在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

昨日のHybrid研究会にて

昨日は朝から自宅近くの桜山公園で家族とお花見して、お昼ご飯。

昼からビール飲んでる人達を羨ましく思いながら、Hybrid研究会へ。

 

脳外科の世界でHybridとは開頭手術+血管内治療の双方を行う外科医を指します。

及ばずながら、正に僕の目指す方向性の1丁目1番地がhybrid surgeonです。

 

そこで、尊敬する埼玉医療国際センターの栗田先生の言葉から

①開頭手術は血管内治療での再発例などより複雑な治療を要求されていく

②現在、動脈瘤治療のパラダイムシフトの中で「治療可能である」<「最適な治療である」とする治療選択が重要となる

「治療可能である」は開頭治療医、血管内治療医単独で判断できるが、「最適な治療である」の判断は単独では困難である

④双方の素養を持つhybrid surgeonの育成が今後益々重要となる

 

栗田先生は僕の元上司の同期であり、厳しい先生と現職の教授になる前から存じ上げておりました。

 

栗田先生は研究会などで事あるごとに「一流は人を残す」と言われており、こうした指導者が増えるといいなぁと思っております。

No recanalization,No walk =再開通させなければ、歩いて患者さんを帰せない!

 

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塞栓性脳梗塞に対する血栓回収療法

tPAでは太刀打ちできない、大きな血管が詰まった場合どうすればよいか?

 

米国心臓協会・米国脳卒中協会は、6つの臨床試験の結果を基に、「tPA投与後も脳の太い動脈に血栓が残存している場合に血栓除去デバイスによる血管内治療が有効」として推奨しました。
特に下記の条件を満たす場合に推奨されています。

(1)発作前に重度の障害がない
(2)発症から4時間半以内にtPAが投与された
(3)脳主幹動脈に血栓がある
(4)18歳以上
(5)急性発症で重症な場合
(6)画像診断上、脳梗塞が患側の半分以下
(7)発症から6時間以内に治療を開始できる

時間制限がある中での治療はtPAが現在でもゴールデンスタンダードです。

但し、tPA時間制限についても画像評価にて明らかに脳梗塞が存在せず、救済可能領域ある場合は投与可能という基準が最近加わりました。これは「朝起きたら手足が動かない」=Wake Up Strokeなども適応となる画期的な緩和です。治療は常に安全性と有効性の天秤の中で揺れ動きます。

 

 さらに、脳卒中治療ガイドラインが急性期再開通療法での目覚ましい成績と科学的治療根拠が多数発表され、追補版という形で新しい記載が増えました
http://www.jsts.gr.jp/img/guideline2015_tuiho2017.pdf

ここでは脳梗塞に対する血管内治療がグレードAで推奨されています。

思えば「ホノルルショック」と呼ばれる、血栓回収療法に対する否定的論文が出た時の落胆が遥か昔に感じられます。

まだまだ、脳卒中は課題山積ですが、一臨床医として少しでも世の中のお役に立てる奮闘していくつもりです。

脳梗塞の血栓を溶かす薬

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tPA作用機序

脳梗塞になった患者さんの家族へ説明する際に、血栓を溶かす薬は使いましたか?

こうした質問をよく受けます。

 

因みに、上の図は血栓を溶かす薬の機序です。

 

血栓を溶かす薬はtPAという名称です。

脳梗塞急性期に行うtPA静注療法は2005年から日本でも行えるようになりました。
では、tPAはどのぐらい効くのでしょうか?

 

1995年アメリカの国立衛生研究所(NIH)の研究によって、この治療による予後改善効果が認められたのです。
tPAの投与を受けたグループでは状態の良い患者さんが39%、偽薬を使ったグループでは26%と、状態の良い患者さんがtPAの投与により13%増加していました。

おそらく「たった、それだけ?」というのが正直な印象ではないでしょうか。

理由の一つは血栓が溶けない場合があることです。

tPAは大きな血栓には太刀打ちできないのが現実です。
もう一つの理由は血栓を溶かす=効き過ぎによる脳出血が起きるためです(全体の6.4%)。

但し、この治療の最大の利点は「CTスキャンさえあれば、医師が一人いればどこでもできる」ことです。
それまで血栓溶解を行っていなかった中小の病院でも、CTさえあれば、一人の医師がやる気になればできるのです。
これは、国土が広大で医療機関へのアクセスに時間がかかるアメリカなどでは、非常によい治療です。

但し、アメリカなどに比べると日本では医療機関へのアクセスは良く救命センターや脳卒中センターなども多く存在します。

自分の患者さんは、誰よりもよい結果をだしたい。

次回はtPAが効かない場合、大きな血栓をどうすればよいか書きたいと思います。

 

ネックの広い動脈瘤塞栓術

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ブロードネックの動脈瘤塞栓術

動脈瘤塞栓術において問題の一つはネックの広さです。


ネックが広い場合には、そのままコイルを入れると正常な血管にコイルがはみ出てしまいます。
正常な血管にコイルが出てこないようバルーンカテーテルという風船付きの管を入れてはみ出しをおさえます。
例えば、脳底動脈という動脈瘤は開頭による手術がとても難しい場所です。

この場所を血管内治療で治療する場合、ネックの広さや血管の温存が難しい場合があります。
こういった形の動脈瘤に普通にコイルを入れるとコイルがはみ出てきますが(左図)、バルーンで押さえることによって塞栓が可能になります(右図)。
こうしたネックを作る作業を英語でネックプラスティ(neckplasty:ネックを作る)と呼んでいます。
この風船が日本で使えるようになった際には、とても画期的でしたが現在ではその種類も増え、状況に使い分けるまでになっています。
またこの風船にも色々な種類があって、上の図のように非常に柔らかくて血管に沿って広がるタイプのものが出てきました。

 

このバルーンが使えるようになって、まだ10年チョットです。

その後に沢山の道具(武器)が増え、益々血管内治療は安全かつ難しい症例も治療できるようになりました。

本当に医学の進歩は凄い!と感じる日々です。

静岡から患者さんが来てくれました!

先週の外来での出来事

2012.12.31いわゆる大晦日に緊急で手術した患者さん
両側瞳孔散大し、正直社会復帰は難しいと思ってました
その後に外来に歩いて受診された時は、心底驚き「やったー!」という気持ちでした

写真の通り、振り返るくらいのイケメン男子!

そして勤務先が神奈川に変わっても外来に来てくれて
なんと、先週千葉まで外来に来てくれました

やはり、この仕事選んでよかったです、心から本当に

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モデルの様なイケメンナイスガイ

 

急性期再開通療法に新しい武器登場

塞栓性脳梗塞に対する、血管内治療はこの10年で劇的に変化しました。

思い返せば、ウロキナーゼ動注療法からメルシリトリーバーに始まり、いまではステント型3種類、吸引型1種類が使用できます。

今月から、さらに新しいデバイスが登場するそうです。
吸引型のデバイスとしてはこれまでペナンブラカテーテルが唯一の存在でしたが、これで2種類となりました。
先端が柔らかく、内腔が大きいカテーテルです。
ポンプは使用せず、同包されている注射器を使用して吸引します。

ソフィアフロー なんて名前がかっこいいですね。

因みに、今日の朝(午前0時くらいですが)もこの治療で行いました。

ひとまず失語が改善し、麻痺も回復傾向です。

やったー!

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新しい血栓吸引デバイス

 

詫磨先生 赴任

少し遅れましたが横須賀うわまち病院が、今後久里浜(三浦半島南端)へ移転することになりました。

ノンビリスローライフ脳外科生活も悪くないのですが、まだまだ発展途上の身としては、久里浜移転追従はチョットと考え勤務先を千葉脳神経外科病院へ。

半分千葉、半分湘南生活も慣れてきたところで、うわまち病院での後輩詫磨先生が

僕と一諸に働き勉強したいということで、今月より千葉脳外科病院へ赴任してくれることになりました。

千葉県はとてもとても脳外科医不足であり、千葉脳神経外科は千葉県で虚血性疾患を中心に脳卒中患者の入院が最も多い病院にて彼の赴任は本当にありがたいです。

また、自身が沢山の紆余曲折しながら学んだことを少しでも彼に教えることが出来たらとも考えおります。

まぁ、教えるというより共に直達手術、血管内治療で安全かつ適切な治療を患者さんに提供できるよう頑張って参ります。

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今日のop後