在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

在宅医療における認知症について41~うつと認知症 〜似て非なる2つの疾患〜

画像が生成されました65歳以上の方が**「気分が落ち込む」「何もやる気がしない」と訴えた場合、単なるうつ病とは限りません。
実は、その背後に
認知症性疾患**が潜んでいることがあります。
高齢者の「うつ」と「認知症」は症状が重なりやすく、**鑑別(見分けること)**が非常に重要です。


💡 うつ病の特徴

うつ病は、気分の落ち込みが数週間以上続く精神疾患です。
以下の9つの症状のうち5つ以上が、1日中かつ2週間以上続く場合は、うつ病を疑います。

① うつ気分

「憂うつ」「気分が晴れない」などの状態が、ほぼ一日中続きます。
ただし、孫が来たときだけ明るくなるなど、気分に波がある場合はうつ病の典型とは言えません。

② 興味・意欲の低下

趣味や外出、食事など、本来楽しいことが楽しく感じられません。
たとえば旅行に誘っても「楽しくない」「申し訳ない」と感じてしまうのが特徴です。

③ 食欲低下

食べても味がせず、体重が減少します。悪性疾患がないのにやせていく場合、うつ病のサインかもしれません。

睡眠障害

夜中に何度も目が覚め、熟睡感が得られません。悪夢を見ることもあります。

⑤ 思考・行動の抑制(または焦燥)

動作や会話のスピードが落ちます。
「考えがまとまらない」「体が重い」と感じ、焦りを伴うこともあります。

⑥ 易疲労感・気力減退

朝からずっと疲れているように感じます。「やる気が出ない」状態が続きます。

⑦ 無価値感・罪悪感

「自分は迷惑をかけている」「生きている価値がない」と思い込みます。
重症では「貧困妄想」「心気妄想」「罪業妄想」に発展します。

⑧ 思考力・集中力の低下

家事や仕事がはかどらず、決断もできなくなります。
朝食のメニューを決められないまま夕方になるようなケースも。

自殺念慮希死念慮

「生きていても仕方がない」「死んだほうがいい」と考えるようになります。
精神科入院中であっても自殺を図ることがあるため、慎重な観察と早期介入が必要です。


🧠 認知症との違いは?

高齢者のうつ病では、「物忘れ」「集中力低下」「意欲低下」などが目立つため、
アルツハイマー病やレビー小体型認知症などと見分けがつきにくいことがあります。
以下は代表的な鑑別ポイントです。

症状 うつ病 アルツハイマー 血管性認知症 レビー小体型認知症 前頭側頭葉変性症
気分の落ち込み あり なし なし あり なし
物忘れ 「過剰に訴える」傾向 一貫してみられる 一貫してみられる 変動あり 初期は少ない
変動 日によって気分が変わる なし なし はっきりあり はっきりあり
パーキンソン症状 なし 軽度〜末期 血管障害があれば出現 高頻度(約77%) 亜型による
その他 意欲低下が中心 記憶障害が中心 歩行障害など 幻視・睡眠障害あり 感情の抑制・脱抑制あり

🩺 鑑別の考え方

米国精神医学会の診断基準(DSM-5)でも、「うつ病を診断する前に認知症などを除外すること」が求められています。
しかし実際には、認知症の診断基準そのものが完全ではなく、両者の区別が難しいことも少なくありません。

このため臨床現場では、

「まず治療可能性のあるうつ病を疑い、治療反応が乏しければ認知症の可能性を考える」

というステップが推奨されます。

実際、NICE(英国)・米国神経学会・日本神経学会など多くのガイドラインでも、
認知症を診断する前にうつ病を除外する」ことが強く勧められています。


🗝 まとめ

  • 高齢者のうつ症状の背景には、認知症が隠れていることがある

  • うつ病は治療可能性が高く、早期発見・治療が重要

  • 鑑別が難しい場合は、まずうつ病を念頭に置く

  • 気分の変動や意欲の有無、日内変動に注目することがポイント


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