在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

攻めの栄養療法を科学する23~はじめに|「攻めの栄養療法」は万能ではない

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**「攻めの栄養療法」**とは、
体重や筋肉量を増やすことを目的に、
エネルギー消費量に加えて“エネルギー蓄積量”を考慮して必要量を設定する栄養療法です。

ただし、単純にエネルギー量を増やせばよいわけではありません。

これらを考慮せずに行うと、

  • 病態の悪化

  • 代謝性合併症

  • 脂肪のみの増加

を招く可能性があります。

特に、リハビリや運動療法を併用しない「攻めの栄養療法」は、筋肉ではなく脂肪を増やすだけになりやすく、必ずしも患者の利益にはなりません。

そのため、「攻めの栄養療法」は
👉 すべての患者に適応される治療ではない
👉 禁忌を理解したうえで、適切な対象に限定して実践する
ことが重要です。

本稿では、攻めの栄養療法を行う際に必ず理解しておくべき禁忌事項を、特に重要な「低栄養・飢餓状態」を中心に解説します。


低栄養患者における禁忌①|飢餓状態

飢餓とは何か

飢餓とは、社会的・経済的要因や疾患を背景に、
長期間にわたり栄養摂取が不足し、慢性的な栄養障害をきたしている状態を指します。

飢餓状態では、体内のエネルギー利用は以下のように変化します。

  1. グリコーゲン分解
     肝臓に貯蔵されたグリコーゲンからグルコースを供給
     → しかし貯蔵量は少なく、約1日で枯渇

  2. 筋たんぱく分解
     筋たんぱくが分解され、アミノ酸(主にアラニン)が放出
     → 肝臓で糖新生され、全身のエネルギー源となる

  3. 脂質分解・ケトン体利用
     飢餓が長期化すると脂肪分解が進み、
     脂肪酸 → β酸化 → ケトン体 が産生され、主要なエネルギー源となる

この状態に、急激な栄養投与を行うことが最大のリスクとなります。


飢餓状態で最も注意すべき合併症|Refeeding syndrome(再摂食症候群)

Refeeding syndrome(RFS)とは

**Refeeding syndrome(RFS)**とは、
慢性的な飢餓状態にある患者に対して、大量の栄養(特に糖質)を急速に投与した際に生じる、重篤な代謝合併症です。

急激な栄養投与により、

が起こり、以下の異常をきたします。

その結果、

など、致死的な合併症を引き起こす可能性があります。


Refeeding syndrome のリスク評価(NICEガイドラインより)

RFSリスク因子の分類

▶ At Risk

  • 5日以上、ほとんど食事を摂取していない

▶ High Risk(以下のうち1項目以上)

  • BMI < 16.0 kg/m²

  • 過去3~6か月で 15%以上の意図しない体重減少

  • 10日以上ほとんど食事を摂取していない

  • 栄養再開前の
     - 低カリウム血症

▶ High Risk(以下のうち2項目以上)

  • BMI < 18.5 kg/m²

  • 過去3~6か月で 10%以上の意図しない体重減少

  • 5日以上ほとんど食事を摂取していない

  • アルコール依存の既往

  • インスリン抗がん剤、制酸薬、利尿薬の使用

▶ Extremely High Risk

  • BMI < 14.0 kg/m²

  • 15日以上ほとんど食事を摂取していない


飢餓状態での栄養投与の基本原則

栄養開始前に行うべきこと

初期エネルギー投与量

  • 10 kcal/kg/日から開始

  • 重症例(BMI <14.0 kg/m²)では 5 kcal/kg/日

  • 4~7日かけて慎重に増量

👉 飢餓状態では、「攻める」より「守る」ことが最優先です。


それでも「攻めの栄養療法」が可能になるタイミング

重要なのは、
RFSを恐れて栄養を与えないことではありません。

ことを確認しながら、
👉 段階的に「攻めの栄養療法」へ移行することは可能です。

つまり、

  • ❌ 飢餓状態でいきなり攻める → 危険

  • ⭕ 飢餓を是正し、状態を見極めてから攻める → 適切

という判断が求められます。


まとめ|「攻めの栄養療法」は“適応と順序”がすべて

  • 攻めの栄養療法は、適切に使えば強力な治療手段

  • しかし、飢餓・重度低栄養では明確な禁忌・注意点がある

  • 特に Refeeding syndrome のリスク評価は必須

  • 「いつ」「誰に」「どの順序で」行うかが最重要

攻める前に、守る。
それができて初めて、攻めの栄養療法は患者の力になります。

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