。

 

と説明する際に、そもそもクモ膜下出血とはという根本的なお話をさせて頂きます。

まず、脳動脈瘤とはは文字通り、脳の動脈の一部がふくれあがり、「こぶ」になっていることです。「こぶ」の漢字が「瘤」です。

 

よく私は、例えとしてお餅が膨らんだ状態と説明しています。

このお餅が膨らんで神経などを圧迫して症状が出現する場合もありますが、多くはこのお餅が弾けて=動脈瘤が破裂して症状が現れます。
破裂した場合には、すごい勢いで脳の周りに出血します。脳の太い血管は脳の中でなく、脳の周りに張り付くように走っているからです。その外にくも膜がありますので、脳動脈瘤の破裂による出血は、医学的には「くも膜下出血」と呼ばれます。
動脈瘤の一部が脳の中に入り込んでいる場合には「脳出血」となる場合もあります。
くも膜下出血は恐ろしい状態で、手術をしても3分の1程しか元の状態には回復しません。つまり残り3分の2は、助かっても後遺症が残るか、命を落とすことになります。
ですから、脳動脈瘤の場合には「破裂してから治療しよう」という手段は成り立たないことになります。
逆に「破裂する前に治療してしまおう!」という発想になるわけです。
しかし、この破裂する前に治療する。いわゆる未破裂動脈瘤の治療に注意が必要です。
動脈瘤があったとしても、破裂する確率がすごく少なければ放っておけばいいことになりますし、逆に高い確率で破裂するものであれば治療しなければいけません。
治療には、当然リスクがありますので。

 

それでは脳の血管に出来た動脈瘤は毎年何パーセントぐらいの確率で破裂するのでしょうか?
2000年代の初めに海外の有名な医学雑誌に「脳動脈瘤は年間0.05%しか破裂しない」という論文が報告されました。
これは当時の脳外科医に衝撃を与えました。「脳の動脈瘤はあまり破裂しない」と言っているわけですから、「手術などしなくても良い」ということになるわけです。
しかし考えてみれば、「破裂しない」わけがありません。だって現にくも膜下出血の人が毎日のように救急病院に運ばれているのですから。年間0.05%の破裂率は私達脳外科医は、もう少し穏やかな日々を過ごせるかもしれません。


その後、同じグループがさらに詳しく調査したところ、破裂率はもっと高かったことが分かりました(ISUIA Investigators: Lancet 362, 2003)。
とはいっても、年間0.5%から3%ぐらいです。この数字をどう捉えるかには、かなり個人差があります。「たったそれだけか?」と思いますよね。自分は直感的にそう思いました。

しかし、100人受けて0.5-3人落ちる試験を毎年受ける。

これは、その患者さんの年齢を強く考慮すべきとも私は考えます。

50代の患者さんなら、約30回前後受けることになります(日本人の平均寿命は80歳を超えてますので)。

またその話は次回にさせて頂くことにします。