在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

在宅医療で活用される肺エコーによる肺炎診断

在宅医療の現場では、X線やCTといった画像診断がすぐに使えない場面も多くあります。
そんなとき、**肺エコー(Lung Ultrasound/LUS)**が大きな力を発揮します。特に、通院困難な高齢者や寝たきりの方において、肺炎による呼吸苦や発熱の鑑別に有効です。


🔍 肺エコー検査の実施方法

🔸 プローブの種類と使い分け

  • 凸型(コンベックス)プローブ:肺全体の観察に向いており、在宅では最も汎用性が高い

  • リニアプローブ:胸膜下や浅部の観察に適しており、胸水や胸膜炎の評価にも有効

🔸 プローブを当てる部位

  • 前胸部・側胸部・背部を左右それぞれ観察(合計6〜8ゾーンを目安)

  • 背部の観察は特に重要:高齢者や寝たきり患者では背側に病変が出やすいため


🫁 肺炎を示唆するエコー所見

所見 解説
Bラインの多発 肺胞の水分貯留を示唆。間質性肺水腫や肺炎の初期に出現
コンソリデーション(肺実質化) 肺胞内に浸潤物が溜まり、エコー上で実質臓器のように見える典型的所見
エアブロンコグラム(空気気管支像) コンソリデーション内に空気の通った気管支像が見えると、肺炎を強く示唆
胸水貯留 細菌性肺炎に合併することが多く、膿胸の可能性も含めた評価が必要

🔸 「Bラインの多発」とは?

Bラインは、胸膜から垂直に走る高輝度のアーチファクトで、エコー画面の下まで伸びる線状の像です。

✅ 出現する主な病態:

  • 間質性肺水腫(心不全など)

  • 肺炎(特に間質性肺炎や吸引性肺炎)

  • ARDS、肺線維症 など

✅ 所見の特徴:

  • 正常肺:水平な「Aライン」が主体

  • 異常肺:1視野に3本以上のBラインで「多発」と判断

  • 分布:びまん性(心不全)/局所性(肺炎など)で異なる


✅ 肺エコーの利点と限界

メリット

  • 放射線被ばくなし、非侵襲的で繰り返し評価可能

  • ベッドサイドで迅速に実施でき、在宅でも有用

  • 特に背側病変に対する感度はX線より高いとされる

デメリット

  • 深部や肺尖部の病変は描出困難

  • COPD肺気腫患者では描出が難しいことも

  • 操者依存性が高く、経験が必要


🏠 在宅医療における実際の活用例

  • 発熱・呼吸苦・CRP上昇 → 背部にコンソリデーションを確認 → 抗菌薬治療へ

  • 吸引性肺炎疑いの高齢者 → 背部にBライン増加+コンソリデーション → 在宅で抗菌薬導入


📚 まとめと補足

  • LUSは近年「X線より高感度」とする報告もあり、在宅肺炎診断の第一選択肢になりつつあります。

  • ただし、最終的な診断は、症状・バイタル・採血などとの統合的判断が不可欠です。

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