在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

認知症は治せるか~認知症治療の羅針盤14~頭部外傷後遺症(高次脳機能障害)とは? 「見えない障害」に気づき、支援につなげるために

頭部外傷後遺症(高次脳機能障害)とは?
「見えない障害」に気づき、支援につなげるために

交通事故や転倒による頭部外傷の後、記憶や注意・言語などに問題が残る「高次脳機能障害」。外見からわかりにくいこの障害の特徴と、在宅・地域での支援について解説します。

 
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「事故後、仕事に戻ったが以前と同じようにできない」「記憶力が落ちた、同じことを何度も聞く」「突然怒りっぽくなった」——頭部外傷(TBI:Traumatic Brain Injury)の後遺症は、外見からはわかりにくい「見えない障害」として患者さん・ご家族・職場に大きな影響を与えます。さくら在宅クリニックでは、高次脳機能障害の在宅支援にも取り組んでいます。

頭部外傷(TBI)とはどんな状態か

頭部外傷(TBI)は交通事故・転倒・スポーツ外傷などで頭部に強い衝撃を受けた際に起こります。急性期には意識障害・頭蓋内血腫などの問題が生じますが、その後も長期にわたって後遺症が残ることがあります。

 頭部外傷の分類と重症度

損傷タイプ 軽症 中等症 重症
局所脳損傷
(脳挫傷・硬膜外血腫・
硬膜下血腫・脳内血腫)
GCS 14〜15、脳ヘルニア徴候なし、mass effect なし GCS 9〜13、脳ヘルニア徴候なし、mass effect なし GCS 3〜8、脳ヘルニア徴候あり、mass effect あり
びまん性脳損傷
(脳震盪・びまん性軸索損傷・
外傷性くも膜下出血)
意識消失なし(軽症脳振盪) 受傷直後から意識消失、6時間以内に回復(古典的脳振盪) 受傷直後からの意識消失が6時間以上遷延。脳幹徴候を示す場合は最重症

⚠️ 注意が必要な「びまん性軸索損傷」

回転加速による脳実質のひずみ(剪断力)で神経軸索が断裂することで起こります。MRI画像上では目立ちにくいですが、遅発性・年単位の慢性で脳萎縮をきたしやすく、注意障害・遂行機能障害・処理速度の低下・記憶障害・意欲低下・情動不安定などが長期残存します。「見えない障害」として誤解されやすい原因のひとつです。

頭部外傷後遺症——「高次脳機能障害」の主な症状

頭部外傷後遺症では、意欲の低下・注意障害・遂行機能障害・記憶障害が残存しやすく、損傷部位によってはさらに言語障害(失語)なども加わります。これらをまとめて「高次脳機能障害」と呼びます。

 注意障害
  • 集中力が続かない
  • 処理速度が遅くなる
  • ミスが増える
  • 複数のことを同時にできない
 遂行機能障害
  • 段取りが組めない
  • 計画的に動けない
  • 臨機応変な対応が難しい
  • スケジュール管理ができない
 記憶障害
  • 新しいことを覚えられない
  • 同じことを繰り返し聞く
  • 予定を忘れる
  • 言語性記憶の低下が目立つ
言語・コミュニケーション障害
  • 言葉が出てこない(喚語困難)
  • 聴覚理解の低下
  • 書字の誤り(錯書)
  • 失語症(損傷部位による)
 病識の欠如
  • 自分の障害に気づいていない
  • 「もう大丈夫」と復職を急ぐ
  • 支援を拒否する
  • 過信による失敗が増える
 行動・情動の変化
  • 易怒性・衝動的な行動
  • 意欲の低下・アパシー
  • 情動不安定・急に泣く・笑う
  • 社会的行動の問題

 「高次脳機能障害」のわかりにくさ——なぜ見過ごされやすいのか

  • 外見上は「普通に見える」ため、周囲から怠けや性格変化として誤解されやすい
  • 知能検査(IQ)が回復しても、就業可能な遂行機能は回復しきれないことがある
  • 本人自身が「病識(自分の障害への気づき)」を持ちにくく、支援を求めない
  • 復職してから初めて問題が明らかになることも多い

頭部外傷の予後と回復——認知症とは異なる「回復する」障害

頭部外傷後遺症は、アルツハイマー病などの認知症とは異なり、ある程度は徐々に回復するという重要な特徴があります。急性期の意識障害の程度と持続時間が、機能予後を推測する手がかりになります。

重症頭部外傷(GCS<8点)の2年後の予後を調べた系統的レビューでは、死亡率は46%と高く、完全回復は21〜27%のみと報告されています。一方で軽症〜中等症では予後はよりよい傾向があります。

 Glasgow Outcome Scale Extended(GOSE)——回復の評価尺度

TBIの転帰評価として広く用いられているGOSEでは、1(死亡)〜8(完全回復)の8段階で評価します。

GOSE 状態 主なドメイン・基準
1 死亡
2 植物状態 意識なし
3 重症障害(下位) 家庭での機能:8時間1人で居られない
4 重症障害(上位) 24時間1人で居られない、または買い物・旅行ができない
5 中等度障害(下位) 仕事・学習ができない、社会参加できない、常に家族関係に問題がある
6 中等度障害(上位) 仕事の能力の低下、社会参加が減少、しばしば問題あり
7 回復(下位) 社会参加が少し減少、時に問題あり、日常生活に影響のある症状あり
8 回復(上位) 全く症状なし

受傷後の経過と支援——時期に応じたアプローチ

頭部外傷後遺症の支援は、受傷直後から長期にわたる継続的な評価と介入が必要です。特に若い世代では社会復帰・復職への対応が重要となります。

急性期(受傷〜数週間)
意識障害・頭蓋内血腫などの急性管理。重症では外科的手術(血腫除去)が必要なことも。GCSスコアと脳ヘルニア徴候の評価が重要。受傷後数週間〜1〜2か月で見当識障害・もうろう状態が続くことがある。
亜急性期(受傷後1〜6か月)
高次脳機能の詳細な評価開始(WAIS・WMS・SLTA・注意検査など)。失語・注意障害・記憶障害・遂行機能障害の評価と言語療法・作業療法の開始。本人の病識欠如に注意しながら支援を進める。
慢性期(受傷後6か月〜数年)
IQ・記憶スコアが回復しても、就業可能な遂行機能は回復しきれないケースがある。注意障害(処理速度低下)は受傷3年後でも改善が乏しいことが多い。継続的な評価(CAT・SDMT等)が必要。
社会復帰・長期支援
就労継続支援B型・就労継続支援A型・就労移行支援などの障害福祉サービスを活用。高次脳機能障害支援センターや支援コーディネーターとの連携が重要。精神保健福祉手帳の取得についても医師が情報提供・紹介を行う。

高次脳機能障害の支援制度——使える資源を知ろう

障害者総合支援法(平成25年4月施行)に基づき、高次脳機能障害者に対する相談支援が整備されています。患者さん自身がこのシステムを把握していることは少ないため、医療機関から積極的に情報提供することが大切です。

 高次脳機能障害支援センター

各都道府県が設置。専門的な相談支援・評価・支援コーディネーターによる調整。情報は国立障害者リハビリテーションセンター高次脳機能障害情報・支援センターから入手可能。

 精神保健福祉手帳

高次脳機能障害と診断された場合に取得可能。各種サービス・割引・就労支援の利用に役立つ。医師が診断書を作成するか、作成可能な機関を紹介する。

 就労継続支援・就労移行支援

就労継続支援B型作業所などで段階的な社会参加・就労訓練が可能。いきなりの復職ではなく、段階的なステップアップが社会復帰の鍵となる。

 医療・福祉の多職種連携

医師・言語聴覚士(ST)・作業療法士(OT)・理学療法士(PT)・社会福祉士・ケアマネジャーが連携し、長期的な支援計画を立てる。

🔵 さくら在宅クリニックでできること

  • 訪問診療での定期的な高次脳機能評価(MMSE・FABなど)
  • 精神保健福祉手帳の診断書作成・支援機関への紹介
  • 訪問リハビリ(ST・OT・PT)との連携による在宅リハビリ
  • ご家族への介護負担軽減・心理的サポート
  • 介護保険・障害福祉サービスの活用支援(ケアマネジャーとの連携)
  • 日常の変化(急な怒り・意欲低下など)へのフォローアップ

ご家族・周囲の方へ——「見えない障害」への理解が支援の第一歩

高次脳機能障害を抱える方を身近で支えるご家族・職場の方への理解が、最も重要な支援のひとつです。

  • 「怠けている」ではなく「脳の機能低下」です:本人は努力しているのに、脳のダメージによって以前と同じようにできなくなっています。叱責や急かしは逆効果になることがあります。
  • スケジュール管理を外部からサポート:メモ・カレンダー・アラームなどの外部補助手段を積極的に活用。診察予約の管理もご家族が一緒に行うと安心です。
  • 「もう大丈夫」という過信に注意:病識の欠如から本人が回復を過大評価することがあります。急いで復職・復学せず、段階的に評価しながら進めることが大切です。
  • 感情の変化をやわらかく受け止める:怒りっぽさ・情動不安定も脳損傷の症状のひとつ。人格が変わったのではなく、脳の前頭葉機能の変化によるものです。
  • 介護者自身のケアも大切に:高次脳機能障害の介護は精神的負担が大きいです。レスパイトケアや支援センターへの相談を遠慮なく活用してください。

🌸 頭部外傷後遺症(高次脳機能障害)のポイント まとめ

  • 頭部外傷後遺症は認知症と異なりある程度回復する——急性期からの適切なリハビリと支援が予後を左右する
  • 「見えない障害」として見過ごされやすい。外見は普通でも、注意・記憶・遂行機能などに問題が残ることがある
  • びまん性軸索損傷はMRIで見つかりにくく、長期的な注意障害・処理速度低下が残存しやすい
  • 病識の欠如が支援拒否につながることが多い。家族・職場の理解と連携が不可欠
  • IQ回復≠就業可能——知能検査が回復しても遂行機能が追いついていない場合がある
  • 若年者の社会復帰には、急いで復職せず段階的な評価と就労支援の活用を
  • 高次脳機能障害支援センター・精神保健福祉手帳・就労継続支援など制度を積極的に活用する

🌸 頭部外傷後の後遺症でお困りの方
さくら在宅クリニックにご相談ください

逗子市・葉山町・鎌倉市を中心に、高次脳機能障害の在宅評価・リハビリ支援・支援制度へのつなぎを行っています。「あれ、以前と何か違う」と感じたときから相談できます。

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本記事は医療情報の提供を目的としており、診断・治療の代替となるものではありません。症状についてのご相談は医師にお問い合わせください。

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