「事故後、仕事に戻ったが以前と同じようにできない」「記憶力が落ちた、同じことを何度も聞く」「突然怒りっぽくなった」——頭部外傷(TBI:Traumatic Brain Injury)の後遺症は、外見からはわかりにくい「見えない障害」として患者さん・ご家族・職場に大きな影響を与えます。さくら在宅クリニックでは、高次脳機能障害の在宅支援にも取り組んでいます。
頭部外傷(TBI)とはどんな状態か
頭部外傷(TBI)は交通事故・転倒・スポーツ外傷などで頭部に強い衝撃を受けた際に起こります。急性期には意識障害・頭蓋内血腫などの問題が生じますが、その後も長期にわたって後遺症が残ることがあります。
頭部外傷の分類と重症度
| 損傷タイプ | 軽症 | 中等症 | 重症 |
|---|---|---|---|
| 局所脳損傷 (脳挫傷・硬膜外血腫・ 硬膜下血腫・脳内血腫) |
GCS 14〜15、脳ヘルニア徴候なし、mass effect なし | GCS 9〜13、脳ヘルニア徴候なし、mass effect なし | GCS 3〜8、脳ヘルニア徴候あり、mass effect あり |
| びまん性脳損傷 (脳震盪・びまん性軸索損傷・ 外傷性くも膜下出血) |
意識消失なし(軽症脳振盪) | 受傷直後から意識消失、6時間以内に回復(古典的脳振盪) | 受傷直後からの意識消失が6時間以上遷延。脳幹徴候を示す場合は最重症 |
⚠️ 注意が必要な「びまん性軸索損傷」
回転加速による脳実質のひずみ(剪断力)で神経軸索が断裂することで起こります。MRI画像上では目立ちにくいですが、遅発性・年単位の慢性で脳萎縮をきたしやすく、注意障害・遂行機能障害・処理速度の低下・記憶障害・意欲低下・情動不安定などが長期残存します。「見えない障害」として誤解されやすい原因のひとつです。
頭部外傷後遺症——「高次脳機能障害」の主な症状
頭部外傷後遺症では、意欲の低下・注意障害・遂行機能障害・記憶障害が残存しやすく、損傷部位によってはさらに言語障害(失語)なども加わります。これらをまとめて「高次脳機能障害」と呼びます。
注意障害
- 集中力が続かない
- 処理速度が遅くなる
- ミスが増える
- 複数のことを同時にできない
遂行機能障害
- 段取りが組めない
- 計画的に動けない
- 臨機応変な対応が難しい
- スケジュール管理ができない
記憶障害
- 新しいことを覚えられない
- 同じことを繰り返し聞く
- 予定を忘れる
- 言語性記憶の低下が目立つ
言語・コミュニケーション障害
- 言葉が出てこない(喚語困難)
- 聴覚理解の低下
- 書字の誤り(錯書)
- 失語症(損傷部位による)
病識の欠如
- 自分の障害に気づいていない
- 「もう大丈夫」と復職を急ぐ
- 支援を拒否する
- 過信による失敗が増える
行動・情動の変化
- 易怒性・衝動的な行動
- 意欲の低下・アパシー
- 情動不安定・急に泣く・笑う
- 社会的行動の問題
「高次脳機能障害」のわかりにくさ——なぜ見過ごされやすいのか
- 外見上は「普通に見える」ため、周囲から怠けや性格変化として誤解されやすい
- 知能検査(IQ)が回復しても、就業可能な遂行機能は回復しきれないことがある
- 本人自身が「病識(自分の障害への気づき)」を持ちにくく、支援を求めない
- 復職してから初めて問題が明らかになることも多い
頭部外傷の予後と回復——認知症とは異なる「回復する」障害
頭部外傷後遺症は、アルツハイマー病などの認知症とは異なり、ある程度は徐々に回復するという重要な特徴があります。急性期の意識障害の程度と持続時間が、機能予後を推測する手がかりになります。
重症頭部外傷(GCS<8点)の2年後の予後を調べた系統的レビューでは、死亡率は46%と高く、完全回復は21〜27%のみと報告されています。一方で軽症〜中等症では予後はよりよい傾向があります。
Glasgow Outcome Scale Extended(GOSE)——回復の評価尺度
TBIの転帰評価として広く用いられているGOSEでは、1(死亡)〜8(完全回復)の8段階で評価します。
| GOSE | 状態 | 主なドメイン・基準 |
|---|---|---|
| 1 | 死亡 | — |
| 2 | 植物状態 | 意識なし |
| 3 | 重症障害(下位) | 家庭での機能:8時間1人で居られない |
| 4 | 重症障害(上位) | 24時間1人で居られない、または買い物・旅行ができない |
| 5 | 中等度障害(下位) | 仕事・学習ができない、社会参加できない、常に家族関係に問題がある |
| 6 | 中等度障害(上位) | 仕事の能力の低下、社会参加が減少、しばしば問題あり |
| 7 | 回復(下位) | 社会参加が少し減少、時に問題あり、日常生活に影響のある症状あり |
| 8 | 回復(上位) | 全く症状なし |
受傷後の経過と支援——時期に応じたアプローチ
頭部外傷後遺症の支援は、受傷直後から長期にわたる継続的な評価と介入が必要です。特に若い世代では社会復帰・復職への対応が重要となります。
高次脳機能障害の支援制度——使える資源を知ろう
障害者総合支援法(平成25年4月施行)に基づき、高次脳機能障害者に対する相談支援が整備されています。患者さん自身がこのシステムを把握していることは少ないため、医療機関から積極的に情報提供することが大切です。
高次脳機能障害支援センター
各都道府県が設置。専門的な相談支援・評価・支援コーディネーターによる調整。情報は国立障害者リハビリテーションセンター高次脳機能障害情報・支援センターから入手可能。
精神保健福祉手帳
高次脳機能障害と診断された場合に取得可能。各種サービス・割引・就労支援の利用に役立つ。医師が診断書を作成するか、作成可能な機関を紹介する。
就労継続支援・就労移行支援
就労継続支援B型作業所などで段階的な社会参加・就労訓練が可能。いきなりの復職ではなく、段階的なステップアップが社会復帰の鍵となる。
医療・福祉の多職種連携
医師・言語聴覚士(ST)・作業療法士(OT)・理学療法士(PT)・社会福祉士・ケアマネジャーが連携し、長期的な支援計画を立てる。
🔵 さくら在宅クリニックでできること
- 訪問診療での定期的な高次脳機能評価(MMSE・FABなど)
- 精神保健福祉手帳の診断書作成・支援機関への紹介
- 訪問リハビリ(ST・OT・PT)との連携による在宅リハビリ
- ご家族への介護負担軽減・心理的サポート
- 介護保険・障害福祉サービスの活用支援(ケアマネジャーとの連携)
- 日常の変化(急な怒り・意欲低下など)へのフォローアップ
ご家族・周囲の方へ——「見えない障害」への理解が支援の第一歩
高次脳機能障害を抱える方を身近で支えるご家族・職場の方への理解が、最も重要な支援のひとつです。
- 「怠けている」ではなく「脳の機能低下」です:本人は努力しているのに、脳のダメージによって以前と同じようにできなくなっています。叱責や急かしは逆効果になることがあります。
- スケジュール管理を外部からサポート:メモ・カレンダー・アラームなどの外部補助手段を積極的に活用。診察予約の管理もご家族が一緒に行うと安心です。
- 「もう大丈夫」という過信に注意:病識の欠如から本人が回復を過大評価することがあります。急いで復職・復学せず、段階的に評価しながら進めることが大切です。
- 感情の変化をやわらかく受け止める:怒りっぽさ・情動不安定も脳損傷の症状のひとつ。人格が変わったのではなく、脳の前頭葉機能の変化によるものです。
- 介護者自身のケアも大切に:高次脳機能障害の介護は精神的負担が大きいです。レスパイトケアや支援センターへの相談を遠慮なく活用してください。
🌸 頭部外傷後の後遺症でお困りの方
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逗子市・葉山町・鎌倉市を中心に、高次脳機能障害の在宅評価・リハビリ支援・支援制度へのつなぎを行っています。「あれ、以前と何か違う」と感じたときから相談できます。
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