在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

2025-05-01から1ヶ月間の記事一覧

【冬の入浴事故にご注意】高齢者が“お風呂で突然死”するメカニズムとその予防法

冬になると、高齢者が入浴中に突然亡くなる事故が全国的に多発します。今回はそのメカニズムと、私たちができる予防策について、わかりやすく解説します。 なぜ“入浴中の突然死”が起きるのか? 寒い脱衣所や浴室に入ると、体が冷えて血管がギュッと収縮し、…

パーキンソン病を科学する12~【パーキンソン病】治療の王道「ドパ」とは?在宅医療の視点から

パーキンソン病は、脳内でのドパミン不足によって運動障害などの症状が出現する病気です。震え(振戦)、動作緩慢、筋固縮などの典型的な症状が日常生活に大きな影響を与えます。 治療の基本は、不足しているドパミンを補うことですが、実はドパミンをそのま…

「むくみ」の原因、薬のせいかもしれません

~下腿浮腫を引き起こす意外な処方薬とは~ むくみ(浮腫)は、心不全・腎不全・低栄養などの内科的な原因で起こることが多いですが、実は整形外科などで処方される一部の薬が関与していることもあります。 今回は、在宅診療の現場でもよく見かける「薬によ…

パーキンソン病を科学する11~パーキンソン病の本質と、在宅医療でできること

―「安心して、自宅で過ごす」ための神経難病ケアとは― パーキンソン病は、神経細胞からのドパミン分泌が減少することにより、ドパミン受容体への刺激が低下し、運動や自律神経、精神面に多様な影響を及ぼす疾患です。その病態は非常に明解でありながら、その…

在宅医療で見逃せない「腸閉塞」——超音波での見極めポイントとは?

在宅診療では、腸閉塞の見逃しは命に関わる重大な事態に繋がる可能性があります。だからこそ、私たち在宅医にとって、この病態の早期発見は非常に重要です。 幸い、腸閉塞は超音波検査で比較的容易に見つけることができます。以下が、その代表的な所見です。…

パーキンソン病を科学する10~パーキンソン病とその“そっくりさん”たち

パーキンソン病の症状を呈する疾患は、必ずしもすべてが「パーキンソン病」そのものとは限りません。 次回からは、類似症状を呈する他の神経疾患や、それぞれの治療の選択肢について、わかりやすく解説していきます。 パーキンソン病・神経難病・終末期医療…

「立ち上がれない」の裏にあった意外な原因 〜認知症高齢者の転倒と骨折〜

ある日曜日の出来事でした。 80代の男性。認知症がありながらも、歩行は自立レベルで、ヘルパーやデイサービスを利用しながら独居生活を送っていた方です。いつも通り、訪問に来たヘルパーさんが驚きました。こたつに座ったまま、「立ち上がれない」というの…

パーキンソン病を科学する9~不確かさは、希望でもある──パーキンソン病と向き合うということ

パーキンソン病の発症には、環境要因と遺伝的要因の両方が関与しています。ただし、その影響の度合いや組み合わせは人それぞれで、**「発症するか」「どのように進行するか」**という問いに、いまだ明確な答えはありません。 だからこそ、多くの方が将来に不…

慢性的な咳に新たな選択肢 ― リフヌア錠(ゲーファピキサント)とは?

長引く咳が続いて困っている方にとって、新しい治療薬「**リフヌア錠(一般名:ゲーファピキサント)」**が注目されています。従来の治療でなかなか改善しなかった“原因不明の慢性咳”にも効果が期待できる薬剤として、2022年に日本で承認されました。 ■ どん…

パーキンソン病を科学する8~パーキンソン病とαシヌクレイン:プリオンとの関係性とは?

パーキンソン病は、ひとつの要因だけで説明することが難しい神経難病です。しかしその中でも、「αシヌクレイン(alpha-synuclein)」の関与は非常に重要なカギを握っていると私は考えています。 このαシヌクレインは、神経細胞内で凝集することで「レビー小…

尿バッグが紫色に!? ―「パープルバッグ症候群」とは?

在宅医療の現場で、尿道カテーテルを長期間使用している患者さんから、「尿のバッグが紫色なんですが、大丈夫ですか?」というご相談を受けることがあります。 これは**「紫色尿バッグ症候群(Purple Urine Bag Syndrome)」と呼ばれる現象で、見た目に驚か…

パーキンソン病を科学する7~αシヌクレインは腸から脳へ?―「Body first」か「Brain first」か、注目の研究テーマ

前回の記事では、αシヌクレインが中枢神経内を伝搬する様子を示した動物実験についてご紹介しました。今回は、もう一つの興味深い伝播経路に注目してみたいと思います。 それは、「腸管の神経叢から脳へ」というルートです。 パーキンソン病においては、消化…

在宅医療における「プラリア®(デノスマブ)」使用の是非について

骨粗鬆症の新しい治療薬として注目されている「プラリア®(一般名:デノスマブ)」。RANKLというタンパク質の働きを抑えることで破骨細胞の活性化を防ぎ、骨の吸収を抑える仕組みを持つ薬です。半年に1回の皮下注射で済むという手軽さもあり、骨粗鬆症治療ガ…

パーキンソン病を科学する6②~αシヌクレイン仮説とプリオン病の共通点

神経難病の新たな理解に向けて パーキンソン病やレビー小体型認知症と深く関わるとされる「αシヌクレイン」。このタンパク質が、ある意味で“感染性”を持つかのように脳内を伝搬していくことが、近年の動物実験で明らかになっています。 例えば、αシヌクレイ…

【解説】頚肩部痛へのHydrorelease(ハイドロリリース)治療

【解説】頚肩部痛へのHydrorelease(ハイドロリリース)治療 ―「四十肩・五十肩」の誤解と神経根症の診かた― ❌ 「四十肩・五十肩」という言葉は使うべきではない 整形外科医が「四十肩」「五十肩」という表現を使うと、かえって患者さんにとって不利益になる…

パーキンソン病を科学する6-①~タンパク質の品質管理と「異常αシヌクレイン仮説」

神経難病、特にパーキンソン病やレビー小体型認知症に深く関わるのが、αシヌクレインというタンパク質です。近年、このタンパク質が**「異常プリオンのように振る舞う」**という研究報告が相次いでおり、これを「レビー小体αシヌクレイン仮説」と呼びます。 …

「われに自由を与えよ、さもなくば死を」——高齢者の“歩く自由”について考える

Give me liberty, or give me death !(われに自由を与えよ、しからずんば死を)この言葉は、アメリカ独立戦争の火蓋が切られる直前、ヴァージニア植民地協議会でパトリック・ヘンリーが叫んだ歴史的な名言です。 私はこの言葉を、小学生の頃におばあちゃん…

パーキンソン病を科学する5~αシヌクレインと自律神経症状の関連──中枢だけじゃない広がりに注目

αシヌクレインといえば、「レビー小体型認知症」の病理所見としてよく知られていますが、実はこれはパーキンソン病の患者にも共通して認められる異常所見です。 そしてこのαシヌクレインは、脳だけでなく副腎や腸管など中枢神経以外の臓器にも広く分布してい…

アムロジピンの意外な副作用 ― 処方カスケードを防ぐために

高血圧治療において最もよく使用される降圧薬のひとつ、アムロジピン(商品名:アムロジン、ノルバスク)。しかし、その「使いやすさ」と引き換えに、見落とされがちな副作用がいくつか存在します。これらを知らずに対処しようとすると、別の薬を追加してし…

パーキンソン病を科学する4ー②~αシヌクレイン仮説とパーキンソン病──その振る舞いはプリオンに似ている?

パーキンソン病の原因として注目されている「αシヌクレイン仮説」は、非常に興味深い研究分野の一つです。 αシヌクレインは本来、神経細胞内で正常に機能するタンパク質ですが、異常な蓄積を起こすことで、他のタンパク質の機能障害を誘発する性質があります…

【がん患者さんへの頻回訪問】「声をかける」ことの大きな力

在宅医療の現場では、がん患者さんに対してどれくらいの頻度で訪問するべきか、よく話題になります。実はこのテーマに関して、看護師による定期的なモニタリングが倦怠感を緩和するという注目すべき研究があります。 看護師によるモニタリングが倦怠感を緩…

パーキンソン病を科学する4ー①~αシヌクレインとミトコンドリア──パーキンソン病を読み解く鍵

パーキンソン病の発症メカニズムにはさまざまな仮説がありますが、その中でも注目されているのが「αシヌクレインとミトコンドリアの相互作用」です。 このタンパク質がどのようにミトコンドリアに影響を与え、神経細胞の変性を引き起こすのか?ここでは、最…

【在宅医療における入浴基準】数値だけで判断しない「その人らしいケア」を

在宅医療の現場では、**「今日は入浴しても大丈夫ですか?」**という質問をよくいただきます。ケアマネージャーさんや訪問入浴事業所のスタッフさんから、入浴の可否を判断する基準について相談されることが多くあります。 当院での基本的な入浴中止基準 当…

パーキンソン病を科学する3ー②~ミトコンドリアの異常がカギ?

パーキンソン病とPINK1・Parkin遺伝子の関係とは パーキンソン病は、脳内のドパミン神経細胞が徐々に減少していくことで、手のふるえ(振戦)や動作緩慢、筋固縮などの症状が現れる神経変性疾患です。 この病気の原因のひとつとして、ミトコンドリアの機能異…

【在宅でみる大腿骨近位部骨折】手術できない高齢者をどう支えるか

高齢化の進行に伴い、大腿骨近位部骨折(だいたいこつきんいぶこっせつ)を受傷される高齢者が年々増加しています。 通常であれば手術が推奨される骨折ですが、 全身状態が悪い すでに歩行困難 認知症が進行し、手術後の脱臼肢位保持が難しい といった理由か…

パーキンソン病を科学する3ー①~パーキンソン病とミトコンドリアの深い関係

―「マイトファジー」という細胞の自己管理システムとは? パーキンソン病(PD)は、脳の黒質という領域にあるドーパミン神経が徐々に失われていく神経変性疾患です。震えや動作緩慢などの運動症状を引き起こすこの病気の原因として、ミトコンドリアの機能障…

パーキンソン病を科学する4ー②~αシヌクレイン仮説とパーキンソン病──その振る舞いはプリオンに似ている?

パーキンソン病の原因として注目されている「αシヌクレイン仮説」は、非常に興味深い研究分野の一つです。 αシヌクレインは本来、神経細胞内で正常に機能するタンパク質ですが、異常な蓄積を起こすことで、他のタンパク質の機能障害を誘発する性質があります…

尿路感染症(膀胱炎)の診断と治療 ― JAMAレビューから在宅医療での実践まで ―

JAMA誌に、在宅診療・外来における尿路感染症(UTI)の診断と治療に関する重要なレビュー論文が掲載されました。私たち在宅医にとっても遭遇頻度の高い“いわゆる膀胱炎”への対応について、非常に実践的な知見が示されています。今回、そのエッセンスをまとめ…

パーキンソン病を科学する2~パーキンソン病の原因は「ひとつ」じゃない ― 酸化ストレス仮説と在宅医療から見た現実 ―

パーキンソン病の原因は、ひとつの明確な因子によるものではありません。現在の医学的な理解では、**複数の要因(複合因子)**が関与していると考えられています。 その中でも注目されているのが「酸化ストレス仮説」です。ドパミンは私たちの運動機能に深く…

新たな仲間を迎えて ― チーム医療のさらなる一歩

このたび、私たちのチームに新しい仲間が加わりました。消化器外科、小児科、救急医療の専門性を持つ3名の医師が参画し、常勤・非常勤あわせて12名体制での診療となります。 「良い医療は、良いチームから生まれる」――これは、私たちが日々実感していること…