在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

2025-07-01から1ヶ月間の記事一覧

看護師さんによる在宅医療におけるエコーを科学する11~療養生活に必要な排尿評価 〜エコーによる観察とアセスメント〜

はじめに:なぜ排尿にエコーなのか? 排尿管理では、単に「出た・出ない」だけでなく、排尿機能の背景や排尿障害のタイプを理解し、必要なケアを提供することが求められます。 エコー(超音波)は、痛みや侵襲なく、残尿量・膀胱壁・前立腺の形状などを可視…

高齢者の「隠れアルコール依存症」――孤独と生活の変化が招く飲酒リスク

「少しだけなら大丈夫」「晩酌が楽しみ」――そんな気持ちで始まった飲酒が、いつの間にか日常を蝕んでいるかもしれません。特に近年、高齢者のアルコール依存症が増加傾向にあることが報告されています。背景には、孤独や生活の変化が潜んでいます。 生活習慣…

看護師さんによる在宅医療におけるエコーを科学する10~超音波画像の見方入門:基本走査・エコーレベル・描出の実際

1. 縦断・横断走査の基本 ● 体幹部の走査法 縦断像(長軸):モニター画面の左が「患者の頭側」、右が「足側」 横断像(短軸):モニター画面の左が「患者の右側」、右が「左側」 ● 四肢の走査法 縦断像(長軸):画面左が「近位」、右が「遠位」 横断像(短…

看護師さんによる在宅医療におけるエコーを科学する⑨~観察部位別のエコー撮影手順と画像保存のポイント

臨床の現場で即役立つ、プローブの当て方・評価の目的をまとめて解説! 5. 観察部位ごとのプローブ操作 ■ 仙骨部(褥瘡の評価) 使用画像:長軸像/短軸像 観察ポイント:皮下脂肪層と仙骨との位置関係、浮腫の有無 目的:褥瘡の深達度評価や予後予測 操作の…

不穏へのアプローチ④ ― 薬物治療の実際と薬剤選択のポイント

「不穏」とは、せん妄や認知症に伴う幻覚・妄想、興奮、暴言・暴力、不眠などの状態を指し、患者さん本人にも周囲にも大きな負担となります。非薬物的アプローチで対応しきれない場合、薬物療法が重要な選択肢となります。 今回は、不穏に対して用いられる代…

「不穏」に対するアプローチ③ ―薬物的アプローチとその実際―

「不穏な状態が続いてどうにもならない」「環境調整や声かけだけでは限界がある」そんなとき、薬物的アプローチは現場にとって重要な選択肢のひとつです。 今回は、主にせん妄や**BPSD(認知症に伴う行動・心理症状)**に対する薬物治療について、その基本的…

看護師さんによる在宅医療におけるエコーを科学する⑧~エコーの基礎知識:撮影の手順とポイント

はじめに エコー(超音波)検査は、非侵襲的かつリアルタイムに体内を観察できる重要な手段です。今回は、エコー検査を安全かつ正確に行うための基本的な撮影手順を紹介します。 1. 機器の準備 ● 使用機器の種類 エコー装置には以下のタイプがあります: 据…

「不穏」に対するアプローチ② ―非薬物的アプローチの基本と限界を知る―

◆ 非薬物的アプローチ vs 薬物的アプローチ 不穏な状態を呈する背景には、「せん妄」や「認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)」が代表的です。対応としては大きく分けて、 非薬物的アプローチ 薬物的アプローチ の2つがありますが、どちらが重要というよりは…

看護師さんによる在宅医療におけるエコーを科学する⑦~エコー検査装置とプローブの基礎知識

エコー検査装置とプローブの基礎知識 図1:エコー検査装置の種類と特徴 エコー(超音波)検査装置は、用途や使用環境に応じて主に以下の3種類に分類されます。 ① 据置型(Sonosite X-Porte) サイズ:大 画質:高画質 機能:多機能(カラードプラなど) 使用…

「不穏」に対するアプローチ①

―「不穏」とは何か?その本質を考える― 在宅や病院、施設の現場で、「不穏な患者さんへの対応に困っている」という声は少なくありません。今回は、そうした「不穏」状態の基本的な理解と、はじめの一歩としての対応の仕方について考えてみたいと思います。 ◆…

看護師さんによる在宅医療におけるエコーを科学する⑥~カラードプラ法の画像の読み方|血流の“色”から疾患を読み解く

◆ カラードプラ法とは? カラードプラ法とは、超音波(エコー)を用いて血流の向きと速度をリアルタイムで色分け表示する方法です。図1のように、 赤色:プローブ(探触子)に近づいてくる血流 青色:プローブから離れていく血流 として表示されます。 ❗️注…

口腔ケアで守る命──誤嚥性肺炎を防ぐためにできること

超高齢社会における歯科医療の使命 日本は世界でも類を見ないスピードで高齢化が進行しています。要介護高齢者が増える中、歯科医療の現場では、「健康寿命」や「生活の質(QOL)」の維持に、どう貢献できるかが問われています。中でも注目されているのが「…

在宅医療における認知症について13~アルツハイマー病以外の「四大認知症」──血管性認知症・レビー小体型認知症・前頭側頭葉変性症

地域差から見える「診断の難しさ」 以下の表は、厚生労働省が実施した高齢者を対象とした大規模疫学調査の結果です(平成21~22年度)。認知症と診断された方のうち、各疾患の占める割合には地域・施設によって大きなばらつきがあります。 たとえば、血管性…

高齢者に多い感染症とは?施設や在宅で注意したい主な疾患と特徴

高齢者は年齢とともに免疫力(感染への抵抗力)が低下します。そのため、介護施設や在宅医療の現場では感染症のリスクが高く、重症化もしやすいことに注意が必要です。 この記事では、高齢者に多く見られる感染症について、感染経路・症状・注意点を整理して…

在宅医療における認知症について12~アルツハイマー病の進行と重症度分類 〜FAST分類を用いた見取り図〜

アルツハイマー病は、ゆっくり進行する病気です アルツハイマー病は、ある日突然発症するのではなく、少しずつ認知機能が低下していく「進行性の神経変性疾患」です。平均的には、MMSE(認知機能検査)スコアが1年に3.3点ずつ減少していくといわれており、発…

高齢者の脱水にご用心!

――熱中症搬送の4割は高齢者、自宅でも油断は禁物 こんにちは。連日、猛暑が続いていますね。2025年の夏も例外ではなく、5月から8月20日までの間に4万5千人以上の方が熱中症で救急搬送されたという報告があります。 そして驚くことに、その42.1%が65歳以上の…

在宅医療における認知症について11~アルツハイマー病の診断とは ~病理評価と症状の進行をめぐる理解~

アルツハイマー病の主な症状と分類 アルツハイマー病は、記憶障害・見当識障害・言語障害などを主症状とする認知症のひとつです。ICD-10では発症年齢により以下のように分類されます: 早発性アルツハイマー病(65歳未満)いわゆる“若年性アルツハイマー病”…

在宅医療でどう診る? 末期認知症の肺炎と緩和ケアの指針

高齢化が進む今、認知症を患う高齢者の数は年々増加しています。そして、肺炎はその終末期における代表的な合併症のひとつ。特に在宅や施設で療養されている方々にとって、病院のような医療体制がない中での診断・対応には、現場の工夫と知見が求められます…

在宅医療における認知症について10~認知症の診断は「確定」できるのか? ――病理学的分類と臨床診断の限界

認知症は大きく2つの原因に分類される 認知症を引き起こす脳の病気は大きく分けて以下の2つに分類されます。 神経変性疾患:アルツハイマー病、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症など 血管性疾患:脳梗塞などによる血管性認知症 日本における有病率は以…

在宅医療における「尿閉」対応の基本と実際 ~バルーンカテーテル留置から膀胱穿刺まで~

在宅医療では、尿閉(尿が出せなくなる状態)はときに緊急対応を要するトラブルの一つです。今回は、実際の対応方法について、実践的なポイントを紹介します。 1. 導尿(バルーン留置)の基本手技と注意点 在宅での導尿において、以下の3つの点を意識するこ…

在宅医療における認知症について⑨~認知症が疑われたら、まずは薬の見直しから

――高齢者に多い「薬剤性認知機能低下」への対応 「最近、物忘れが増えてきた」「言動に違和感がある」と高齢者の認知症を疑う場面は少なくありません。しかし、その原因が処方薬や市販薬による副作用である可能性があることをご存じでしょうか? まずは“薬…

在宅医療における認知症について⑧~高齢者に処方する薬、本当に大丈夫?――認知症とまぎらわしい薬剤性症状に注意

高齢者では加齢による代謝機能の低下や、複数の疾患による多剤併用が避けられません。その結果、薬物の血中濃度が上がりやすく、副作用や相互作用のリスクも増加します。 なぜ高齢者は薬剤の影響を受けやすいのか? 肝機能・腎機能の低下により、薬が体内に…

高齢者の排尿障害と尿路感染の因果関係~高齢者の尿路感染リスクと適切な治療法

">高齢者における排尿障害(排尿困難、尿閉、頻尿、残尿感など)と尿路感染症(尿道炎、膀胱炎、腎盂腎炎など)は、密接な因果関係があります。加齢に伴い、膀胱や尿道の機能が低下し、排尿トラブルが増えることで、尿路感染症のリスクが高まります。本記事…

在宅医療における認知症について⑦~認知症と診断する前に必ず確認したい「脳外科疾患の除外」

認知症が疑われたとき、実は真っ先に行うべきことの一つが「他の治療可能な疾患の除外」です。特に重要なのが慢性硬膜下血腫や特発性正常圧水頭症(iNPH)といった脳外科的な病気の見逃しを防ぐことです。 ✅ なぜ頭部画像検査が必要なのか? 慢性硬膜下血腫…

慢性的な咳に新たな選択肢 ― リフヌア錠(ゲーファピキサント)とは?

長引く咳が続いて困っている方にとって、新しい治療薬「**リフヌア錠(一般名:ゲーファピキサント)」**が注目されています。従来の治療でなかなか改善しなかった“原因不明の慢性咳”にも効果が期待できる薬剤として、2022年に日本で承認されました。 ■ どん…

在宅医療における認知症について⑥~認知症に見えるけど…実は別の原因?血液検査で見抜く“認知症もどき”

「認知症かもしれない」と思って受診したけれど、よく調べてみると薬や内科疾患が原因だった——そんなケースが、実は少なくありません。 今回は、「認知症に似た症状を呈するが、実は別の原因であった」ケース、特に薬剤や内科疾患に焦点を当ててご紹介します…

【在宅医療における入浴基準】数値だけで判断しない「その人らしいケア」を

在宅医療の現場では、**「今日は入浴しても大丈夫ですか?」**という質問をよくいただきます。ケアマネージャーさんや訪問入浴事業所のスタッフさんから、入浴の可否を判断する基準について相談されることが多くあります。 当院での基本的な入浴中止基準 当…

在宅医療における認知症について⑤~認知症じゃないかも?「うつ病」や「てんかん」との見分け方

「物忘れが増えた」「昨日のことを思い出せない」――こうした訴えがあると、まず「認知症では?」と疑われがちですが、うつ病やてんかんなど、認知症以外の疾患が背景にあるケースもあります。今回は特に高齢者で見落とされやすい2つの病態についてご紹介しま…

高齢者に多い「腹部の皮膚炎」──実は夏場に要注意!

高齢者において、腰が高度に曲がっている場合(亀背と言います)、腹部の皮膚が折りたたまれるように重なり、垢や汗により雑菌や真菌が繁殖し皮膚炎を起こすことがあります。乳房の下も同じようにただれやすいです。特に汗をかきやすい、これからの時期によ…

在宅医療における認知症について④~アルコール、せん妄、うつ病——認知症との見極めポイント

アルコール性健忘症候群とは? 長年の過度な飲酒は、脳にさまざまな悪影響を及ぼすことが知られています。特に慢性的なアルコール摂取による脳萎縮は、認知機能の低下=アルコール性健忘症候群を引き起こす可能性があります。 実際、アルコール依存症患者を…