在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

認知症は治せるか~認知症治療の羅針盤16~右半球優位の前頭側頭型認知症(rtvFTD)とは? 「人の顔を覚えられない」「こだわりが強くなった」が初期サイン

右半球優位の前頭側頭型認知症(rtvFTD)とは?
「人の顔を覚えられない」「こだわりが強くなった」が初期サイン

うつ病・強迫症・自閉症スペクトラムと間違われやすい認知症——「相貌失認(顔が覚えられない)」「記憶障害」「行動異常」の3つを特徴とする右半球優位の前頭側頭型認知症(rtvFTD)について解説します。

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「知人の顔がわからなくなった」「毎回同じ話題を繰り返す」「こだわりが異常に強くなった」「うつ薬を飲んでいるが全く効かない」——こうした症状でうつ病・強迫症・自閉症スペクトラムと診断されながら改善せず、長年たってから右半球優位の前頭側頭型認知症(rtvFTD:right temporal variant frontotemporal dementia)と判明するケースがあります。精神疾患との誤診が起きやすいこの認知症について、さくら在宅クリニックでも在宅支援に取り組んでいます。

rtvFTD(右半球優位の前頭側頭型認知症)とはどんな病気か

前頭側頭型認知症(FTD:Frontotemporal Dementia)は、前頭葉・側頭葉が変性する神経変性疾患の総称です。rtvFTDはその中で、右側頭葉を中心とした萎縮・血流低下が優位な亜型で、左側頭葉が優位に障害される意味性認知症(SD)との鑑別が重要です。

発症年齢・頻度

FTDとしてはやや高齢(70歳代での発症も)。FTD・PPAと診断された284例のうち、rtvFTDは18例(6%程度)という報告がある。希少だが見落とされやすい。

背景病理

病理学的に異質な集団。bvFTD診断例では全例Tau病理が、SD診断例では全例TDP-43病理が確認された。rtvFTDは単純に「右のSD」とはいい難く、両方の特徴を合わせ持つ。FTD亜型との関係

rtvFTDの20例を後方視的に検討した報告では、12例がbvFTD(行動異常型)、8例がSD(意味性認知症)と診断。経過の中で両者の特徴が混在してくる。

誤診されやすさ

初期に行動異常・うつ・強迫症状のみが目立つため、精神疾患として治療されることが多い。脳画像を確認するまで認知症と気づかれないケースが少なくない。

rtvFTDの3大症状——「顔・記憶・行動」の変化

現時点での知見では、rtvFTDの三大症状は以下の3つです。経過の中で噂語困難・呼称障害・抑うつなどが加わり、最終的には8割の症例で言語異常が目立つとされています。

① 相貌失認
(顔が覚えられない)
知人・家族の顔を見ても誰かわからなくなる。声を聞いても、名前を聞いても把握できない(個人に関した意味記憶の障害)。日常生活で「誰だかわからない人が近づいてくる」という訴えも。
② 記憶障害
近時記憶の低下(言語性・視覚性)。話した内容を覚えていない、同じ話・同じ行動を繰り返す。初期はもの忘れより「同じ話の繰り返し」として家族が気づくことが多い。
③ 行動異常
(脱抑制・アパシー・常同性)
脱抑制(衝動的行動)・アパシー(意欲低下)・動作緩慢・共感の欠如・強迫・常同性(同じ行動・話題を繰り返す)。こだわりの強さが「元々の性格」と誤解されることも。
💬 診察場面でよく聞かれる訴え

rtvFTDの患者さんは、毎回の外来で決まって同じ話題を繰り返す傾向があります(常同性)。

「ベンゾジアゼピン系薬剤の認知機能への影響が心配だ」
「認知症になるのが怖いので認知トレーニングをしている」
「自分の事業についての話をしたい」

話す内容はもっともらしく、発話は流暢ですが、「話している内容がその会話量に比して貧困」で、聞き手の反応を気にする様子がみられません(談話心拍:press of speech)。家族は「話を全く聞かない」と訴えます。

精神疾患との誤診——なぜ見落とされるのか

rtvFTDは特に初期において、行動異常・うつ・強迫症状のみが目立つことがあり、精神疾患との誤診に注意が必要な認知症です。

rtvFTDが精神疾患と間違われやすいサイン

不安・不眠・軽度のうつ症状で精神科受診→抗うつ薬が無効
こだわりが非常に強く「強迫症」「強迫性障害」と診断
一方的に話し続け相手の反応を気にしない→「自閉傾向」と判断
元々の性格(独善的・こだわり強い)との区別が難しい
初期のMMSE・HDS-Rがやや正常に近く、認知症と思われない
「記憶力・言葉の能力が落ちた」という本人の訴えが不安と混在
薬へのこだわりが非常に強く(反応しない)「薬物依存」と誤解
標識を見落とす・車をぶつける→本人には病識がない

前頭側頭型認知症(FTD)の亜型との違い

比較項目 rtvFTD(右側頭葉型) bvFTD(行動異常型) SD(意味性認知症)
主な萎縮部位 右側頭葉(側頭極〜側頭葉全体) 前頭葉・側頭葉前部(両側) 左側頭極(左優位)
初期の目立つ症状 相貌失認・記憶障害・行動異常 脱抑制・アパシー・強迫的行動 語義理解の障害・錯語
相貌失認 顕著(SD診断例では発症2年以内に多い) あまり目立たない 晩期に出現
言語障害 初期は少ない、経過で噂語困難・呼称障害が出現 経過で出現 初期から語義理解の障害が目立つ
遂行機能 bvFTDよりも良好 障害が目立つ 比較的保たれる
病識 乏しい・否定・過信が多い 乏しい 比較的保たれることもある
うつ・不安 初期に目立つことがある(精神疾患と誤診) アパシーが主 身体的な訴え・抑うつが特徴的

診断——画像検査が鍵を握る

rtvFTDの臨床症状はbvFTDとSDの双方の特徴を混在して呈するため、臨床症状のみからの診断は難しいとされています。右側頭葉に優位な萎縮および代謝低下所見、そしてアミロイド病理の確認が診断の手順として重要です。

 診断に用いる検査

  • 頭部MRI:右優位の側頭葉萎縮(側頭極〜側頭葉全体)。病側の頭頂領域の萎縮も目立つ
  • SPECT/FDG-PET:右側頭極から側頭葉全体にかけての血流・代謝低下
  • アミロイドPET:アミロイド蓄積の有無(ADとの鑑別)
  • 神経心理検査:ADAS(語彙・喚語困難)、Rivermead記憶検査(顔写真の記憶)、語流暢性検査
  • WAB失語症検査・VPTA(相貌認知評価):言語症状・相貌失認の詳細評価
  • 血液検査:ビタミンB1・B12・甲状腺機能・HIV・梅毒・膠原病(治療可能な認知症の除外)

在宅での支援——rtvFTDに関わるご家族・介護者へ

rtvFTDでは病識が乏しく、本人は「問題ない」「認知症ではない」と思っていることが多いです。そのため支援を拒否したり、「認知症でないという診断書を書いてほしい」という要求が続いたりすることがあります。ご家族の精神的負担が非常に大きい認知症のひとつです。

 自動車運転の中止
  • 標識を見落とす・車線を誰かにぶつけても気にしないなど危険行動が早期から
  • 本人が「問題ない」と主張しても、医師・家族・行政が連携して早期に中止を
  • 免許返納についての丁寧な説明と支援が必要
 常同行動・繰り返しへの対応
  • 同じ話・同じ行動の繰り返しは「わかってやっている」のではなく病気の症状
  • 話の内容を否定・制止せず、やわらかく話題を切り替える
  • 強く制止すると興奮・怒りを招くことがある
相貌失認への対応
  • 「誰?」と言われても怒らず、名前を名乗ってから話しかける
  • 声を聞けばわかることがあるので声のかけ方を工夫する
  • 訪問スタッフも毎回自己紹介を行う
薬物へのこだわり
  • 薬へのこだわりが非常に強く処方変更を拒む場合がある
  • FTDにはコリンエステラーゼ阻害薬(アリセプト等)は基本的に無効または有害
  • 抑うつ・強迫症状にはSSRIが有効なことがある
  • 金銭管理・財産保護
  • 判断力の低下から不適切な契約・投資・詐欺被害が起きやすい
  • 早期から成年後見制度・日常生活自立支援事業の活用を検討
  • 通帳・印鑑の管理を家族が担う
 介護者の精神的サポート
  • 病識のなさ・繰り返し・こだわりから家族の疲弊度が非常に高い
  • 地域の認知症カフェ・家族会・FTD専門支援機関の活用
  • 訪問看護・デイサービス等でレスパイトを確保する

🌿 さくら在宅クリニックでできること

  • 訪問診療での行動観察・認知機能評価(MMSE・FAB・HDS-R等)の定期実施
  • 精神科・神経内科との連携による確定診断支援
  • 自動車運転中止の判断支援と運転免許センターへの情報提供
  • 抑うつ・強迫症状へのSSRI等薬物療法の検討・調整
  • 介護保険申請・成年後見制度への紹介
  • 訪問看護・デイサービスを組み合わせた介護者のレスパイト支援

🌸 rtvFTD(右半球優位の前頭側頭型認知症)のポイント まとめ

  • rtvFTDは記憶障害・相貌失認・行動異常(脱抑制・アパシー・常同性)を主症状とするFTDの亜型
  • 初期は行動異常・うつ・強迫症状のみが目立ち、精神疾患(うつ病・強迫症・ASD)と誤診されやすい
  • 「右に優位な側頭葉萎縮・代謝低下」を画像で確認することが診断の鍵
  • "右のSD"とする立場もあるが、症候はbvFTDとSDの双方の特徴を合わせ持つ病理的に異質な集団
  • 病識が乏しい——本人は「問題ない」と主張し支援を拒否することが多い
  • 自動車運転は早期に中止の必要あり。標識見落とし・車をぶつけても気にしない
  • コリンエステラーゼ阻害薬は無効・有害なことが多い。抑うつにはSSRIを検討
  • 介護者の精神的疲弊が大きい——レスパイトケアと支援制度の活用が重要

🌸 「人の顔が覚えられない」「こだわりが強くなった」
気になることがあればさくら在宅クリニックにご相談ください

逗子市・葉山町・鎌倉市を中心に、前頭側頭型認知症を含む非典型認知症の在宅医療・家族支援を行っています。精神疾患と言われてきたが改善しない、という場合もお気軽にご相談ください。

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本記事は医療情報の提供を目的としており、診断・治療の代替となるものではありません。症状についてのご相談は医師にお問い合わせください。

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