まず結論
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認知機能検査(ADAS-cog)の平均改善は2~3点程度で、臨床的に意味があるとされる4点以上には届かないことが多い。
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“効いた”と実感できる人は約10人に1人(NNT≈10)。著効は約40人に1人(NNT≈42)。
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副作用が出る人の割合(NNH≈12)は、効く人の割合と同じくらい。
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3剤(ドネペジル/ガランタミン/リバスチグミン)の有効性・安全性の差は明確でない → 基本は「使い慣れた・コストの安い薬」で十分。
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中止で基礎疾患の進行が加速するエビデンスはない(むしろ服用中のみ差がつき、中止後に差が消える報告)。
そもそも ADAS-cog とは?
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70点満点、点数が高いほど悪化。
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4点以上の差で臨床的有意差とみなすのが一般的。
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メタ解析・コクランレビューでは、コリンエステラーゼ阻害薬の平均改善は2.3点前後。
→ 多くの患者さんで**“体感できる改善”までは届きにくい**。
数字でみる期待値
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NNT≈10:10人投与して1人が臨床的有意差(ADAS-cogで4点以上)
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NNT(著効)≈42:40人に1人が全般状態で2段階以上改善
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NNH≈12:12人に1人は有害事象で困る
→ 「効く可能性」と「副作用の可能性」が拮抗。処方は個別の利得/不利益の見極めが大切。
「やめたら一気に悪化する?」への答え
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第Ⅲ相試験では、投与中は実薬群が良好でも、中止6週後に群間差が消失。
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これは病勢そのものを変えていない(服用中のみ症状差)ことを示唆。
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したがって副作用が疑われる時は一度中止が推奨(添付文書上の対処と整合)。
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不安があれば1–2週で再診し、必要なら再開という“安全弁”をセットに。
どの薬を選ぶ?
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3剤間で明確な優劣差なし。
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費用/服薬しやすさ/既往歴(消化性潰瘍・徐脈など)/家族の支援体制で選択。
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NICEの方針と同様、コスト効率の良い薬からが合理的。
実践メモ(在宅・外来)
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開始前
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目標:**“治す”でなく“進行の緩和”**と明確化
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期待値:効くのは10人に1人前後、副作用も同程度
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評価(4~12週)
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できれば同一テスターでMMSE/ADAS-cog、家族評価(CIBICなど)
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体感改善なし+副作用ありなら減量/中止を検討
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中止トライアル
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副作用時は一旦中止→1–2週で再診(急変時は再開)
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認知・ADL急落の再現性がある場合のみ継続の意義
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まとめ
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コリンエステラーゼ阻害薬は**「効く人には効く」**が、全員に大きな効果を期待する薬ではない。
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NNT≈10/NNH≈12という数字を患者・家族と共有し、目的と撤退基準を合意してから使う。
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3剤の差は小さいため、安全・費用・継続性で選ぶのが実用的。
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副作用が疑わしければ一度止める——“やめたら取り返しがつかない”という発想には根拠が薄い。