「知人の顔がわからなくなった」「毎回同じ話題を繰り返す」「こだわりが異常に強くなった」「うつ薬を飲んでいるが全く効かない」——こうした症状でうつ病・強迫症・自閉症スペクトラムと診断されながら改善せず、長年たってから右半球優位の前頭側頭型認知症(rtvFTD:right temporal variant frontotemporal dementia)と判明するケースがあります。精神疾患との誤診が起きやすいこの認知症について、さくら在宅クリニックでも在宅支援に取り組んでいます。
rtvFTD(右半球優位の前頭側頭型認知症)とはどんな病気か
前頭側頭型認知症(FTD:Frontotemporal Dementia)は、前頭葉・側頭葉が変性する神経変性疾患の総称です。rtvFTDはその中で、右側頭葉を中心とした萎縮・血流低下が優位な亜型で、左側頭葉が優位に障害される意味性認知症(SD)との鑑別が重要です。
発症年齢・頻度
FTDとしてはやや高齢(70歳代での発症も)。FTD・PPAと診断された284例のうち、rtvFTDは18例(6%程度)という報告がある。希少だが見落とされやすい。
背景病理
病理学的に異質な集団。bvFTD診断例では全例Tau病理が、SD診断例では全例TDP-43病理が確認された。rtvFTDは単純に「右のSD」とはいい難く、両方の特徴を合わせ持つ。FTD亜型との関係
rtvFTDの20例を後方視的に検討した報告では、12例がbvFTD(行動異常型)、8例がSD(意味性認知症)と診断。経過の中で両者の特徴が混在してくる。
誤診されやすさ
初期に行動異常・うつ・強迫症状のみが目立つため、精神疾患として治療されることが多い。脳画像を確認するまで認知症と気づかれないケースが少なくない。
rtvFTDの3大症状——「顔・記憶・行動」の変化
現時点での知見では、rtvFTDの三大症状は以下の3つです。経過の中で噂語困難・呼称障害・抑うつなどが加わり、最終的には8割の症例で言語異常が目立つとされています。
(顔が覚えられない)
(脱抑制・アパシー・常同性)
rtvFTDの患者さんは、毎回の外来で決まって同じ話題を繰り返す傾向があります(常同性)。
話す内容はもっともらしく、発話は流暢ですが、「話している内容がその会話量に比して貧困」で、聞き手の反応を気にする様子がみられません(談話心拍:press of speech)。家族は「話を全く聞かない」と訴えます。
精神疾患との誤診——なぜ見落とされるのか
rtvFTDは特に初期において、行動異常・うつ・強迫症状のみが目立つことがあり、精神疾患との誤診に注意が必要な認知症です。
rtvFTDが精神疾患と間違われやすいサイン
前頭側頭型認知症(FTD)の亜型との違い
| 比較項目 | rtvFTD(右側頭葉型) | bvFTD(行動異常型) | SD(意味性認知症) |
|---|---|---|---|
| 主な萎縮部位 | 右側頭葉(側頭極〜側頭葉全体) | 前頭葉・側頭葉前部(両側) | 左側頭極(左優位) |
| 初期の目立つ症状 | 相貌失認・記憶障害・行動異常 | 脱抑制・アパシー・強迫的行動 | 語義理解の障害・錯語 |
| 相貌失認 | 顕著(SD診断例では発症2年以内に多い) | あまり目立たない | 晩期に出現 |
| 言語障害 | 初期は少ない、経過で噂語困難・呼称障害が出現 | 経過で出現 | 初期から語義理解の障害が目立つ |
| 遂行機能 | bvFTDよりも良好 | 障害が目立つ | 比較的保たれる |
| 病識 | 乏しい・否定・過信が多い | 乏しい | 比較的保たれることもある |
| うつ・不安 | 初期に目立つことがある(精神疾患と誤診) | アパシーが主 | 身体的な訴え・抑うつが特徴的 |
診断——画像検査が鍵を握る
rtvFTDの臨床症状はbvFTDとSDの双方の特徴を混在して呈するため、臨床症状のみからの診断は難しいとされています。右側頭葉に優位な萎縮および代謝低下所見、そしてアミロイド病理の確認が診断の手順として重要です。
診断に用いる検査
- 頭部MRI:右優位の側頭葉萎縮(側頭極〜側頭葉全体)。病側の頭頂領域の萎縮も目立つ
- SPECT/FDG-PET:右側頭極から側頭葉全体にかけての血流・代謝低下
- アミロイドPET:アミロイド蓄積の有無(ADとの鑑別)
- 神経心理検査:ADAS(語彙・喚語困難)、Rivermead記憶検査(顔写真の記憶)、語流暢性検査
- WAB失語症検査・VPTA(相貌認知評価):言語症状・相貌失認の詳細評価
- 血液検査:ビタミンB1・B12・甲状腺機能・HIV・梅毒・膠原病(治療可能な認知症の除外)
在宅での支援——rtvFTDに関わるご家族・介護者へ
rtvFTDでは病識が乏しく、本人は「問題ない」「認知症ではない」と思っていることが多いです。そのため支援を拒否したり、「認知症でないという診断書を書いてほしい」という要求が続いたりすることがあります。ご家族の精神的負担が非常に大きい認知症のひとつです。
自動車運転の中止
- 標識を見落とす・車線を誰かにぶつけても気にしないなど危険行動が早期から
- 本人が「問題ない」と主張しても、医師・家族・行政が連携して早期に中止を
- 免許返納についての丁寧な説明と支援が必要
常同行動・繰り返しへの対応
- 同じ話・同じ行動の繰り返しは「わかってやっている」のではなく病気の症状
- 話の内容を否定・制止せず、やわらかく話題を切り替える
- 強く制止すると興奮・怒りを招くことがある
相貌失認への対応
- 「誰?」と言われても怒らず、名前を名乗ってから話しかける
- 声を聞けばわかることがあるので声のかけ方を工夫する
- 訪問スタッフも毎回自己紹介を行う
薬物へのこだわり
- 薬へのこだわりが非常に強く処方変更を拒む場合がある
- FTDにはコリンエステラーゼ阻害薬(アリセプト等)は基本的に無効または有害
- 抑うつ・強迫症状にはSSRIが有効なことがある
- 金銭管理・財産保護
- 判断力の低下から不適切な契約・投資・詐欺被害が起きやすい
- 早期から成年後見制度・日常生活自立支援事業の活用を検討
- 通帳・印鑑の管理を家族が担う
介護者の精神的サポート
- 病識のなさ・繰り返し・こだわりから家族の疲弊度が非常に高い
- 地域の認知症カフェ・家族会・FTD専門支援機関の活用
- 訪問看護・デイサービス等でレスパイトを確保する
🌿 さくら在宅クリニックでできること
- 訪問診療での行動観察・認知機能評価(MMSE・FAB・HDS-R等)の定期実施
- 精神科・神経内科との連携による確定診断支援
- 自動車運転中止の判断支援と運転免許センターへの情報提供
- 抑うつ・強迫症状へのSSRI等薬物療法の検討・調整
- 介護保険申請・成年後見制度への紹介
- 訪問看護・デイサービスを組み合わせた介護者のレスパイト支援
🌸 「人の顔が覚えられない」「こだわりが強くなった」
気になることがあればさくら在宅クリニックにご相談ください
逗子市・葉山町・鎌倉市を中心に、前頭側頭型認知症を含む非典型認知症の在宅医療・家族支援を行っています。精神疾患と言われてきたが改善しない、という場合もお気軽にご相談ください。
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