在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

攻めの栄養療法を科学する26~各種疾患・合併症における禁忌事項

 


慢性心不全|「増やす栄養」と「抑える栄養」のバランスが鍵

慢性心不全とは

心不全は、

「心臓に器質的・機能的異常が生じ、心ポンプ機能の代償機構が破綻した結果、
呼吸困難・倦怠感・浮腫が出現し、運動耐容能が低下する臨床症候群」

と定義されます。

慢性心不全における栄養管理の柱は、

  • 体液バランス(ナトリウム管理)

  • 適正なエネルギー・たんぱく質量の確保

です。


慢性心不全における栄養量の基本

エネルギー・たんぱく質

サルコペニアやフレイルを合併しやすい慢性心不全では、

  • エネルギー:30 kcal/kg/day 以上

  • たんぱく質:1.2~1.5 g/kg/day

が推奨されています。

腎機能障害を伴う場合の注意点

ただし、

  • eGFR < 45 mL/分/1.73m²(CKD G3b 以上)

を認める場合は、

へ制限する必要があります。

👉 腎機能を無視した高たんぱく設定は禁忌
であり、「攻めの栄養療法」の落とし穴となります。


ナトリウム(塩分)管理の考え方

ナトリウムは細胞外液の浸透圧維持に関与するため、
長期的な過剰摂取は血管内水分量を増加させ、うっ血を助長します。

塩分摂取基準

  • 男性:7.5 g/日未満

  • 女性:6.5 g/日未満

  • 高血圧・CKD 合併例:男女とも 6.0 g/日未満

「減塩しすぎ」にも注意

一方で、

  • 極端な減塩

  • 味気ない食事

食欲低下 → 低栄養 を招くリスクがあります。

👉 心不全では
「減塩」と「食べられること」の両立
が非常に重要です。


心不全における「攻めの栄養療法」の注意点

  • るい痩・サルコペニアを伴う心不全患者では
    十分なエネルギー確保が重要

  • しかし
    腎機能障害を無視した高たんぱくは避ける

  • 高エネルギー食により
    → 副食由来の塩分増加にも注意

心不全では、
👉 「攻めすぎ」も「守りすぎ」も失敗につながる
という点が特徴です。


肥満症|「攻めの栄養療法」は原則適応外

肥満症の定義

肥満は、エネルギー摂取と消費のアンバランスにより
脂肪が過剰に蓄積した状態です。

  • BMI ≥ 25 kg/m²:肥満

  • 健康障害を伴う場合:肥満症

  • BMI ≥ 35 kg/m²:高度肥満症

肥満症は、

など、多くの疾患を合併します。


肥満症における栄養療法の基本方針

減量目標

  • 肥満症:現体重の 3%以上

  • 高度肥満症:5~10%以上

エネルギー設定

  • 肥満症:
    25 kcal/kg(標準体重)/day

  • 高度肥満症:
    20~25 kcal/kg(標準体重)/day 以下

👉 運動療法の併用が必須

たんぱく質

  • 1.0 g/kg(標準体重)/day

  • エネルギー比:20%以下


サルコペニア肥満たんぱく質

高齢者のサルコペニア肥満では、

  • 低カロリー × 低たんぱく食(0.8 g/kg)
    → 筋肉量は減少

  • 低カロリー × 高たんぱく食(1.2 g/kg)
    筋肉量は増加

という報告があります。

👉 肥満症であっても、
たんぱく質を削りすぎることは禁忌です。


肥満症における「攻めの栄養療法」の禁忌

  • 26 kcal/kg(標準体重)/day 以上のエネルギー設定

  • たんぱく質

    • 0.8 g/kg(標準体重)/day 未満

これらは、

  • 脂肪増加

  • 代謝異常の悪化

を招くため、避けるべきです。


まとめ|心不全と肥満症は「正反対の判断」が必要

  • 慢性心不全
    エネルギーは守りつつ確保、塩分と腎機能に配慮

  • 肥満症
    エネルギー制限が原則、たんぱく質は維持

同じ「栄養療法」でも、疾患により正解は正反対です。
病態を見極めたうえで、「攻める」「攻めない」を判断することが重要です。

 
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