在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

2025-03-01から1ヶ月間の記事一覧

「先生、あとどれくらいですか?」というご家族の問いに

在宅医療の現場で、ご家族からよく聞かれるご質問のひとつに「先生、あとどれくらいですか?」という言葉があります。 そんな時、私は「患者さんは最期の瞬間まで“聞こえて”います。どうか、そばにいてあげてください」とお伝えするようにしています。 とは…

「先生、あとどれくらいでしょうか?」—予後予測と家族への説明

在宅医療の現場で、ご家族から最も多く寄せられる質問のひとつに「先生、あとどれくらいでしょうか?」という問いがあります。 このような場面では、まず「患者さんは最期の瞬間まで聴覚は保たれていると考えられています。ぜひ、そばで声をかけながら過ごし…

栄養管理を科学する56~成分栄養剤はどうやって分類すればいいの?

「成分栄養剤っていろいろあるけど、どうやって分類すればいいの?」そんな疑問を持たれる方も多いと思います。 実は、成分栄養剤にはいくつかの分類方法があり、用途や目的によって使い分けられています。下図にその代表的な分類方法をまとめましたので、ぜ…

喘息とCOPDが重なる「ACO」とは? 〜咳や息切れが続く方へ〜

■ ACOってなに? **ACO(Asthma-COPD Overlap)**とは、喘息(ぜんそく)とCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の両方の特徴を併せ持つ病気です。 例えば、こんな方が当てはまるかもしれません: 子どもの頃に喘息があった 大人になってからも咳や息切れが続いている …

栄養管理を科学する55~経腸栄養剤という選択肢 〜経口摂取が難しくなったときに

食事から十分な栄養を摂ることが難しくなった場合、経腸栄養剤はとても有効なサポート手段となります。 在宅医療の現場でも、患者さんの状態に合わせて適切に使うことで、生活の質を保ちながら栄養をしっかり補うことができます。 次回のブログでは、この経…

高齢ドライバーの交通事故から考える、認知機能と薬の影響

最近、神奈川県茅ケ崎市で90歳の女性が交差点で4人をはねる事故が報道され、大きな注目を集めました。同様のケースとして、過去には東京・池袋で90歳の男性による死傷事故も記憶に新しいところです。 このような高齢者による重大な交通事故は、アクセルとブ…

栄養管理を科学する54~炭酸とろみの嚥下への効果について、もっと知りたい方へ

炭酸とろみが嚥下に与える影響についての詳しいメカニズムは、以下の文献で解説されています。ご興味のある方はぜひご覧ください。 在宅医療|さくら在宅クリニック(逗子市) さらに、こうした最新の医療情報については YouTube でもわかりやすくご紹介し…

「歩かせないこと」のリスク 〜転倒を恐れて失われるもの〜

勤務医時代、入院患者すべてに対して必ず取得していた書類のひとつに「身体抑制に関する同意書」がありました。特に手術後などは、麻酔の影響で意識がもうろうとし、危険行動をとることもあります。こうしたケースでは、身体抑制もある程度理にかなっている…

ハイドロリリースを科学する26ハイドロリリースを科学する26~【最新研究】アイシングは筋肉の再生を遅らせる? ― 神戸大学らの研究から

少しハイドロリリースから離れた話題ですが、、、 スポーツや日常生活での「肉離れ」や「筋肉の打撲」など、筋損傷を受けた際に行う定番の処置といえば、RICE(ライス)処置。Rest(安静)・Ice(冷却)・Compression(圧迫)・Elevation(挙上)の頭文字を…

栄養管理を科学する53~【嚥下障害と炭酸水】エビデンスで見るその効果とは?

近年、炭酸水が嚥下障害に有効であるという研究結果が注目されています。 実際に、下図の論文では、炭酸水が 誤嚥(ごえん) や 喉頭侵入 を防ぐ効果があることが示されています。炭酸の刺激が、嚥下反射を促すためだと考えられています。 炭酸水の活用は、…

ハイドロリリースを科学する25~【筋膜内の“気泡”が語るもの】炎症・循環障害との関係を考える

内視鏡を用いて、炎症を伴った筋膜組織を観察すると、時折その内部に**「エアー(組織内気泡)」**が確認されることがあります。 ■ この“気泡”は何を意味しているのか? 現時点では、これが筋膜の肥厚を引き起こす原因なのか、それとも結果なのかははっきり…

栄養管理を科学する52~【新しい試み】摂食・嚥下障害に「とろみ×炭酸水」が効く?

摂食・嚥下障害に対して、新たなアプローチが注目を集めています。それが――**「とろみ × 炭酸水」**という組み合わせです。 一見、意外に思えるかもしれませんが、この組み合わせが嚥下障害に対して高い効果を示すケースがあるようです。 なぜ「とろみ×炭酸…

桜に導かれて──「人生の最期」を考えるきっかけと、在宅医療という選択肢

私が今の家を購入するきっかけは、一本の桜の木でした。 「桜山」という地名が示す通り、まさに桜の季節。現在の家を初めて内覧に訪れた日、少し坂を上ると、そこはまるで桜のトンネル。桜吹雪が視界を覆い、ワイパーで花びらをかき分けて進むほどの“桜の歓…

ハイドロリリースを科学する24~【筋膜の滑走性と炎症の関係】“硬結”の正体を可視化する

筋膜アプローチに携わる現場では、筋膜の滑走性が炎症に大きく影響されることを、日々の診療で実感しています。 この“滑走性の低下”は、痛みや可動域制限の原因にもなる非常に重要な指標ですが、**可視化する手段として非常に有効なのが「エコー(超音波)」…

栄養管理を科学する51~【在宅医療あるある】口腔内乾燥を引き起こす可能性のある薬剤とは?

在宅医療の現場でよく見られる症状のひとつに、**口腔内の乾燥(ドライマウス)**があります。実はこれ、一部の薬剤が原因となっている場合があるのをご存知ですか? こんな薬剤に要注意! 以下のような薬剤は、口腔内乾燥 ➤ 嚥下障害を引き起こす可能性があ…

『新版 間違いだらけのリハビリテーション』~「起立―着席運動」のすすめ~

リハビリの成果が、30年前と比べて悪くなってきている――そんなショッキングな一言から始まるのが、三好正堂先生の著書『新版 間違いだらけのリハビリテーション』です。 筆者によれば、原因は「汗をかくような地道な治療が減ってきたから」だと言います。確…

ハイドロリリースを科学する23~【筋膜と電気信号の関係とは?】鍼治療の不思議に科学で迫る

私たちの身体は、思考や心臓の拍動までもが電気信号によって成り立っています。こうした電気信号のやりとりは、身体の隅々まで広がり、絶えず流れ続けています。 ■ 鍼治療はなぜ効くのか? 古くから行われてきた鍼治療。「遠くの臓器に効果が出る」「麻酔や…

栄養管理を科学する51~在宅医療あるある:高齢者の嚥下障害について

在宅医療の現場でよく見られるのが、**高齢者の「嚥下障害(飲み込みの障害)」**です。 この嚥下障害は、以下の2つの視点から理解することが大切です。 ① 咀嚼・食塊形成・送り込みの不全 食べ物を噛んで、飲み込める状態にまとめ、喉へ送る工程に問題があ…

がん性皮膚潰瘍とは? ~見えないつらさに寄り添うケアを~

がんが皮膚に広がったり、再発や転移によって体表面に現れると、皮膚が潰瘍化してしまうことがあります。これを「がん性皮膚潰瘍」と呼びます。 がん性皮膚潰瘍は、転移性がん全体の約5〜10%に見られ、特に乳がんや頭頚部がんでの発生率が高いといわれてい…

ハイドロリリースを科学する22~【腰痛治療の実際】“画像で見えない痛み”へのアプローチとは?

腰痛は非常に多くの人が抱える症状ですが、実はその治療は非常に難しいのが現状です。なぜなら、多くの腰痛は画像では異常が映らない「非特異的腰痛」に分類されてしまい、一般的な医療機関では痛み止めを処方して終わりという対応がほとんどです。 筋筋膜性…

栄養管理を科学する50~在宅医療でよく見られる「口腔機能低下」の原因とは?

在宅医療の現場では、高齢者を中心に口腔機能の低下に悩む方が少なくありません。「なぜうまく噛めないのか?」「どうして飲み込みにくくなるのか?」といった疑問に対して、原因を知ることがとても重要です。 下図のように、口腔機能低下の原因はさまざまで…

ハイドロリリースを科学する21~【腰痛の誤解】実は“椎間板ヘルニア=腰痛”ではない?

「椎間板ヘルニア」と聞くと、多くの方が「腰が痛い」というイメージを持っているかもしれません。ですが実は―― 椎間板の突出(いわゆるヘルニア)によって生じるのは、主に**坐骨神経痛(下肢痛)**です。 腰そのものの痛み(腰痛)は、必ずしもヘルニアか…

実は多い?冬の「ヒートショック」での死亡―夏より10倍も多い現実

近年、高齢者の「入浴中の突然死」が実は非常に多いということが知られるようになってきました。 その主な原因の一つが「ヒートショック」。寒い冬に暖かい部屋から寒い脱衣所や浴室に移動することで、急激な血圧変動が起こり、心筋梗塞や脳卒中など命に関わ…

実は多い?冬の「ヒートショック」での死亡―夏より10倍も多い現実

近年、高齢者の「入浴中の突然死」が実は非常に多いということが知られるようになってきました。 その主な原因の一つが「ヒートショック」。寒い冬に暖かい部屋から寒い脱衣所や浴室に移動することで、急激な血圧変動が起こり、心筋梗塞や脳卒中など命に関わ…

栄養管理を科学する~在宅医療あるある:高齢者の嚥下障害とは?

在宅医療の現場では、高齢者の「嚥下障害(えんげしょうがい)」に直面することがよくあります。 嚥下障害を理解するには、次の2つの側面から捉えることが大切です。 1. 咀嚼・食塊形成・送り込みの不全 食事を噛んで、飲み込む準備をする過程がうまくいかず…

【がん患者さんのつらい口内炎に】試してほしい2つの治療法

がん患者さんは、抗がん剤や放射線治療の影響で、口内炎(口腔粘膜炎)ができやすくなります。「たかが口内炎」と思われがちですが、体調に敏感な患者さんにとっては大きなストレスとなり、食事・会話・睡眠など日常生活の質に大きく影響します。 一般的な治…

ハイドロリリースの効果を実感してから見えてきた「筋膜アプローチ」の奥深さ

ハイドロリリースを実際に体験し、その即時的な効果を感じた後、私は「筋膜」へのアプローチについてより深く学びたくなりました。 数冊の専門書を手に取り、そこにはこう書かれていました: 徒手による虚血性圧迫を行い、チキソトロピー(時間の経過ととも…

栄養管理を科学する47~嚥下オデコ体操とは?

皆さん、「嚥下オデコ体操」ってご存知ですか? この体操は、飲み込む力(嚥下機能)を鍛えるための簡単なエクササイズで、特に高齢者や嚥下機能の衰えが気になる方におすすめです。実際のやり方は、下の図をご覧いただくか、動画でチェックしてみてください…

認知症治療の功罪~アリセプトの作用機序:アリセプトの本当の作用とは?短期記憶障害だけではない

アリセプトの本当の作用とは?短期記憶障害だけではない アリセプトは、神経伝達物質の一つであるアセチルコリンの働きを促進することで、短期記憶障害を改善する作用を持つ薬です。しかし、アリセプトの本来の効果は、単に短期記憶障害の改善にとどまらない…

ハイドロリリース(筋膜リリース)を科学する19~筋膜の驚くべき役割 〜無視されてきた「情報ネットワーク」〜

筋膜は、長らく医学の分野で軽視されてきた存在でした。しかし近年の研究により、筋膜には多数の感覚受容器が存在し、筋肉と硬膜(脳を包む膜構造)の物理的な連続性を保持する橋渡しの役割を果たしている ことが明らかになっています。 筋膜と神経ネットワ…