「神経障害性疼痛・CRPS」の診断
正しい痛みの評価と見極め方
― 「電気が走る」「焼けるような痛み」は神経障害性疼痛のサインかもしれない ―
「電気が走るような痛み」「触れるだけで痛い」「焼けるようにひりひりする」―― こうした痛みの訴えは、単純な炎症や筋肉痛とは異なる 神経障害性疼痛(Neuropathic Pain)の特徴です。 正確な診断が治療薬の選択に直結するため、在宅医療の現場でも 痛みの「性質・性状・分布」を丁寧に評価することが重要です。
神経障害性疼痛とは
国際疼痛学会(IASP)は2007年に神経障害性疼痛を 「体性感覚系に対する損傷や疾患によって直接的に引き起こされる疼痛」 と定義しました。 つまり、神経系に損傷または機能変化が起こることで生じる痛みです。
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神経障害性疼痛の特徴的な痛みの表現
電気が走る・焼けるようにひりひりする・針で刺されるような・しびれを伴う持続痛
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アロディニア
通常は痛みを生じない刺激(衣服が擦れる・冷風に当たる)で激しい痛みが誘発される
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痛覚過敏(Hyperalgesia)
通常より弱い刺激でも過大な痛みを感じる。感覚低下と過敏が混在することも
神経障害性疼痛の段階的評価(Grading System)
TreedeらによりIASP基準に準拠した4項目の段階的評価システムが提唱されています。
神経障害性疼痛の4つの評価基準
①
疼痛の範囲が神経解剖学的に妥当であるか、あるいは体性感覚系の損傷あるいは疾患を示唆する
②
末梢神経系あるいは中枢神経系に影響を与える明らかな障害あるいは疾患の存在がある
③
少なくとも1つの確認試験によって、明らかな神経解剖学的に妥当な疼痛範囲がある
④
少なくとも1つの確認試験によって、関係がある障害か疾患が存在する
判定基準
- 確実に神経障害性疼痛:①〜④のすべてが当てはまる
- 多分、神経障害性疼痛:①と②、プラス③もしくは④の存在
- 神経障害性疼痛かもしれない:①と②はあるが、③もしくは④の事実がない
神経障害性疼痛スクリーニングツール(簡易調査票)
日本ペインクリニック学会の神経障害性疼痛スクリーニング研究会が開発した 日本語版スクリーニング調査票は、臨床現場で広く使用されています。 7つの質問(問3)と日常生活への影響(問4)から構成されます。
問3:痛みの性状(7項目)
1
針で刺されるような痛みがある
2
電気が走るような痛みがある
→ロジスティックモデルでは「非常に強くある」で高得点
3
焼けるようなひりひりする痛みがある
4
しびれの強い痛みがある
5
衣服が擦れたり、冷風に当たったりするだけで痛みが走る 重要
→神経障害性疼痛で特に高得点を取る質問
6
痛みの部位の感覚が低下していたり、過敏になっていたりする
7
痛みの部位の皮膚がむくんだり、赤や赤黒に変色したりする
スクリーニングの判定基準
- 各質問:全くない=0点、少しある=1点、ある=2点、強くある=3点、非常に強くある=4点(ロジスティックモデルで重み付け)
- 単純合計9点以上 → 感度70%、特異度76%で神経障害性疼痛と診断可能
- ロジスティックモデルによる重み付きスコア4点以上 → 感度88%、特異度72%
- 臨床的には9点以上を神経障害性疼痛とすることで十分に診断可能と考えられる
複合性局所疼痛症候群(CRPS)
CRPSは神経障害性疼痛の代表的疾患であり、骨折・手術・外傷などをきっかけに、 起こった事象と比べて不釣り合いな持続的疼痛・アロディニア・痛覚過敏を特徴とします。 浮腫・発汗異常・皮膚色調変化・筋力低下・ジストニアなど多彩な症状を伴うことが特徴です。
CRPS診断基準の変遷
1994年(IASP)
旧診断基準(表3)
- 原因となる侵害的事象の存在
- 起こった事象と不釣り合いな持続的疼痛・アロディニア・痛覚過敏
- 浮腫・皮膚血流変化・発汗異常の証拠
- 他の状態では説明がつかないこと
- ※診断基準2〜4を満たすこと
2005年(IASP)
新診断基準(表4)
- 原因に不釣り合いな持続痛
- 他の疾患では説明できない
- 4カテゴリを検討(感覚異常・血管異常・浮腫/発汗異常・運動/栄養変化)
- 臨床基準:4項目中3項目以上で各1つ以上のsymptom+2項目以上で1つ以上のsign
CRPSの4カテゴリ(2005年診断基準)
| カテゴリ | 自覚症状(Symptom) | 他覚所見(Sign) |
|---|---|---|
| ① 感覚異常 | 自発痛、痛覚過敏(機械的・温熱・深部体性) | アロディニア確認 |
| ② 血管異常 | 血管拡張・収縮、皮膚温の非対称性、皮膚色調変化 | 皮膚温・色調変化の確認 |
| ③ 浮腫・発汗異常 | 腫脹、発汗過多・過少 | 浮腫・発汗異常の確認 |
| ④ 運動・栄養変化 | 筋力低下、振戦、ジストニア、協調運動障害、爪/毛髪変化、皮膚萎縮、関節拘縮 | 各所見の確認 |
CRPSの2型分類
- CRPS Type 1(旧称:RSD、反射性交感神経性ジストロフィー):神経損傷がない場合
- CRPS Type 2(旧称:灼熱痛、カウザルギア):神経損傷がある場合
在宅医療における痛みの診断・評価
問診のポイント
- きっかけ:外傷・手術・ギプス固定などの先行事象の有無
- 経過:発症から現在までの経過(遷延する・一度治まって再燃するなど)
- 性質:電気が走る・焼ける・しびれ・触れると痛いなどの質的特徴
- 範囲:神経解剖学的に妥当かどうか
- 随伴症状:発汗・浮腫・皮膚色調変化・関節拘縮の有無
- 日常生活への影響:気分・睡眠・仕事・家事への支障
診察のポイント
- 皮膚の色調・浮腫・萎縮の視診(患部カラー写真撮影が経過観察に有用)
- 筋の萎縮・爪の変形・自動運動による関節可動域の確認
- アロディニアの有無:はけで軽く触れ、過大な痛みが誘発されないか確認
- 炎症反応・単純X線・皮膚温の測定(可能な範囲で)
在宅医療での実践ポイント
- スクリーニング調査票を活用し、「電気が走る」「衣服が擦れると痛い」など神経障害性疼痛特有の表現を聞き逃さない
- 通常の鎮痛薬(NSAIDs・アセトアミノフェン)が効きにくい痛みは神経障害性疼痛を疑うシグナル
- 神経障害性疼痛にはプレガバリン・ガバペンチン・三環系抗うつ薬・SNRI・オピオイドなどが有効で、薬剤選択が変わる
- CRPS疑いは早めにペインクリニックや整形外科・神経内科へ紹介を検討
- 痛みによるQOL低下・うつ・不眠を同時に評価し、包括的なケアへつなぐ
TIPS
「電気が走る」「衣服が擦れるだけで痛い」「焼けるようにひりひりする」などの
神経障害性疼痛特有の表現を見逃さず、スクリーニング調査票(9点以上)で確認する。
通常の鎮痛薬が効きにくい慢性疼痛では、神経障害性疼痛・CRPSを鑑別に挙げ、
神経解剖学的な評価と適切な薬剤選択・専門科への連携につなぐことが重要。
神経障害性疼痛特有の表現を見逃さず、スクリーニング調査票(9点以上)で確認する。
通常の鎮痛薬が効きにくい慢性疼痛では、神経障害性疼痛・CRPSを鑑別に挙げ、
神経解剖学的な評価と適切な薬剤選択・専門科への連携につなぐことが重要。