在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

脳卒中をどうやって防ぐか?

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脳卒中と高血圧の関係は上のグラフ見ると大変分かり易いですね。

数多くある脳卒中危険因子の中でも最も重要とされるのが高血圧の管理です。
グラフを見ると分かるように血圧が140/90を超えると脳卒中になるリスクが増加します。
特に上の血圧(収縮期血圧)が180以上、あるいは下の血圧(拡張期血圧)が110以上の方はすぐに治療を受けてください。

高血圧は脳出血脳梗塞に共通の最大の危険因子であり、高血圧治療は脳卒中の予防にきわめて有効であることが知られています。
ですから140/90を常に超えている方、あるいはそれよりも高い方は、今日から血圧を測る習慣をつけましょう。

健康は失った時に、その有難さが分かりますが、失った時には元に戻らない場合が多いのですから。

脳卒中記事の連載

www.qlife.jp脳卒中に関する連載を書かせて頂きました。

このブログの趣旨も少しでも脳卒中に関して分かり易く、皆さんの知りたいことを丁寧にと考えてます。

しかし、編集の方のダメだしをから、自分の日本語の力の無さを実感しました。

これからも独りよがりにならず、分かり易くを心掛けたいと思います。

 

日々の鍛錬

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日々の鍛錬

右側の画像はガーゼをIphoneで撮影した画像です。

正直何だか分からないですね。

左は、このガーゼを卓上顕微鏡で見た画像です。

 

脳外科の手術は、細かい作業が多く脳外科医になった頃は

果たしてこんな作業が自分で出来るのか?と不安になりました。

なので、時間があればop室へ行き、ほぼ毎日こうした練習を繰り返してました。

「ました。」と言うと過去形ですが現在進行形で今も行ってます。

最近は、とても性能が良い卓上顕微鏡あり、夜中の不気味なop室に一人きりで行く必要なくありがたいです。

恐らくガーゼ縫いの練習は5万以上、手羽先の血管使用したバイパスの練習も数千回以上やってると思います。

練習量だけなら、脳外科医上位10%に入れる気がします。

 

後輩などに「先生、よく練習しますねぇ」などと言われると、「君は神様にギフトを与えてもらった、恵まれた人なの?」と言うようにしてます。確かに生まれながらのセンスを持つgiftedな脳外科医も見てきました。まぁ、残念ながら、僕にはそうした贈り物なく生まれてきましたが。

 

開頭手術を受ける患者さんの不安は、計りしれないものといつも思ってます。

誰よりも治療計画を緻密に考え、想定されるリスクを可能な限り回避して、誰よりも練習して手術に挑むように、これからも心掛けていきたいです。

 

脳梗塞の話(ラクナ梗塞って何でしょう?)

 

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ラクナ梗塞

脳梗塞急性期における脳外科医の関心事は「どうやったらつまった血管を通せるか?」ということです。
なぜなら、脳梗塞が完成する前に治療することで脳梗塞のサイズを小さくできるからです。

そして、慢性期の課題は「どうやったら再発を防げるか?」ということにつきます。

再発を防ぐには、まず、どういう状態で再発がおこりやすいのかを知る必要があります。
ここで、少し硬いお話です
脳梗塞の分類は下記のように分類されます
1)ラクナ梗塞
2)アテローム血栓脳梗塞
3)心原性脳塞栓症

うーん、分かりにくいですね。
では、まずのラクナ梗塞を説明します。

ラクナ梗塞
これは脳の中の細い血管が詰まることによって起きる小さな脳梗塞です。
脳の細い血管の動脈硬化が原因です。
つまると脳の深い部分に小さな脳梗塞がおきます。
近くに手足を動かす神経がまとまって走っているところ(内包:ないほう)があるので、そこに栄養を送っている血管がつまると麻痺が出ます。小さいからといっても馬鹿にはできません。
原因は脂質異常症高脂血症)や糖尿病、高血圧、喫煙などの動脈硬化の危険因子であるとされています。

上の図を見てください。
脳の中のほそーい血管が詰まっているのがイメージできますよね。
これがラクナ梗塞です。

ラクナのは語源は穴倉だそうです。

つまり、小さな脳梗塞を少しかっこつけて言うと

ラクナ梗塞です。

 

難しいことを難しく話すのは、お医者さんの悪い癖だといつも感じてます。

難しいことを分かりやすく!

学生の頃の授業で難しい理論を分かり易く説明される講師が人気高いかったですし笑

 

 


 

昨日のHybrid研究会にて

昨日は朝から自宅近くの桜山公園で家族とお花見して、お昼ご飯。

昼からビール飲んでる人達を羨ましく思いながら、Hybrid研究会へ。

 

脳外科の世界でHybridとは開頭手術+血管内治療の双方を行う外科医を指します。

及ばずながら、正に僕の目指す方向性の1丁目1番地がhybrid surgeonです。

 

そこで、尊敬する埼玉医療国際センターの栗田先生の言葉から

①開頭手術は血管内治療での再発例などより複雑な治療を要求されていく

②現在、動脈瘤治療のパラダイムシフトの中で「治療可能である」<「最適な治療である」とする治療選択が重要となる

「治療可能である」は開頭治療医、血管内治療医単独で判断できるが、「最適な治療である」の判断は単独では困難である

④双方の素養を持つhybrid surgeonの育成が今後益々重要となる

 

栗田先生は僕の元上司の同期であり、厳しい先生と現職の教授になる前から存じ上げておりました。

 

栗田先生は研究会などで事あるごとに「一流は人を残す」と言われており、こうした指導者が増えるといいなぁと思っております。

No recanalization,No walk =再開通させなければ、歩いて患者さんを帰せない!

 

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塞栓性脳梗塞に対する血栓回収療法

tPAでは太刀打ちできない、大きな血管が詰まった場合どうすればよいか?

 

米国心臓協会・米国脳卒中協会は、6つの臨床試験の結果を基に、「tPA投与後も脳の太い動脈に血栓が残存している場合に血栓除去デバイスによる血管内治療が有効」として推奨しました。
特に下記の条件を満たす場合に推奨されています。

(1)発作前に重度の障害がない
(2)発症から4時間半以内にtPAが投与された
(3)脳主幹動脈に血栓がある
(4)18歳以上
(5)急性発症で重症な場合
(6)画像診断上、脳梗塞が患側の半分以下
(7)発症から6時間以内に治療を開始できる

時間制限がある中での治療はtPAが現在でもゴールデンスタンダードです。

但し、tPA時間制限についても画像評価にて明らかに脳梗塞が存在せず、救済可能領域ある場合は投与可能という基準が最近加わりました。これは「朝起きたら手足が動かない」=Wake Up Strokeなども適応となる画期的な緩和です。治療は常に安全性と有効性の天秤の中で揺れ動きます。

 

 さらに、脳卒中治療ガイドラインが急性期再開通療法での目覚ましい成績と科学的治療根拠が多数発表され、追補版という形で新しい記載が増えました
http://www.jsts.gr.jp/img/guideline2015_tuiho2017.pdf

ここでは脳梗塞に対する血管内治療がグレードAで推奨されています。

思えば「ホノルルショック」と呼ばれる、血栓回収療法に対する否定的論文が出た時の落胆が遥か昔に感じられます。

まだまだ、脳卒中は課題山積ですが、一臨床医として少しでも世の中のお役に立てる奮闘していくつもりです。

脳梗塞の血栓を溶かす薬

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tPA作用機序

脳梗塞になった患者さんの家族へ説明する際に、血栓を溶かす薬は使いましたか?

こうした質問をよく受けます。

 

因みに、上の図は血栓を溶かす薬の機序です。

 

血栓を溶かす薬はtPAという名称です。

脳梗塞急性期に行うtPA静注療法は2005年から日本でも行えるようになりました。
では、tPAはどのぐらい効くのでしょうか?

 

1995年アメリカの国立衛生研究所(NIH)の研究によって、この治療による予後改善効果が認められたのです。
tPAの投与を受けたグループでは状態の良い患者さんが39%、偽薬を使ったグループでは26%と、状態の良い患者さんがtPAの投与により13%増加していました。

おそらく「たった、それだけ?」というのが正直な印象ではないでしょうか。

理由の一つは血栓が溶けない場合があることです。

tPAは大きな血栓には太刀打ちできないのが現実です。
もう一つの理由は血栓を溶かす=効き過ぎによる脳出血が起きるためです(全体の6.4%)。

但し、この治療の最大の利点は「CTスキャンさえあれば、医師が一人いればどこでもできる」ことです。
それまで血栓溶解を行っていなかった中小の病院でも、CTさえあれば、一人の医師がやる気になればできるのです。
これは、国土が広大で医療機関へのアクセスに時間がかかるアメリカなどでは、非常によい治療です。

但し、アメリカなどに比べると日本では医療機関へのアクセスは良く救命センターや脳卒中センターなども多く存在します。

自分の患者さんは、誰よりもよい結果をだしたい。

次回はtPAが効かない場合、大きな血栓をどうすればよいか書きたいと思います。