在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

在宅医療における認知症について36~抗精神病薬と高齢者 ― 薬が精神症状を悪化させることもある

画像が生成されました高齢者に意欲低下や寝たきりといった状態が出てきたとき、その原因のひとつに 抗精神病薬 が隠れていることがあります。


抗精神病薬が原因となるケース

多くは「精神症状が出たので薬を追加したら、かえって悪化した」というパターンです。
例えば:

  • 食欲低下に対してスルピリドを処方した → 活動性が急激に低下し寝たきりに
    これはスルピリドによる パーキンソン症状 が原因です。

スルピリドは本来統合失調症の治療薬ですが、日本では「胃薬」「うつ薬」として処方されることも多く、気づかぬうちに精神症状を悪化させる場合があります。

また、抗認知症薬による「興奮」に対して抗精神病薬を追加 → 過鎮静 → 意欲低下、という悪循環も珍しくありません。
この場合、原因は「抗認知症薬の副作用」ですが、それを見抜けず抗精神病薬を重ねた結果、状態が悪化してしまうのです。


鎮痛薬にも注意が必要

抗精神病薬以外にも、以下の鎮痛薬が精神症状を引き起こすことがあります。

  • トラマドール:不眠、不安、幻覚、錯乱、多幸感、せん妄など

  • プレガバリン:錯乱、見当識障害、幻覚、不安、抑うつ睡眠障害など

特に65歳以上の高齢者では、副作用として精神症状が出やすいため注意が必要です。


「薬が原因かも?」と疑う姿勢

急に見当識障害や幻覚が出た場合、まず 薬が原因ではないか を疑うことが大切です。
PL顆粒や過活動膀胱治療薬など、身近な薬でも精神症状を引き起こすことがあります。

厚生労働省の調査では、在宅患者の副作用の被疑薬として 向精神薬が最も多い と報告されています。さらに、向精神薬を中止しただけで「認知症の終末期」と診断されていた人が、自立生活を取り戻した事例もあるのです(図2)。


向精神薬の「奇異反応」

向精神薬には、本来の効果とは逆に「興奮や攻撃性」を引き起こす 奇異反応 が出ることがあります。また、薬が切れる時間に離脱症状として逆の作用が現れることもあります。

つまり、向精神薬を飲んでいるのに精神症状が出ている時点で、その薬は効いていない証拠です。効いていない薬は切るのが基本です。


まとめ ― 徹底的な減薬を

  • 抗精神病薬や一部の鎮痛薬は、高齢者の精神症状を悪化させる原因になり得る

  • 急な幻覚や見当識障害は「薬のせい?」と疑うべき

  • 向精神薬を減らす・中止することで、劇的に改善する例もある

  • 高齢者では「薬を増やすより減らす」姿勢が大切

徹底的に減薬することが、BPSDや認知症様症状への最善の対策になるのです。


📺 在宅医療・認知症ケア・呼吸器疾患の解説をYouTubeで配信中!
内田賢一 - YouTubeチャンネル

🏷 ハッシュタグ
#認知症 #アルツハイマー病 #抗精神病薬 #在宅医療 #減薬 #さくら在宅クリニック