在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

動脈瘤の治療について

未破裂脳動脈瘤における治療法の一つとして、クリッピング術があります。

本治療は長い歴史があり、長期の成績も安定しています。
具体的には、脳と脳のすきまを少しずつ剥離(はくり)し、動脈瘤の根元を「クリップ」ではさむ方法です。話だけ聞くと怖いですね。実際、患者さんの立場になったら、手術の前日は、とても緊張すると思います。私自身も夢で時折手術される側の夢を見ます。少しでも患者さんの緊張を和らげられたらと思う日々です。

しかし、怖いという直感的なことだけで、手術法の選択もまた危険です。脳の重要な動脈にできたこぶです。もしあやまって動脈自体がつまってしまったりしたら、キズぐらいでは済みません。一生、手足の麻痺や言語障害などに苦しむことになるのです。また最近では「脳血管内手術」がよく行われ、テレビや雑誌に出ています。脳血管内手術と普通の手術、どちらが良いのでしょうか?

答えは、一つではありません。それぞれの動脈瘤の位置やサイズ、形、患者さんの年齢などによりベストチョイスは変わると考えます。ここで最も重要なことは、決して一つの方法(クリッピングのみ、または、血管内手術のみ)でしか治療していない施設で治療法選択をしないということです。どうしてもそのドクターが得意とする治療法に偏ってしまいます。しかしそれぞれの方法をバランスよく行うのが最も良い成績につながることが知られています。最初の選択が偏っていては、良い結果が得られないかもしれません。

もし私自身に動脈瘤があったらどういう治療法を受けるかという本音を話させて下さい。正直に言えば、血管内手術が安全にできる「ネックのせまい」動脈瘤であったら、迷わず血管内手術を選択します。さらに、よほど難しくなければ局所麻酔で自分自身でやりたいと考えます。これは血管内手術を信頼しているということかもしれませんし、自分自身ならあきらめもつくという考えです(笑)

現在はネックの広い動脈瘤でも、血管内治療は、様々なデバイスの進化で安全に治療可能です。しかしネックが広い、手術の比較的安全な動脈瘤だったら...?その時は開頭手術を受けます。そして、もし手術をするのなら、広い術野で多方向から動脈瘤とその周囲血管を確認し、MEPというモニター(後で説明します)を使って術中に麻痺が出ているかどうか確認をしながら進める手術を受けたいと思います。また、クリッピング術の経験が多く、治療成績がいいドクターを選びます。何でもそうですが、慣れていることは最も大切です。

しかし、それ以上に大切なのは自分の力量を見極めて「無理をしない」、「引き際が良い」これが「腕が良い」ことの絶対条件と考えます。

さてMEPですが、これは手術中に麻痺が出ているかどうかを知ることが出来る優れたモニターです。術野では一見うまく行っているように見えても、実は裏側で細い血管をつまんでしまっているということもあります。手術中に麻痺の有無がわかるMEPモニター。私ならこれがある施設で信頼できるドクターに通常のクリッピング手術を受けます。