在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

神経障害性疼痛疼痛を科学する6~「痛みを数字で共有する」ことが治療の第一歩 — 疼痛評価スケールの選び方と使い方

「痛みを数字で共有する」ことが治療の第一歩
— 疼痛評価スケールの選び方と使い方

在宅療養では「どのくらい痛いか」を患者・家族・医療者間で正確に共有することが、薬剤調整や生活支援の質を左右します。痛みの評価法には複数の種類があり、目的に応じて使い分けることが重要です。
まず「言葉の定義」を揃える(IASP定義)

「アロディニア」「痛覚過敏」「感覚異常」など、神経障害性疼痛に関わる用語は国際疼痛学会(IASP)で定義されています。医療者間で同じ意味で使うことが正確な評価の基盤です。

Allodynia
通常では痛みを起こさないような刺激によっても起こる痛み
Hyperalgesia
痛み刺激に対する亢進した反応
Dysesthesia
不快な異常感覚。自発的でも誘発的でもよい
Paresthesia
自発的、あるいは誘発的に起こる感覚の異常
Hyperpathia
繰り返し刺激に対して異常な疼痛反応を起こすことを特徴とした疼痛症候群
Causalgia
外傷性神経損傷後の持続する灼熱痛。アロディニアと感覚異常過敏をもつ症候群
主な痛みスケール5種
NRS(数字評価尺度)0 = 痛みなし 10 = 想像しうる最強の痛み
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
軽度中等度重度
数字評価尺度
NRS(Numerical Rating Scale)
0〜10点で痛みの強さを数字で表す。簡便で繰り返し使いやすく、在宅での経時的評価に最適。
視覚的アナログ疼痛スケール
VAS(Visual Analogue Pain Scale)
100mmの線分上に「痛みなし」〜「考えられる最高の痛み」を示してもらい、mmで測定。より精密な強度評価に有用。
口頭評価尺度
VRS(Verbal Rating Scale)
「痛みなし」「少し痛い」「かなり痛い」「これ以上の痛みはないほど痛い」の4段階。認知機能が低下した方にも使いやすい。
行動評価尺度
BRS(Behavioural Rating Scale)
痛みによる行動(日常生活・集中力・休憩の必要性など)への影響から痛みの程度を評価。自己申告が難しい患者にも対応。
神経障害性疼痛スケール
NPS(Neuropathic Pain Scale)
鋭さ・灼熱感・ひりひり感・だるさ・冷たさ・皮膚の過敏さ・かゆみなど10項目でNRSにより評価。神経障害性疼痛に特化。
マクギル疼痛質問表
MPQ(McGill Pain Questionnaire)
15の痛みを表す形容詞(ずきんずきん・ビーンと走る・灼熱感・割れるようなど)を0〜3点で評価・加算。痛みの質を多面的に把握。
神経学的診察の6つの柱
検査項目 目的・内容
知覚検査 痛覚・触覚(必須)、圧覚・位置覚・振動覚・温度覚。表在知覚検査(はけ・ピン)でアロディニアを確認。皮膚分節(デルマトーム)に基づき障害部位を同定。
運動機能検査 筋力(0〜5段階)・痙攣性・脱力の程度・筋萎縮・振戦を評価。
神経反射検査 深部反射(筋伸展反射)・表在反射・病的反射。神経障害の局所診断に有用。
自律神経機能 皮膚温・皮膚の色調・浮腫の有無・発汗異常・皮膚・爪・毛の萎縮性変化。CRPSの診断に必須。
疼痛誘発試験 脊髄神経根・神経叢・神経・関節・動脈の伸展または圧迫により疼痛・しびれを誘発。障害部位の局所診断を行う。
補助的検査 神経伝導速度・量的知覚試験・皮膚生検・自律神経機能検査・誘発電位測定・MRI。診断の補助として使用。
疼痛誘発試験の代表例
上肢の誘発試験(代表例)
  • Spurling(椎間孔圧迫):頸椎後側方圧迫で上肢放散痛
  • Eaton(神経伸張):上肢引き下げで神経根症状確認
  • Phalen(手関節掌屈):手根管症候群でしびれ増悪
  • Morley:前斜角筋圧迫、肘〜手指への放散痛
  • Adson:橈骨動脈拍動の減弱を確認
下肢の誘発試験(代表例)
  • SLRテスト:仰臥位で下肢挙上、神経根症状確認
  • Lasegue:SLRと同様の診断意義
  • Bragard:SLR+足背屈で坐骨神経伸張増強
  • 大腿神経伸張テスト:上位腰椎神経根障害の確認
  • Patrick:仙腸関節疼痛の誘発確認
在宅での疼痛評価のポイント

在宅訪問では毎回NRSで痛みを数値化し、前回との変化を記録することが薬剤調整の根拠になります。認知機能が低下している患者にはVRS(口頭評価・4段階)やBRS(行動評価)が適しています。

 在宅での疼痛評価チェックリスト
  • NRSで現在の痛みを0〜10で数値化する(毎回記録)
  • 「電撃痛・灼熱感・アロディニア」などNPSに基づく神経障害性疼痛の特徴を確認する
  • 睡眠・日常生活・移動への影響(BRS視点)を聞く
  • 増悪・軽減因子(体位・天気・ストレス・薬剤)を記録する
  • 皮膚温・発汗異常など自律神経症状の有無を観察する
CLINICAL TIPS
  • NRS(0〜10点)を毎回記録することで、治療効果の経時的評価が可能になる
  • 神経障害性疼痛の評価にはNPS(灼熱感・ひりひり感・冷たさなど10項目)が有用
  • 認知機能が低下している患者にはVRS(4段階口頭評価)またはBRS(行動評価)を選ぶ
  • 皮膚分節(デルマトーム)の知識が表在知覚検査・障害部位同定に不可欠
  • 疼痛誘発試験(上下肢)は障害部位の局所診断と機序の推定に役立つ