在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

攻めの栄養療法を科学する24~侵襲|高度侵襲下では「攻めの栄養療法」は禁忌

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侵襲とは何か

侵襲とは、
重症感染症・大手術・多発外傷・熱傷など、
生体を傷害し、生体恒常性を大きく乱す刺激を指します。

侵襲が加わると、生体内では以下が生じます。

  • 内因性エネルギー供給(endogenous energy supply)の増大

  • ストレスホルモン・炎症性サイトカインの大量分泌

一方、栄養療法は**外因性エネルギー供給(exogenous energy supply)**に相当します。
生体のエネルギー需要は、
👉 内因性+外因性エネルギーの合計で満たされる
という点が重要です。

「必要量=外因性投与」は危険

侵襲下で、
エネルギー必要量と同量の外因性エネルギーを投与すると、
実質的には overfeeding(過剰栄養) となる可能性があります。

その結果、最も問題となる合併症が 高血糖 です。


侵襲時に高血糖が起こる理由

侵襲時には、

  • 肝臓・骨格筋のグリコーゲンが消費される

  • 肝グリコーゲンは 12~24時間程度で枯渇

  • その後は

を材料とした 糖新生 によりグルコースが供給されます。

飢餓時と異なる重要な点は、

が阻害され、高血糖をきたしやすいことです。

高血糖がもたらすリスク

  • 好中球機能低下

  • 細胞内殺菌能低下

  • 免疫能低下

これにより 感染症リスクが増大するため、
👉 目標血糖値は 180 mg/dL 以下
に管理することが推奨されます。


侵襲時の栄養投与の目安

  • エネルギー必要量

    • 間接熱量計

    • または 25~30 kcal/kg/day(簡易式)

  • たんぱく質投与量

    • 1.2~2.0 g/kg/day(実測体重)

    • 腎機能を評価しながら調整

ただし、重要なのは
👉 侵襲による低栄養は「原因治療」が最優先
という点です。

侵襲の根源(感染・出血・炎症・外科的侵襲など)が
適切にコントロールされなければ、
栄養療法のみで低栄養を改善することは困難です。

そのため、
👉 高度侵襲下における「攻めの栄養療法」は原則として禁忌
と考えます。


悪液質|「攻めてはいけない」代表的病態

悪液質とは

**悪液質(cachexia)**は、
通常の栄養療法では改善が困難で、

  • 著明な骨格筋量減少

  • 機能障害の進行

を伴う、慢性炎症を背景とした代謝異常症候群です。

主な原因疾患には以下があります。


がん悪液質のステージと栄養療法

がん悪液質は以下の3段階に分類されます。

① 前悪液質(Pre-cachexia)

  • 慢性炎症

  • 軽度の体重減少

  • 食欲不振

👉 早期介入が最も重要なステージ

  • エネルギー:25~30 kcal/kg/day

  • たんぱく質:1.0~1.5 g/kg/day

定期的な評価を行いながら、
攻めの栄養療法も条件付きで可能です。


② 悪液質(Cachexia)

  • 明らかな体重減少

  • 筋肉量減少

  • 身体機能低下

病態に応じて、
症状緩和を意識した栄養介入が中心となります。


③ 不応性悪液質(Refractory cachexia)

  • 急速に進行するがん

  • 抗がん治療への抵抗性

  • 余命が限られた状態

この段階では、

  • 経管栄養 → 下痢・腹部膨満・嘔吐

  • 静脈栄養 → 浮腫・腹水・胸水・高血糖

などにより、QOLを著しく低下させる可能性があります。

👉 不応性悪液質では、栄養状態改善を目的とした「攻めの栄養療法の適応はない」
と考えられます。


まとめ|侵襲・悪液質は「攻めない勇気」が必要

  • 高度侵襲下では
    → 内因性エネルギーが優位
    → overfeeding・高血糖リスクが高い

  • 悪液質、とくに不応性悪液質では
    → 栄養投与がQOL低下につながる可能性

「栄養を入れること=善」ではない。
病態を見極め、「攻めない判断」も栄養療法の重要な一部です。

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