在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

在宅医療における認知症について38~認知症の非薬物療法 ― 科学的にわかっていること、いないこと

認知症の行動・心理症状(BPSD)に対しては、薬に頼らず行える 非薬物療法 も数多く研究されています。ここでは、臨床研究の結果から「効果があるとされるもの」と「効果が乏しいもの」を整理してご紹介します。 効果があるとされる非薬物療法 1. 集団活動・…

在宅医療における認知症について37~身体疾患に潜むBPSD悪化要因 ― 感染症・脱水・痛み・感覚障害に注意

認知症の人にみられる行動・心理症状(BPSD)が悪化したとき、背後に 身体的な原因 が隠れていることがあります。 実際、在宅でBPSDを抱える認知症の方を対象にした調査では、血液検査や尿検査によって 尿路感染症・高血糖・貧血など未診断の病態が34.1%に…

在宅医療における認知症について36~抗精神病薬と高齢者 ― 薬が精神症状を悪化させることもある

高齢者に意欲低下や寝たきりといった状態が出てきたとき、その原因のひとつに 抗精神病薬 が隠れていることがあります。 抗精神病薬が原因となるケース 多くは「精神症状が出たので薬を追加したら、かえって悪化した」というパターンです。例えば: 食欲低下…

在宅医療における認知症について35~徹底的に減薬 ― BPSD悪化を防ぐために

厚生労働省の「安心と希望の介護ビジョン」検討会で、有識者から BPSD(認知症の行動・心理症状)悪化の主な要因 として以下の3つが挙げられました。 薬剤(37.7%) 身体合併症(23.0%) 家族・介護環境(10.7%) つまり、最も大きな悪化要因は 薬剤=処…

在宅医療における認知症について35~アルコール依存症 ― 説得してもやめられないのはなぜか?

「お酒は体に悪い」と聞いたことがある方は多いでしょう。脳が萎縮する、認知症のリスクになる ― このあたりまでは一般的な知識として知られています。 しかし実は、断酒によって脳萎縮や認知機能の低下が回復する可能性があることは、あまり知られていませ…

在宅医療における認知症について34~アルコールという危険因子 ― 認知症や精神症状との関わり

アルコールは「脳を働かないようにする方向」に作用します。飲み始めは陽気に見えても、量が増えるにつれて感情が抑えられなくなったり、歩行が困難になったり、最終的には呼吸が止まる危険さえあります。 「お酒を飲むと元気になる」と思っている方もいます…

在宅医療における認知症について33~まずは断酒から ― 精神症状を「認知症のせい」と決めつけない大切さ

認知症の人にみられる行動や心理症状を、医療の現場では BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:認知症の行動・心理症状) と呼びます。BPSDには、幻覚・妄想・抑うつ・不安・多幸・無為・興奮・易刺激性・脱抑制・異常行動などが含まれ…

看護師さんによる在宅医療におけるエコーを科学する34~シャント機能評価における超音波の活用

透析患者さんのシャント管理において、血流量や血管構造を正しく評価することは非常に重要です。ここでは、実際のエコー検査で行われる「上腕動脈血流量測定」と「シャント形態評価」の流れをご紹介します。 1. 上腕動脈血流量測定 血流量は、肘から7〜8cm中…

看護師さんによる在宅医療におけるエコーを科学する34~エコーで見る内シャント観察のポイント

透析患者さんのシャント管理において、エコー(超音波検査)は欠かせないツールです。シャント機能や形態を把握することで、トラブルを早期に発見し、適切な対応につなげることができます。今回は「血流量測定」「血管抵抗指数」「シャント形態評価」の観点…

看護師さんによる在宅医療におけるエコーを科学する33~エコーで判断できること ― 内シャント(AVF)の評価

透析患者さんにとって、**バスキュラーアクセス(VA)は命綱ともいえる血液の出入り口です。本邦では、自己血管を利用した内シャント(AVF: arteriovenous fistula)**が最も多く、透析患者の約9割がAVFで治療を受けています。 今回は、エコーを用いたAVF(…

看護師さんによる在宅医療におけるエコーを科学する32~食道胃接合部での経鼻胃管留置確認 ― エコーの活用法

経鼻胃管の留置確認といえば、これまでは胸部X線写真が主流でした。しかし、ベッドサイドで非侵襲的に行えるエコーによる確認が注目されています。特に在宅やX線撮影が難しい環境においては、大きな利点となります。 食道胃接合部での観察ポイント 観察手技 …

看護師さんによる在宅医療におけるエコーを科学する31~エコーで行う経鼻胃管の評価・判断の手技

通常業務では、経鼻胃管の挿入後、栄養剤の初回投与前にエコーで確認を行います。このとき、エコーに映る経鼻胃管の見え方は大きく分けて3パターンに分類されます。 ① 1本の高エコー像(挿入直後) チューブ内が空気で満たされている状態。 エコーでは線状の…

看護師さんによる在宅医療におけるエコーを科学する30~エコーでみる頸部食道と食道胃接合部の観察ポイント

経鼻胃管の留置や管理を行う際、エコーを用いて頸部食道や食道胃接合部を確認することができます。ここでは、観察の基礎知識から方法、注意点までを整理しました。 ① 頸部食道の観察 使用するプローブ リニア型プローブ:浅い部位の観察に適しています。 ラ…

看護師さんによる在宅医療におけるエコーを科学する29~エコーで判断できること ― 経鼻胃管留置の安全確認

経鼻胃管とは 経鼻胃管は、意識レベルが低下した患者さんや嚥下障害を持つ患者さん、あるいは咽頭・食道の手術後の患者さんに使用される管です。鼻から食道を通り、胃まで挿入して、栄養や水分の投与、胃内容物の排出などを行います。 しかし、この管が誤っ…

在宅医療における認知症について32~コリンエステラーゼ阻害薬のスイッチングと使い方の注意点

スイッチングは有効か? 系統的レビューによると、最初に使ったコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンなど)が無効だった場合や副作用で中止した場合、別の薬剤にスイッチすると「効く」「副作用が少ない」可能性があります。…

在宅医療における認知症について31~コリンエステラーゼ阻害薬とメマンチン ― 併用に意味はある?

1. 併用療法のメタ解析から 中等度~高度アルツハイマー病での併用療法は、単独療法に比べて統計学的には改善あり。 ただし、その差はごく小さく、臨床的な意味があるかは不明。 海外で行われたメマンチン28mg/日の併用RCTでは有意差が出たが、国内未承認量…

在宅医療における認知症について30~メマンチンの検証 ― 本当に効くの?副作用は?

1. メマンチンの効果(コクランレビューから) プラセボ対照RCTを解析した大規模レビューでは、中等度~高度のアルツハイマー病で以下の改善が確認されました: SIB(認知機能):+2.97点(100点満点) ADCS-ADLsev(日常生活動作):+1.27点(54点満点) NP…

在宅医療における認知症について29~海外データからみるコリンエステラーゼ阻害薬の「現実解」

まず結論 認知機能検査(ADAS-cog)の平均改善は2~3点程度で、臨床的に意味があるとされる4点以上には届かないことが多い。 “効いた”と実感できる人は約10人に1人(NNT≈10)。著効は約40人に1人(NNT≈42)。 副作用が出る人の割合(NNH≈12)は、効く人の割…

在宅医療における認知症について28~レビー小体型認知症(DLB)に対する抗認知症薬の有効性まとめ

日本でDLBの効能・効果を持つ薬はドネペジルのみ(2018年時点)。ただし「どこまで効くのか」は疾患特性に合わせた評価が必要です。 要点(先に結論) 効きやすい領域:DLBの認知機能(特に10mg/日でMMSEの改善)。 効きにくい領域:**精神症状・行動障害(…

在宅医療における認知症について27~メマンチン(メマリー®)とは?

アルツハイマー型認知症の治療薬の一つに メマンチン があります。中等度~高度の患者さんに使われるお薬で、ドネペジルなどのコリンエステラーゼ阻害薬とは作用機序が異なるのが特徴です。 作用の仕組み メマンチンは NMDA受容体拮抗薬 で、脳内のグルタミ…

在宅医療における認知症について26~リバスチグミン(イクセロン®パッチ)とは?

アルツハイマー型認知症の治療薬の一つに リバスチグミン があります。現在、日本では貼付剤(パッチ)のみが使用できます。 作用機序と特徴 リバスチグミンは「アセチルコリンエステラーゼ」と「ブチリルコリンエステラーゼ」という酵素を両方阻害します。 …

在宅医療における認知症について31~コリンエステラーゼ阻害薬とメマンチン ― 併用に意味はある?

1. 併用療法のメタ解析から 中等度~高度アルツハイマー病での併用療法は、単独療法に比べて統計学的には改善あり。 ただし、その差はごく小さく、臨床的な意味があるかは不明。 海外で行われたメマンチン28mg/日の併用RCTでは有意差が出たが、国内未承認量…

看護師さんによる在宅医療におけるエコーを科学する28~エコーでの評価・判断の手技

~PICC挿入における静脈選択と穿刺アプローチ~ PICC(末梢挿入型中心静脈カテーテル)の挿入では、適切な静脈の選択・穿刺部位の決定・エコー下穿刺が成功の鍵になります。今回は「エコーでの評価と判断のポイント」をまとめます。 1. 適切な静脈・穿刺部位…

看護師さんによる在宅医療におけるエコーを科学する27~エコーでの観察アプローチのポイント

~PICC挿入に必要な基本知識~ PICC(末梢挿入型中心静脈カテーテル)を安全に挿入するためには、エコーを正しく使いこなすことが欠かせません。ここでは「準備」と「観察の基本ポイント」について整理します。 エコー観察の準備 プローブ:表在の血管を描出…

看護師さんによる在宅医療におけるエコーを科学する26~PICC(末梢挿入型中心静脈カテーテル)の挿入とエコー確認

~安全で確実なカテーテル留置のために~ 2015年10月、厚生労働省の通知により、看護師による特定行為が明文化されました。その中には PICC(Peripherally Inserted Central Venous Catheter:末梢静脈挿入中心静脈カテーテル) の挿入も含まれています。す…

看護師さんによる在宅医療におけるエコーを科学する25~点滴が中断される理由を観察する

~皮下浮腫・血管内血栓とエコー評価~ 末梢静脈カテーテルを留置しても、腫脹・発赤・痛みといった症状が出て途中で抜去しなければならないことがあります。これらは 中途抜去(Catheter Failure) の原因となり、点滴治療の継続を妨げてしまいます。 特に…

看護師さんによる在宅医療におけるエコーを科学する24~エコーでの末梢静脈カテーテル留置評価

~太さ・深さ・走行を“見える化”する意味~ 点滴や輸液のために末梢静脈カテーテルを留置したのに、「点滴が落ちない」「腫れてきた」「発赤がある」「痛い」などの理由で抜去せざるを得なくなることがあります。これらは総称して**末梢静脈カテーテル中途抜…

パーキンソン病の新しい治療選択肢「持続皮下注射ヴィアレブ」を開始しました

パーキンソン病は進行に伴い、薬(特にレボドパ)の効き目が安定せず、「動ける時間」と「動けない時間」がはっきり分かれてしまうことがあります。これを 「オン・オフ現象」 と呼びます。 このような症状に悩む方のために、近年日本でも使えるようになった…

在宅医療における認知症について25~ガランタミン・リバスチグミン・メマンチンの国内治験データから見えること

抗認知症薬は「効果があるかどうか」を国内外の臨床試験で検証して承認されました。ここでは日本で行われた治験データをもとに、ガランタミン・リバスチグミン・メマンチンの実際をまとめます。 ガランタミンの治験結果 国内で2回大規模試験(GAL-JPN-3、GAL…

在宅医療における認知症について25~ドネペジルの国内治験データからわかること

抗認知症薬ドネペジルは、日本で行われた複数の臨床試験を経て承認されました。その過程をたどると、なぜ現在の用量設定になっているのかが見えてきます。 軽度~中等度アルツハイマー病での試験(表5) 2mg/日(131-A・132試験) → 有効性なし(プラセボと…