在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

神経障害性疼痛疼痛を科学する4~「普通の触れ方が痛い」のはなぜ? — 神経障害性疼痛のメカニズムを理解する

「普通の触れ方が痛い」のはなぜ?
— 神経障害性疼痛のメカニズムを理解する

 
衣服が触れるだけで激しい痛みを感じる、何もしていないのに電撃のような痛みが走る——。このような「神経障害性疼痛」は、通常の鎮痛薬が効きにくく、在宅療養の質を大きく損なうことがあります。なぜこのような痛みが起きるのか、そのメカニズムを知ることが、より良いケアへの第一歩です。
侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛の違い

通常の痛み(侵害受容性疼痛)は、組織への傷害刺激が末梢神経→脊髄→脳幹→脳へと伝わって認知されます。一方、神経障害性疼痛は神経系自体が傷ついたり機能異常をきたした状態で生じる痛みです。侵害刺激がなくても痛みが起き、しかも通常の痛み止めが効きにくいことが特徴です。

主な原因
神経損傷・炎症・虚血・代謝異常・圧迫・脱髄疾患
典型症状
自発痛・アロディニア・痛覚過敏・灼熱感・電撃痛
薬剤の特徴
NSAIDs・アセトアミノフェンが効きにくい。プレガバリン・SNRIなど専用薬が有効
在宅での頻度
糖尿病性神経障害・帯状疱疹後神経痛・がん性神経痛など多い
 末梢神経系での変化

神経が損傷を受けると、末梢神経・後根神経節細胞にNaチャネルの発現が増加し、侵害刺激がなくても異所性の活動電位が自然発生するようになります。これが自発痛の原因の一つです。

1
 
Naチャネル・Caチャネルの発現増加
神経損傷部位・後根神経節細胞で発現が亢進し、異所性興奮が発生。触刺激だけで脊髄後角への過剰な情報伝達が起こる。
2
 
Aβ線維による誤った侵害情報伝達
本来は触覚を伝えるAβ線維が、脊髄後角に侵害受容性神経伝達物質を分泌するようになる。これがアロディニア(触れると痛い)の主要機序。
3
 
TRP受容体・ATP受容体の活性化
カプサイシン受容体(TRPV1)などが神経障害時に活性化し、自発痛や痛覚過敏に関与する。
4
交感神経依存性疼痛(SMP)
損傷神経にα2アドレナリン受容体が発現し、交感神経から放出されるノルアドレナリンで末梢神経が興奮する。ストレスや寒冷で痛みが増悪する機序。
 中枢神経系での変化(中枢感作)

末梢からの異常な入力が続くと、脊髄後角の神経細胞が変化します。これを中枢感作と呼び、慢性化・難治化の重要な背景です。

 中枢感作で起こること
  • Wind-up現象:C線維の反復刺激で脊髄後角の興奮性が短時間で急増する
  • 長期増強(LTP):シナプス結合の感受性が長期間(月単位)にわたり増大する
  • NMDA受容体の活性化:通常は興奮しないNMDA受容体が過剰に働き、脊髄後角の感作が維持される
  • ミクログリア・アストロサイトの活性化:神経細胞の支持組織が炎症性変化を起こし疼痛を維持・増幅させる
下降性抑制系の機能低下

脳には生理的に「痛みにブレーキをかける仕組み(下降性抑制系)」があります。この調節にはオピオイド受容体、セロトニン作動性受容体、アドレナリン作動性受容体が関与しています。神経障害性疼痛ではこの抑制機能が低下するため、痛みにブレーキがかからなくなります。これがオピオイド(医療用麻薬)が効きにくい理由の一つでもあります。

在宅ケアへの示唆:神経障害性疼痛では通常の鎮痛薬だけでなく、プレガバリン・ガバペンチン(Caチャネルα2δリガンド)、SNRI、三環系抗うつ薬など中枢感作に作用する薬剤を組み合わせることが重要です。また、非薬物療法(リハビリ・温熱・認知行動療法など)も有効です。
在宅医療で神経障害性疼痛が疑われる場面
糖尿病性末梢神経障害帯状疱疹後神経痛がん性神経痛脊髄損傷後疼痛脳卒中後疼痛手術後慢性疼痛化学療法後神経障害

「触れると痛い」「衣服が当たるだけで激痛」「じっとしていても焼けるような痛みがある」といった訴えは、神経障害性疼痛のサインです。在宅での問診・フィジカルアセスメントでこれらに気づき、早期に適切な薬剤調整・多職種連携につなげることが、療養者のQOL向上に直結します。

CLINICAL TIPS
  • アロディニア(触覚が痛い)は神経障害性疼痛の重要なサイン — 問診で積極的に確認する
  • NSAIDs・アセトアミノフェンが効かない慢性痛 → 神経障害性疼痛を疑い薬剤を見直す
  • プレガバリン・SNRI・三環系抗うつ薬などが第一選択薬として推奨される
  • 中枢感作が進むほど治療が困難になるため、早期介入が重要
  • 非薬物療法(温熱・TENS・心理的アプローチ)も組み合わせてQOLを高める