在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

在宅医療における認知症について48~【抗精神病薬】 ―BPSDに「効く」が、「危険」も伴う薬―

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認知症のBPSD(行動・心理症状)──とくに興奮・暴言・幻覚・妄想などが強い場合、
医師が処方を検討する薬のひとつに抗精神病薬があります。

抑肝散やトラゾドンに比べると、抗精神病薬確実な効果が期待できる一方で、
重大な副作用リスクを伴う薬であることを忘れてはなりません。


抗精神病薬の効果と危険性

BPSDに対する非定型抗精神病薬(リスペリドン、オランザピン、クエチアピンなど)の効果を検証した
無作為化二重盲検試験のレビューでは、確かに興奮・攻撃性・幻覚などの症状が有意に改善
しました。

しかし同時に、以下のリスク上昇が明らかになっています。

つまり、「効くが危険」という薬なのです。


FDAの警告:死亡リスクは1.6〜1.7倍

2005年、アメリカ食品医薬品局FDA)は、
非定型抗精神病薬認知症患者に使用すると死亡率がプラセボの1.6〜1.7倍
になると警告しました。
2008年には定型抗精神病薬ハロペリドールなど)にも同様の警告が拡大されました。

死亡というのは「究極の有害事象」であり、これを受けて海外では処方が大幅に減少しました。
たとえばフランスでは、認知症患者への抗精神病薬処方率が
2003年:14.2% → 2011年:10.2%(約3割減)に低下。

一方、日本では同期間に21.3%→21.3%と変化なし。
この点は今なお課題といえます。


■ 死亡リスクの実数

180日以上抗精神病薬を使用した場合の死亡率は以下の通りです(JAMA Psychiatry, 2015)。

薬剤名 死亡率 NNH(害を受けるまでの人数)
ハロペリドール 3.8% 26人に1人
リスペリドン 3.7% 27人に1人
オランザピン 2.5% 40人に1人
クエチアピン 2.0% 50人に1人

また、10〜12週間の短期間試験でも、120人に1人が薬によって死亡したと報告されています。
短期間でも、リスクは「ゼロではない」のです。


■ 臨床での位置づけ

抗精神病薬は、重度の興奮・暴力行為・幻覚・妄想などがあり、
**他害・自害の恐れがある場合の“最終手段”**として使用されます。

つまり、

「薬を使わないと介護者が危険」
「暴力的行動で在宅療養の継続が難しい」
このような場合に限定すべき薬です。

漫然と長期投与を続けることは避け、最短期間での漸減・中止を目指すべきです。


■ まとめ

  • 抗精神病薬確実な効果があるが、死亡を含むリスクがある

  • FDA警告以降、海外では使用が減少、日本は依然高水準

  • 使用は「やむを得ない場合」に限定し、短期間での中止を目指す

  • 家族・介護者への説明と同意が不可欠

抑肝散やトラゾドンといった比較的安全な選択肢をまず検討し、
**抗精神病薬は“最後のカード”**として慎重に使うことが求められます。


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