在宅医療と抑制
高齢者の在宅医療において家族の負担となる一つの理由は、不穏などの症状です。
もちろん陽性症状として大声あげて外にでる、物を投げたりするなどの症状ある場合は、ある程度内服による管理必要と考えています。但し、少しふらつくからベッド上というのは高齢者の廃用を進めるものであり、好ましくありません。
転倒を予防するために、在宅医療で介入できることは
①減薬
内服薬が5種類以上だと優位に転倒リスクが上がることが分かっているので、できるだけ減薬します。
②転倒の原因となる薬剤をできるだけ処方しない
転倒の原因となる薬剤は↓のように数多くあります。特にベンゾジアゼピン系に注意が必要です。
睡眠薬・向精神薬、抗不安薬、筋弛緩薬、降圧薬、α拮抗薬、硝酸薬、制吐薬(プリンペラン)、利尿薬、抗アレルギー薬、抗ヒスタミン薬、抗コリン薬、麻薬、ジギタリス、抗パーキンソン薬
高齢者において血清ビタミンD濃度が不足すると、転倒しやすくなることが報告されています。ビタミンDの投与で転倒が2割程度減少します。
④運動
運動により転倒が17%減少すると言われています。
特にバランス訓練が重要です。バランス訓練として有名なものにロコモ体操がありますが、個人的には分かりやすく、簡単で、転倒リスクが低く、効果が高い「起立訓練」を勧めています。
⑤住環境の整備
在宅医療では実際に生活している場を見ることができるため、より具体的なアドバイスができます。段差の解消、障害物を無くす、照明の整備、手すりの設置、歩行器を勧めたりなど。
⑥排尿障害の治療をする
⑦白内障の手術を勧める
㊵慢性心不全の終末期医療
以前の経験した患者さんです。
90代の男性で5年前に心筋梗塞を患いカテーテルの治療受けましたが、左心機能不全にて治療抵抗性の慢性心不全でしたが、ご自宅で生活させていました。その後発熱に伴う意識障害、体動困難にて入院となり高齢の奥様に説明し急変時は無理な延命治療しないという意志確認されております。入院翌日に呼吸困難増悪あり、感染症契機の慢性呼吸不全の急性増悪の診断と診断され、延命治療行わない意思確認のもとに人口呼吸管理行わない旨説明すると「息子さんと相談にてできるだけのことをして欲しい」とのこと。
家人の意思に従い人口呼吸管理行い、尿量低下し呼吸状態の改善ない状態が続く。
こうした状況は、日常的に起こる問題です。
敢えて問題としたのは、こうした急性期治療で誰一人幸せにならず、納得していないことです。
こうしたことが起こってしまった原因として
- 急性期医療の現場に立つ先生方に家族全員に全て説明を課すことは困難なことが多い
これに対しては、病状が安定した際に再度家族構成確認して、家族の意見を確認することが重要です。但し、この際最も重要なことは患者さん本人の意思であり、それを家族が理解共有することが重要です
- 延命治療行わないことと緩和治療の方針が混同される場合多い
延命治療行わない=医学的に改善見込みない治療を行わないことです。一方、緩和治療とは医学的に治癒に導けない病状に対して苦痛を取り除く治療です。延命治療違う
- 病状が安定している時間ある時に緩和治療に関して説明することは難しい
病状が安定した後に増悪したことを考えるのは、心理的に難しい場合が多いのが現実です
- 末期心不全の予後予測は難しい
末期心不全の予後を予測する因子は、約300前後あるとされています。これは逆に考えれば予測できないという真実です。
やはり、本人の意思が最も重要でなありcure(治療)からcare(苦痛を取り除く)への移行を考えることも前向きに検討すべきと私は考えます。
認知症を科学する15
下記の資料は、一般の方には少し分かりづらいかもしれません。
かなりざっくり説明するとドネペジルの有用性を科学的に立証するために5回の試験はうまくいかず、6回目で結果をだせました。しかし、その結果とはドネペジル5mgを半年間内服させた患者は、そうでない患者よりADASが2点改善した程度です。ADASの2点相当は封筒に宛名が書ける、今日の曜日が言えるで2点です。これをもって認知症が良くなるとするには、私自身は受け入れにくい結果です。
高齢者が夜間不穏になった場合
認知機能が低下した高齢者が入院すると、かなりの確率で不穏となります。そうした場合、安全の為抑制し薬にて鎮静します。こうした処置にて徐々に身体が弱っていき肺炎などを併発して寝たきりに移行する患者さんを沢山診てきました。在宅医療では、可能な限り不穏せん妄に関して薬物治療は控えたいのが心情です。しかし、現実は必要な場合も沢山あります。
せん妄の予防・治療として薬物治療は勧められないようですが、そう言ってられないのが現状です。まず、最も大切なことはせん妄に対する薬物治療で最も大事なことはベンゾジアゼピン系を使わないことです。
というのもベンゾジアゼピン系は意識レベルを低下させる薬物なので、せん妄を誘発させたり、せん妄をより悪化させてしまうからです。
すでにベンゾジアゼピン系を内服している場合は止めます。
また、抗ヒスタミン薬(アタラックスPなど)も抗コリン作用によりせん妄を誘発させるため使用してはいけません。
せん妄を起こしそうな患者さんに眠剤を処方する場合には、
デジレル、レスリン25mg
抑肝散1包
ベルソムラ15mg
セロクエル25mg(糖尿病では禁忌)
などにしています。
現にせん妄を起こしている場合には、
①リスパダール内用液0.5ml口腔内投与(錐体外路症状に注意)
②セレネース5mgかコントミン10mg 筋注
が良いと思われます。
認知症を科学する14
高齢者の腰痛に関する注意点
加齢に伴い腰痛は、かなりの頻度で生じます。腰痛に関する話を始めると終わりなき世界となるため、ここでは脊椎圧迫骨折についてお話しさせて下さい。
脊椎圧迫骨折は高齢者によくおこる骨折の一つです。
診断に関しては、病歴が重要です。
①受傷機転
脊椎圧迫骨折は典型的にはしりもちをつくような受傷機転となります。つまり後方に転倒しています。前方や側方に転倒した場合は、典型的ではありません。まずは、どの方向に転倒したのかを聴取します。なかには骨粗鬆症が重度のために、転倒歴はなく、少し無理をした程度のことで骨折する方もいます。いわゆる「いつのまにか骨折」と言われているものです。芸能人の松本伊代さんはヨガをして腰椎の圧迫骨折起こしたとのことです。
②問診
一番大切な質問は「寝て起きる時が大変ではないですか?」です。
圧迫骨折を起こしている方は布団から起き上がるまでに30分くらいかかってしまう方もいます。
しかし、一旦立ってしまうと、歩けてしまう。これも特徴的な所見です。
③身体所見
脊椎棘突起の叩打痛を胸椎から腰椎下位レベルに至るまでとります。
しかし骨折があるからと言ってかならずしも叩打痛があるとも限りません。
また側胸部や側腹部に放散痛が生じていることも多いです。
内科で肋間神経痛などと診断され圧迫骨折が見逃されていることがあると思われます。
④診断
レントゲン撮影をしても、確定診断はできません。それは、椎体がつぶれていても、今つぶれたのか、昔からつぶれていたのかわからないからです。
レントゲンで診断するには、立位と臥位のレントゲンを比較したり、経時的にレントゲンを撮影し椎体がつぶれてくるのを確認しなければなりません。
どうしても確定診断したければ、MRIをとればいいのですが(感度99%・特異度98.7%,椎体内がT1 low,T2 脂肪抑制でhighを確認)、検査のため仰向けに30分くらい寝てなければなりませんし、確定診断したところで治療は大きく変わらないので、ルーチンにやるようなものでもありません。
在宅医療では検査機器が限られてきますが、問診や身体所見でほとんどが診断することができます。
⑤治療
骨折部がある程度安定し痛みがとれてくるまでは3週間くらいはかかります。それまではベッド上になっていてもしょうがないと思われます。ベッド上での体位としては側臥位を推奨します。仰臥位で寝ると骨折部が開く方向に力がかかるからです。また、寝返りもできないくらい痛みがひどい場合は、褥創発生リスクが高まりますのでケアマネージャーに連絡し、エアーマットレスの導入を検討します。さらに、訪問リハビリを導入して、ベッド上の運動をするとなお良いと思います。
コルセットは作ってもよいのですが(業者さんによっては在宅でも作ってもらえます)、せっかく高いお金を払って作ってもらっても結局使ってもらえないこともあります。そのため固定性は全くありませんが、腰椎バンドを処方することがあります。
適応外の使用法であり、またエビデンスはありませんが、骨癒合を早める目的でPTH製剤(フォルテオやテリボン)を導入することができます。実際、PTH製剤を使った場合、痛みが早くとれる印象があります。圧迫骨折を起こすということは、骨粗鬆症が背景にあるので、PTH製剤の使用は可能です。注意点としては圧迫骨折の鑑別疾患として癌の骨転移があり、その場合は禁忌となるので、その可能性がないかを考えなければなりません。また、高Ca血症や肝機能障害がでたりする場合もあるので、導入1か月後には採血で評価します。骨癒合を目的とするならば3ヶ月で終了し、骨粗鬆症の治療をそのままするのであれば2年間継続します。
⑥経過
1週間寝たきりになっているだけで筋力は10~20%低下するといわれています。3週間を経過し痛みが落ち着いてきたら、徐々に離床してもらいます。
3ヶ月で骨癒合は完成し、痛みはなくなるのが普通です。それまではNSAIDsで疼痛コントロールをします。痛みが3ヶ月を超えて続いているような場合には、偽関節になっている可能性や癌の骨転移の可能性もあるので精査も検討します。
⑦注意点など
ほとんどの症例が上記の対応で問題なく治りますが、注意しなければならないのは破裂骨折です。
破裂骨折とは椎体後壁が脊柱管内に突出する骨折です。脊柱管内に大きく突出した場合、脊髄や馬尾神経を圧迫し、膀胱直腸障害や下肢のしびれ、麻痺が生じることがあります。その場合は手術になる可能性がありますので注意が必要です。
最初から破裂骨折のこともありますし、圧迫骨折が経過中に破裂骨折になることもあります。