在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

在宅医療における認知症について39~抗認知症薬はBPSDに効くのか? ― 科学的根拠を検証する

画像が生成されました


認知症の行動・心理症状(BPSD)は、物忘れなどの中核症状がきっかけで生じることが多いため、
「認知機能を改善する抗認知症薬を使えば、間接的にBPSDも改善できるのでは?」
という考え方があります。

日本の「BPSDガイドライン(第2版)」でも、抗認知症薬をBPSDへの第一選択薬として挙げています。
しかし、本当に科学的根拠があるのでしょうか?


海外ガイドラインとの違い

もし確かな根拠があるなら、各国のガイドラインも同様になっているはずです。


臨床試験とレビューの結果

精神症状をもつアルツハイマー病患者を対象にした研究をまとめると:

  • コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル・リバスチグミンなど)
    → ごく軽度の改善効果を示す報告もあるが、無効とする研究も多い

  • メマンチン
    → 系統的レビューでも「BPSDへの効果は期待できない」と結論づけられている

また、コリンエステラーゼ阻害薬では 有害事象による中断率が有意に高い(相対リスク1.64) ことも報告されています。


ガイドラインに抗認知症薬が載った理由

BPSDガイドラインで抗認知症薬が第一選択薬とされた理由は大きく2つ:

  1. 系統的レビューで「小さな効果」が示された

  2. 第1版からの踏襲

つまり、強固な科学的根拠があるわけではなく、過去の流れをそのまま引き継いだ側面が大きいのです。


個別の臨床試験の結果(例)

文献 対象 薬剤 結果
J Am Geriatr Soc. 2001 BPSDありアルツハイマー ドネペジル 無効
Neurology. 2004 BPSDありアルツハイマー ドネペジル 有効
N Engl J Med. 2007 強い焦燥性興奮あり ドネペジル 無効
BMJ. 2005 強い焦燥性興奮あり リバスチグミン 無効
PLoS ONE. 2012 強い焦燥性興奮あり メマンチン 無効

このように、研究ごとに結果はバラバラで、「確実に効く」とは言えないのが現状です。


まとめ

  • 認知症薬がBPSDに有効かどうかは、科学的にまだ不確実

  • 軽度の改善を示す研究もあるが、無効とする研究も多い

  • 有害事象による中断リスクは無視できない

  • 海外ガイドラインでは抗認知症薬は選択肢にすら入っていない

「まず抗認知症薬を」とする日本のガイドラインは、根拠が十分とは言えない というのが現状です。

BPSDへの対応は、薬よりもまず 原因の除外・環境調整・非薬物療法 を優先し、薬物治療は慎重に検討する必要があります。


📺 在宅医療・認知症ケア・呼吸器疾患の解説をYouTubeで配信中!
内田賢一 - YouTubeチャンネル

🏷 ハッシュタグ
#認知症 #アルツハイマー病 #BPSD #抗認知症薬 #在宅医療 #さくら在宅クリニック