在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

在宅医療における認知症について29~海外データからみるコリンエステラーゼ阻害薬の「現実解」

画像が生成されましたまず結論

  • 認知機能検査(ADAS-cog)の平均改善は2~3点程度で、臨床的に意味があるとされる4点以上には届かないことが多い。

  • “効いた”と実感できる人は約10人に1人(NNT≈10)。著効は約40人に1人(NNT≈42)

  • 副作用が出る人の割合(NNH≈12)は、効く人の割合と同じくらい

  • 3剤(ドネペジル/ガランタミン/リバスチグミン)の有効性・安全性の差は明確でない → 基本は「使い慣れた・コストの安い薬」で十分。

  • 中止で基礎疾患の進行が加速するエビデンスはない(むしろ服用中のみ差がつき、中止後に差が消える報告)。


そもそも ADAS-cog とは?

  • 70点満点、点数が高いほど悪化

  • 4点以上の差臨床的有意差とみなすのが一般的。

  • メタ解析・コクランレビューでは、コリンエステラーゼ阻害薬の平均改善は2.3点前後
    → 多くの患者さんで**“体感できる改善”までは届きにくい**。


数字でみる期待値

  • NNT≈10:10人投与して1人が臨床的有意差(ADAS-cogで4点以上)

  • NNT(著効)≈42:40人に1人が全般状態で2段階以上改善

  • NNH≈1212人に1人は有害事象で困る
    → 「効く可能性」と「副作用の可能性」が拮抗。処方は個別の利得/不利益の見極めが大切。


「やめたら一気に悪化する?」への答え

  • 第Ⅲ相試験では、投与中は実薬群が良好でも、中止6週後に群間差が消失

  • これは病勢そのものを変えていない(服用中のみ症状差)ことを示唆。

  • したがって副作用が疑われる時は一度中止が推奨(添付文書上の対処と整合)。

  • 不安があれば1–2週で再診し、必要なら再開という“安全弁”をセットに。


どの薬を選ぶ?

  • 3剤間で明確な優劣差なし

  • 費用/服薬しやすさ/既往歴(消化性潰瘍・徐脈など)/家族の支援体制で選択。

  • NICEの方針と同様、コスト効率の良い薬からが合理的。


実践メモ(在宅・外来)

  1. 開始前

    • 目標:**“治す”でなく“進行の緩和”**と明確化

    • 期待値:効くのは10人に1人前後、副作用も同程度

  2. 評価(4~12週)

    • できれば同一テスターでMMSE/ADAS-cog、家族評価(CIBICなど)

    • 体感改善なし+副作用ありなら減量/中止を検討

  3. 中止トライアル

    • 副作用時は一旦中止1–2週で再診(急変時は再開)

    • 認知・ADL急落の再現性がある場合のみ継続の意義


まとめ

  • コリンエステラーゼ阻害薬は**「効く人には効く」**が、全員に大きな効果を期待する薬ではない

  • NNT≈10/NNH≈12という数字を患者・家族と共有し、目的と撤退基準を合意してから使う。

  • 3剤の差は小さいため、安全・費用・継続性で選ぶのが実用的。

  • 副作用が疑わしければ一度止める——“やめたら取り返しがつかない”という発想には根拠が薄い。


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