注意欠如・多動症
Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder(ADHD)
成人女性の「不注意優勢型ADHD」が認知症と間違われた症例 — Dementia Mimicsとしての理解と鑑別
40歳代後半の女性。職場での仕事のミスが多くなったため、本人が認知症ではないかと心配して認知症外来に受診した。具体的なミスは、入力ミス・値段の記載間違い・個数間違い・メールの宛先誤送信など。同じ会社で比較的単純な事務職をしていた時期はミスをしても周囲がカバーできていたが、半年前に部署移動となり、複数の仕事を同時に行う作業が増えてからミスが多くなったという。
幼少期からの病歴を聞くと、家庭内の日常生活や学校においてもミス・物の置き忘れ・忘れ物が多く、部屋の片づけが苦手だったという。冷蔵庫を開けても何を取り出すかを忘れてしまったり、人から声をかけられた際に持っていたものを落としたり、うっかりフライパンを触って熱傷になったり、暖房器具で低温やけどをしたりすることもよくあった。大人になってからも車でガードレールにぶつかったり、壁などにこすったりすることが多かった。
これらのミスや物忘れに対して、メモ用紙を冷蔵庫の取っ手やドアノブに張る・大事な書類をダイニングテーブルの上など常に見える場所に置く・スマートフォンのアラーム機能を用いるなどの自己対処をしていた。多動や衝動性は顕著ではなく、友人関係も良好だった。
父と長男が注意欠如・多動症(ADHD)の既往があった。
意識は清明。神経学的所見には異常を認めなかった。診察には協力的であり、人とのコミュニケーションや共感能力には特に問題は認められなかった。MMSE:30/30点(認知機能スクリーニングは正常範囲)。
幼少期からミスや物忘れが多かったこと、片づけが苦手であったこと、仕事量が増えてからミスが多くなったこと、さらには家族歴から、ADHDが鑑別に挙がった。
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(標準プロフィール)
🎯 診断:不注意優勢型の注意欠如・多動症(ADHD)
ADHDは不注意・多動・衝動性の症状がみられ、これらの症状によって家庭内や社会での機能が低下する神経発達症(発達障害)である。発達障害の中では最も高い有病率があり、学童期には約5%くらいの有病率をもつことが知られている。
成人となっても多動は比較的目立たなくなるものの不注意と衝動性の症状が持ち越されることが多く、成人においても2.5〜5%の有病率をもつといわれている。
男女比は2:1程度とされてきたが最近では少なくなってきている。男性では多動や衝動性による問題行動が目立つために診断されやすく、女性は本症例のように不注意優勢型が多いために子供時代には目立った問題にならずに診断に至らなかった可能性が挙げられる。
ADHDは他の精神疾患と同様に遺伝の要因が強い疾患であり、遺伝率は約75%であるといわれている。したがって診断には家族歴が参考になる。一方で25%の環境要因は、超低出生体重児、胎生期のニコチン、アルコール、ストレスへの曝露、鉛などの環境汚染物質などが挙げられているが、どれも明らかな原因としては確定されていない。
| 比較項目 | ADHD | 認知症 |
|---|---|---|
| 発症時期 | 幼少期から | 成人後に発症 |
| 症状の進行 | 進行しない(定常的) | 進行性 |
| MMSE/HDS-R | 正常範囲 | 低下することが多い |
| 記憶障害 | 再認は良好(符号化の問題) | 再認も低下する |
| 作業記憶 | 高負荷条件で低下 | 全般的に低下 |
| 家族歴 | ADHDの家族歴あり(遺伝率75%) | Alzheimerの家族歴 |
| 対人関係 | 比較的良好 | 変化することがある |
| 画像/バイオマーカー | 診断に役立つものなし | ADバイオマーカーなど |
| 治療反応 | アトモキセチン・メチルフェニデートに反応 | コリンエステラーゼ阻害薬など |