在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

「不穏」に対するアプローチ③ ―薬物的アプローチとその実際―

「不穏な状態が続いてどうにもならない」「環境調整や声かけだけでは限界がある」
そんなとき、薬物的アプローチは現場にとって重要な選択肢のひとつです。

今回は、主にせん妄や**BPSD(認知症に伴う行動・心理症状)**に対する薬物治療について、その基本的な考え方や注意点をお伝えします。


薬物療法は“時間を稼ぐ手段”

薬物的アプローチの基本は、根本治療ではなく一時的な症状緩和の手段であることです。

  • 背景にある身体疾患の治療が整うまでのつなぎ

  • 療養環境を調整するまでの時間稼ぎ

  • 精神疾患うつ病統合失調症など)が疑われる場合の精神科受診までの橋渡し

薬によって「不穏」という状況を一時的に落ち着かせ、治療や生活支援をスムーズに進めるための準備時間を作るというイメージが近いでしょう。


◆ 高齢者における薬物使用の原則

不穏の多くは高齢者にみられるため、次のポイントは特に重要です。

  • 必要最小限の用量・期間で使う

  • 効果と副作用を丁寧に見極める

  • 漫然と継続せず、見直す機会を持つ

薬物治療は「最小限かつ最短期間で」の原則が基本です。


◆ 保険適応の壁と現場の工夫

実は、せん妄やBPSDに対して明確に保険適応がある薬はごくわずかです。

唯一、**チアプリド(グラマリール®)がせん妄に対する適応を有していますが、
現場では、症状に応じて以下のような
抗精神病薬の「適応外使用」**が一般的となっています:

これらの薬剤は、2011年に厚労省より「器質性疾患に伴うせん妄・精神運動興奮状態・易怒性」への使用を審査上容認するとの通知が出されており、臨床使用はしやすくなりました。

しかしながら、保険適応が通っているわけではないため、使用に際しては

が欠かせません。


◆ 倫理的な配慮も忘れずに

せん妄や認知症の患者さんでは、理解力や判断力が大きく低下していることがあります。

そうした中で薬物を使うことの是非や、本人の意思決定が困難な状況下での治療介入にあたっては、
倫理的な側面にも十分配慮することが必要です。
この点もご家族とよく話し合いながら進めていくことが大切です。


◆「向精神薬」と「抗精神病薬」の違い

※ちょっとした豆知識
混同されがちですが、以下のような違いがあります。


◆ まとめ

  • 薬物療法は不穏状態を一時的に安定させる手段

  • 使い方には慎重な判断と家族への説明が必須

  • 非薬物的アプローチとの併用が原則

  • 保険適応外であっても、臨床上の必要性をもって正しく使うことが大切

不穏に対する薬物治療は、患者さんの生活の質と安全を守るための“手段の一つ”です。
薬を「避けるもの」と捉えるのではなく、「適切に使えば助けになるもの」として、
バランスの取れた判断が求められます。

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