在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

慢性閉塞性肺疾患 (COPD)患者さんの意識障害

慢性閉塞性肺疾患 (以下COPD)の患者さんが意識障害を生じている場合は、かなり緊急度の高い病態です。ただし、こうした患者さんは恒常的に血中二酸化炭素(CO2)の濃度高く酸素投与に注意が必要とされています。その理由は正常の人は血中CO2濃度の上昇によって呼吸中枢が刺激され呼吸していますが、慢性的な高CO2血症がある方は、低酸素血症だけが呼吸中枢を刺激しているので、酸素投与によって呼吸中枢への刺激がなくなり、呼吸が止まるというものです。CO2ナルコーシスとは、高CO2血症によって、意識障害などの中枢神経症状を呈している状態を言います。このCO2ナルコーシスは酸素投与によって起こることもありますし、CO2ナルコーシスに陥っている時に、さらに酸素を投与すると、呼吸停止をきたすとさえ言われています。このことは医療職の間ではよく知られたことなのですが、CO2ナルコーシスを危惧するあまり、「本当に酸素が必要な場合に酸素投与が控えめになってしまっている」という弊害が生じています。慢性の高CO2血症がある患者であっても、急激に呼吸状態が悪化している場合には、躊躇なく高濃度酸素を投与しなければなりません。その場合、SpO2が90%前後になることを目標に(普段のSpO2のデータがわかればそれを目標に)酸素を投与します。決して100%を目指してはいけません。慢性の高CO2血症があるかどうかが分かる手段として、COPDの病歴を把握しておくこと、過去の高CO2血症の検査値を把握しておくこと、外見(やせた高齢者で胸郭の変形がみられるなど)でも判断できます。万が一、慢性の高CO2血症がある患者に高濃度酸素を投与したことで呼吸が止まってしまったとしても、人工換気により呼吸を補助すればよいのです。一方、低酸素血症による臓器障害や脳症は不可逆的であり、取り戻すことはできません。在宅医療 | さくら在宅クリニック | 逗子市 (shounan-zaitaku.com)

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写真は逗子在住山内明徳様撮影