「最近、歩き方がおかしくなった」「以前より転びやすくなった」「視線が合いにくい」——こうした症状がある方やそのご家族が、さくら在宅クリニックにご相談くださることがあります。それが進行性核上性麻痺(PSP)という神経難病である場合があります。本記事では、PSPの特徴・診断・在宅での療養ポイントをわかりやすく解説します。
PSP(進行性核上性麻痺)とはどんな病気?
進行性核上性麻痺(Progressive Supranuclear Palsy:PSP)は、脳の特定の部位(脳幹・大脳基底核など)に異常なタンパク質(タウタンパク)が蓄積することで起こる神経変性疾患です。パーキンソン病と似た症状(パーキンソニズム)を示しますが、いくつかの点で大きく異なります。
発症年齢・性別
主に60歳代以降に発症。男女比はほぼ同等で、年間10万人あたり数人程度の希少疾患です。
原因
タウタンパクの異常蓄積による神経変性。遺伝的要因と環境要因が関与するとされますが、多くは孤発例です。
進行速度
パーキンソン病より進行が速いのが特徴。発症後3年以内に易転倒性が出現することが多いです。
治療法
現在のところ根治療法は存在しません。症状を和らげる対症療法とリハビリテーションが主体です。
PSPの典型的な症状
PSPの中でも最も多い病型はRichardson症候群(PSP-RS)と呼ばれ、以下のような症状が特徴的です。
🔴 運動症状
- 垂直性核上性眼球運動障害:上下の視線移動が難しくなる。特に下方視が困難になり、階段の昇り降りや食事が難しくなります。
- 早期からの易転倒性:発症初期から転倒しやすい姿勢保持障害が現れます。Pull testで後方に倒れやすいのが特徴です。
- 頸部・体幹の筋強剛:頸部が後屈しやすく(後ろに反る)、体幹の筋強剛(rigidity)が目立ちます。
- すり足・すくみ足:歩幅が小さくなり、方向転換時にすくみ足が出現します。シルバーカーが必要になることも。
🟡 認知・精神症状
- 思考緩慢(処理速度の低下):会話の返答が遅くなり、ぼーっとした印象を与えることがあります。
- アパシー(意欲低下):外出しなくなる、趣味をやめるなど、うつ病と間違われることもあります。
- 易怒性:以前より怒りっぽくなるという訴えがご家族から聞かれます。
- 前頭葉機能障害:判断力・注意の切り替え・問題解決能力の低下。Applause徴候(拍手を止められない)など。
🟠 発話・嚥下症状
- 構音障害:声が小さく抑揚がなくなる。どもり(吃音)や同じ言葉を繰り返す(palilalia)ことも。
- 嚥下障害:進行に伴い誤嚥リスクが高まり、誤嚥性肺炎を繰り返すことがあります。
PSPの診断——どのように見分けるか
PSPはパーキンソン病や多系統萎縮症などと症状が似ており、初期には診断が難しいことがあります。以下の検査所見が診断の助けになります。
🔬 診断に役立つ検査・所見
- 頭部MRI:中脳被蓋部の萎縮(「ハチドリ徴候」)、前頭葉萎縮、第三脳室拡大
- ドパミントランスポーターシンチグラフィー(DAT scan):両側線条体での集積低下
- MIBG心筋シンチグラフィー:PSPでは正常(パーキンソン病との鑑別に有用)
- 前頭葉機能検査(FAB):語流暢性・連続運動課題での低下
- 神経精神症状評価(NPI):無為・無関心、脱抑制、食行動異常など
60歳代男性の場合:2年前から歩行が遅くなり意欲が低下。1年前から転倒が増え、室内でもシルバーカーが必要に。会話の反応が遅くなり、どもりが目立つようになった。診察では垂直性眼球運動障害、姿勢保持障害、前頭葉機能低下を認め、MRIでハチドリ徴候を確認。PSP-RSと診断。
在宅医療でのPSP管理——さくら在宅クリニックの関わり方
PSPは根治療法がないため、いかに安全に、その人らしく在宅で過ごせるかが療養の核心です。さくら在宅クリニックでは、以下のような多職種連携のもとサポートします。
薬物療法
パーキンソニズムに対してL-ドパ(レボドパ)治療が有効な場合があります。ただし効果が限定的なことも多く、高用量では脱抑制(行動の抑制が効かなくなる)が悪化することもあるため、慎重な用量調整が必要です。吐き気などの副作用はパーキンソン病より出にくいとされています。
⚠️ L-ドパ治療の注意点
L-ドパを高用量に増量すると脱抑制(怒りやすい、衝動的な行動)が悪化することがあります。反応性を確認しながら、適切な維持量を維持することが重要です。
リハビリテーション
- 理学療法(PT):転倒予防のための歩行訓練・バランス訓練。手すりや補助具の適切な使用方法の指導。
- 言語療法(ST):発話訓練と嚥下機能の評価・訓練。食形態の調整(とろみ食など)の指導。
- 作業療法(OT):日常生活動作(ADL)の維持・環境調整。転倒しにくい住環境への改善提案。
🍽️ 嚥下障害・栄養管理
進行とともに嚥下障害が目立つようになります。誤嚥性肺炎を繰り返す場合には、経鼻胃管や胃瘻(PEG)による栄養管理を検討することになります。ただし予後を根本的に改善するものではないため、患者様・ご家族と十分に話し合い、生活の質と生命維持の両面から慎重に判断することが大切です。
🏠 在宅環境の整備
- 転倒しやすいため、段差の解消・手すりの設置が必須です。
- 外出時はシルバーカーや歩行補助具を適切に選択します。
- 下方視が難しいため、階段・段差での付き添いが重要です。
- 介護保険サービス(訪問看護・ヘルパー・デイサービスなど)を組み合わせ、ご家族の負担を軽減します。
ご家族へ——在宅での介護のポイント
PSPを抱える方を在宅で支えるご家族の方へ、日常でとくに意識していただきたい点をまとめます。
転倒への備え
一瞬目を離した隙に転倒することがあります。外出時は常に付き添い、段差には特に注意を。
食事の工夫
飲み込みにくくなったらとろみをつける、刻み食にするなど。むせが多い場合は早めにご相談を。
コミュニケーション
返答が遅くても急かさず、ゆっくり待つ。声が小さくなっても「聞こえない」と強調しすぎないように。
介護者自身のケア
PSPの介護は精神的・身体的負担が大きいです。レスパイトケアの活用や、相談窓口の利用を遠慮なく。
🌸 PSPについてお悩みのことがあれば
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逗子市・葉山町・鎌倉市を中心に、神経難病の在宅医療を専門的にサポートしています。診断から療養計画、介護保険の活用まで、ご家族と一緒に考えます。
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