在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

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複雑巨大中大脳動脈瘤のHybrid治療 自験例

最近当院でも経験した複雑MCA動脈瘤に関する文献考察です。

 

複雑MCA(中大脳動脈)動脈瘤とは、分かりにくい表現ですが、つまり形が歪で開頭手術によるクリッピングや血管内治療によるコイリングのみでは難しい症例です。

こうした症例に対しては、血管性状が異常であることより母血管ごと閉塞させてバイパスによる新たな還流路を作るという報告が散見されます。

 

一方でMCAにはLSAという重要な血管がMCAに直交する形で分岐しています。

そして、この血管の還流不全では重篤な麻痺が発生します。

 

母血管閉塞+バイパスという戦略が内頚動脈と異なる穿通枝・分岐血管有するMCAに一般化出来るか、少し私自身は疑問を持っています。

 

そもそも、物理学や数学と異なり一般化という落とし込みが難しい手術戦略に関する事柄ですから個々に判断し、慎重を要すべきと考えます。

 

複雑MCAに関しては、当院症例では血管内治療と開頭手術を組み合わせたHybrid手術にて、動脈瘤をほぼ消失させることが出来ました。

Hybrid手術というと、特殊な手術室で血管内治療チームと開頭チームに分かれ行われる特別な治療と位置づけられますが、市中病院で同一術者でも可能と我々は考えます。

 

以下は、複雑MCA(中大脳動脈)動脈瘤に関するActa Neurochir. 2019 Oct;161:1981-1991.からの文献報告です。

 

【背景】

複雑MCA動脈瘤に対するバイパス手術の重要な点は、バイパス手術法の選択というよりは、正常循環から病変をいかに除外するかの術前の戦略である。この研究の目的は、血行再建術と母血管閉塞を使用した複雑MCA動脈瘤の治療経験をレビューし、術前の戦略を促進するために手術方法に応じたこれら動脈瘤の分類を行うことである。

 

 

【方法】

クリッピングが不可能で、血行再建術と母血管閉塞を要した複雑MCA動脈瘤50例をレビューした。個々の手術バリエーションを検討し、動脈瘤の位置関係をもとに分類化を行った。

 

 

【結果】

複雑MCA動脈瘤の6分類

 

Type1a:紡錘状のM1動脈瘤血栓化なし

Type1b:紡錘状のM1動脈瘤血栓化あり

Type2a:MCA分岐部動脈瘤、上方向き

Type2b:MCA分岐部動脈瘤、外側向き

Type2c:MCA分岐部動脈瘤、下方向き

Type3:M2またはM3動脈瘤、分岐部を含まない

 

【結論】

複雑MCA動脈瘤の治療は困難で、個々に応じた手術戦略が要求される。提示した分類は、術前の手術戦略のプランニングに有用であると考えらる。