65歳以上の方が**「気分が落ち込む」「何もやる気がしない」と訴えた場合、単なるうつ病とは限りません。
実は、その背後に認知症性疾患**が潜んでいることがあります。
高齢者の「うつ」と「認知症」は症状が重なりやすく、**鑑別(見分けること)**が非常に重要です。
💡 うつ病の特徴
うつ病は、気分の落ち込みが数週間以上続く精神疾患です。
以下の9つの症状のうち5つ以上が、1日中かつ2週間以上続く場合は、うつ病を疑います。
① うつ気分
「憂うつ」「気分が晴れない」などの状態が、ほぼ一日中続きます。
ただし、孫が来たときだけ明るくなるなど、気分に波がある場合はうつ病の典型とは言えません。
② 興味・意欲の低下
趣味や外出、食事など、本来楽しいことが楽しく感じられません。
たとえば旅行に誘っても「楽しくない」「申し訳ない」と感じてしまうのが特徴です。
③ 食欲低下
食べても味がせず、体重が減少します。悪性疾患がないのにやせていく場合、うつ病のサインかもしれません。
④ 睡眠障害
夜中に何度も目が覚め、熟睡感が得られません。悪夢を見ることもあります。
⑤ 思考・行動の抑制(または焦燥)
動作や会話のスピードが落ちます。
「考えがまとまらない」「体が重い」と感じ、焦りを伴うこともあります。
⑥ 易疲労感・気力減退
朝からずっと疲れているように感じます。「やる気が出ない」状態が続きます。
⑦ 無価値感・罪悪感
「自分は迷惑をかけている」「生きている価値がない」と思い込みます。
重症では「貧困妄想」「心気妄想」「罪業妄想」に発展します。
⑧ 思考力・集中力の低下
家事や仕事がはかどらず、決断もできなくなります。
朝食のメニューを決められないまま夕方になるようなケースも。
⑨ 自殺念慮(希死念慮)
「生きていても仕方がない」「死んだほうがいい」と考えるようになります。
精神科入院中であっても自殺を図ることがあるため、慎重な観察と早期介入が必要です。
🧠 認知症との違いは?
高齢者のうつ病では、「物忘れ」「集中力低下」「意欲低下」などが目立つため、
アルツハイマー病やレビー小体型認知症などと見分けがつきにくいことがあります。
以下は代表的な鑑別ポイントです。
🩺 鑑別の考え方
米国精神医学会の診断基準(DSM-5)でも、「うつ病を診断する前に認知症などを除外すること」が求められています。
しかし実際には、認知症の診断基準そのものが完全ではなく、両者の区別が難しいことも少なくありません。
このため臨床現場では、
というステップが推奨されます。
実際、NICE(英国)・米国神経学会・日本神経学会など多くのガイドラインでも、
「認知症を診断する前にうつ病を除外する」ことが強く勧められています。
🗝 まとめ
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高齢者のうつ症状の背景には、認知症が隠れていることがある
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うつ病は治療可能性が高く、早期発見・治療が重要
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鑑別が難しい場合は、まずうつ病を念頭に置く
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気分の変動や意欲の有無、日内変動に注目することがポイント
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内田賢一 - YouTubeチャンネル
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