在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

褥瘡を科学する

f:id:neurosamasama:20220122160523p:plain褥瘡の状態によっては、壊死組織の除去が必要な場合もあります。こうした場合は、壊死組織を自己融解させる外用薬が有用な場合があります。以前と比べ、褥瘡治療の道具は格段に増えており、これらの特性を理解し、適切な治療が行えるようにしていかなければなりません。在宅医療 | さくら在宅クリニック | 逗子市 (shounan-zaitaku.com)

褥瘡に対する湿潤療法について

病院勤務時代の術後の患者さんで、創部治癒遅延が予想される患者さんに対してはカラヤヘシブという被覆材を用いていました。とても有用な被覆材ですが高価であり、通常の薬局などで購入することができず褥瘡治療に援用することができません。褥瘡に対してはサランラップを用いて湿潤環境を保つ治療があります。この治療の難点は浸出液でムレることが欠点でした。さらに進化したラップ療法として開放性ウエットドレッシング療法があります。

これは、褥瘡を適度に湿潤環境に保ちつつ、浸出液は適度に吸収するという、とても優れた療法です。

具体的に使うのは褥瘡パッド(穴あきポリ袋入りオムツ)という、台所用の水切り袋と平おむつを組み合わせたものです。

処置方法は、水道水で洗ってパッドを貼るという単純なものなのです。

①ベッドが濡れないように、あらかじめ下におむつを敷きます(その際おむつではなくペットシーツにすると安価になります)。

  • 褥瘡を含め臀部全体をぬるま湯で軽く洗います。使うのは水道水です。この際、霧吹きを使うとそれほど水を使うことなく、ピンポイントで狙った場所を洗うことができるので便利です。褥瘡には水圧はかけません。創面で細胞培養しているようなイメージをもってもらえば、創内は愛護的に扱わないといけないことが分かります。褥創を強くこするは厳禁です。

③褥瘡周囲の皮膚についた水をティッシュペーパーなどで拭きとります。褥瘡内部の水分は拭きとりません。

 

④褥瘡パッドを当てて終わりです。この際、褥瘡パッドは褥瘡よりはるかに大きいパッドを使うのがポイントです(これは、創傷被覆材をできるだけ小さく貼るという従来の考え方とは異なります。この理由は、少しずれてもパッドが褥瘡に当たってくれるのと、大きいことで褥瘡にかかる圧を分散させることができるため)。また、パッドはテープで固定せず、おむつでくるんで固定するのがポイントです(これは、パッドが動くことで褥瘡にかかるずり応力を分散させることができるから)。おむつで固定できない部位はテープで固定します。

下肢の褥瘡にはナイロンストッキングを使うと便利です。ストッキングを履くことでパッドを固定することができ、またストッキングが滑ることで皮膚にかかるずり応力を分散させ褥瘡予防になります。

褥瘡予防にはワセリンを塗布するかフィルムを貼ります。これも、皮膚にかかるずり応力を分散させることができます。在宅医療 | さくら在宅クリニック | 逗子市 (shounan-zaitaku.com)

写真は逗子在住山内明徳様撮影

 

褥瘡を科学する

f:id:neurosamasama:20220120202536j:plain今回から在宅医療において切っても切り離せない褥瘡を科学的考察させて下さい。

まず、ドレッシング材は上記の様に何種類かに分類できます。

示したドレッシング材は

創面閉鎖し、創面に湿潤環境形成するドレッシング材であり

粘着性のドレッシング剤が創周囲の皮膚に密着し、

創面を閉鎖環境のもとに湿潤環境とするドレッシングです。

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褥瘡管理について~体圧管理と湿潤環境保持ついて

褥瘡治療とは、軟膏の種類を変えてみたり、創傷被覆材を変えてみたりすることではありません。

褥瘡を治すには、「なぜ褥瘡ができるのか」、「傷(キズ)が治るということはどういうことなのか」といった、理論的な背景を知っておく必要があります。

まず、褥瘡に限らず、傷を治すのには湿潤療法が適しています。

湿潤療法とは傷を乾燥させずに、湿潤環境(湿った環境)に置くことで治す治療法です。

もちろん褥瘡も傷なので、湿潤治療が適するのですが、褥瘡が外傷の傷と違うのは、

「治療経過中も受傷機転が持続する」というところなのです。

これはどういうことなのかと言うと、褥瘡にはつねに外力(圧迫やずり応力など)がかかり続けるのです。

さらに分かりやすく説明すると、傷ができて、常に傷が開くように力をかけていたとしたら傷が治らないのと同じ理屈です。

つまり、湿潤環境に置いておきさえすれば、全ての褥瘡が治るわけではないのです。

また、もう一つの問題として、褥瘡はつねに浸出液がでることが挙げられます。この浸出液には傷を治す成分が含まれていると言われており、褥瘡が治る過程では重要な役割を果たします。しかし、褥瘡をただ密閉してしまうと、浸出液が停滞して感染の原因になったり、浸出液で褥瘡周囲の健常な皮膚がただれてしまったり、臭いがひどくなったりという問題が生じます。

この2つの問題を解決する方法が、体圧管理開放性ウエットドレッシング療法です。

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写真は逗子在住山内明徳様撮影

 

入院すると認知症が悪くなる?

それまで日常生活において特段問題なかった患者さんが入院により、認知機能障害が顕在化することがよくあります。認知症という言葉は、非常に一般的ですが、この病気は様々な特徴ある病態により病名が異なってきます。また症状においても中核症状と周辺症状と呼ばれる病状です。周辺症状は BPSDとも呼ばれます。BPSDは(Behavioral and psychological symptoms of dementia)の略であり、BPSDは中核症状+環境要因、身体要因、心理要因などの相互作用によって様々な精神症状や行動障害を生じます。因みに中核症状は脳の神経細胞の障害によって起こる認知機能障害であり、記憶障害 見当識障害 実行機能障害を指します。そして認知症においては近年、軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)と呼ばれる病態が着目されています。これは、認知症の前の段階であるとされ、 認知機能の低下がみられますが、現状では認知症とされるほどではなく、日常生活に困難をきたす程度でもありません。こうした病態に心当たりある高齢者は多いと思います。脳外科医として外来されている患者さんに画像評価行うと「最近物忘れ多くて、認知症の方はどうですか?」という質問をよく受けます。まさにMCIの病態と考えます。こうした患者さんが何かのきっかけで認知症の症状が発現することは、非常によくあることです。BPSDとは中核症状+環境要因、身体要因、心理要因に依り生じ、入院とはまさに環境要因、身体要因、心理要因が変化することですから。こうした症状出現した時にどうすればよいか?薬剤などで鎮静したり、抑制など行い転倒防止するのが医療現場の大半だと思います。自身は可能な限り退院とするようにしてます。もちろん、病状や環境により難しい場合もあります。ただ、こうした患者さんは自宅へ帰ると、ほぼ普通に戻ります。自宅に帰る際も『大変だったら、すぐ戻ってきてください』と言えば、患者さんの家族も安心して退院を受け入れられます。自身の経験で言えば、戻ってきた患者さんは一人もいません。なぜなら入院前は普通に自宅で生活できていたのですから。在宅医療 | さくら在宅クリニック | 逗子市 (shounan-zaitaku.com)

写真は逗子在住山内明徳様撮影

 

認知症を科学する~一般の方々へ

孤食×共食、独居×同居が死亡率や認知機能にどのような影響を与えるかについて、より重要なことは独居<孤食であることが明らかです。そしてコロナ感染症が、こうした孤食に悪い影響を与えていることは明らかです。在宅医療 | さくら在宅クリニック | 逗子市 (shounan-zaitaku.com)