在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

認知症患者の身体拘束について

以前も書いたのですが、認知症患者さんが入院されるとかなりの頻度で身体拘束されます。程度はベッドから起き上がれないくらい本格的なものから、車いすに固定される程度まで様々です。これは転倒などの危険防止や脱走防止です(実際、院外で保護されるなどのことがあります)。身体拘束は、廃用の原因となり歩けていた患者さんが歩けなくなり、寝たきりとなり誤嚥性肺炎など併発して不帰の転帰となる患者さんを本当に星の数をほど見てきました。病院という異空間で起きていることは、日々の暮らしと隔絶されており実際当事者にならないと、その現実が自身のリアルにならないものです。ある調査によりますと、認知症の人が病気やけがで一般の病院に入院した際、45%の人が自由に体を動かせないようにされる身体拘束を受けていたとの調査結果を、国立がん研究センターと東京都医学総合研究所の研究チームがまとめています。転倒などのリスク回避が主な理由ですが、研究チームは「拘束が習慣化している可能性があり、身体機能の低下や認知症の進行などデメリットを検討して不必要な拘束を減らす取り組みが必要だ」としています。

 身体拘束は、介護施設では原則禁止。精神科病院については法律上も限定的に容認されているが、一般病院では医師や看護師らの判断に委ねられています。

こういった記事をみて、過剰な拘束をしていると病院を責めることができないのも現実です。

実際の事例として熊本市で2013年、認知症で入院中に転倒し、全身まひの障害を負った熊本県菊陽町の男性(95)と親族が、病院を経営する医療法人佐藤会(同市)に約3890万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、熊本地裁は17日、約2770万円の支払いを命じています。

 判決によると、男性は13年5月、認知症の投薬治療のため入院した際、車いすに乗って1人でトイレに行き転倒。頭を打ち、まひの障害が残り、寝たきりの状態となった。

 小野寺優子(おのでら・ゆうこ)裁判長は判決理由で、男性は歩く際にふらつきが見られ、転倒する危険性は十分予測できたと指摘。その上で、病院では看護師数が足りない状況が常態化していたとし「今回の事故でも速やかに介助できるよう見守る義務を怠った」と述べた。

こういった判例もあるので、事故を起こさないようにするために過剰な拘束をせざる得ないのです。

それでも身体拘束が人道的に問題で、減らすようにしたいのであれば、「拘束の同意書」をとるのではなく、逆に、「拘束をしない同意書」も一案と考えます。これは、拘束をしないことで事故(転倒、転落、チューブの抜去など)が起きたとしても、病院は責任を取らないという同意書です。つまり、縛り付けたとしても事故を起こさないようにするのか、人間らしく生きるために事故を許容するのか、の2択から選択してもらうのです。しかし判例にある24時間転倒しないように見守る義務がるとする裁判官に私なら「裁判長!部屋に籠って勉強ばかりしてないで現実の世界に飛び込んで下さい!」と言いたくなります。転倒しないようにベッドに縛り付けられ、排せつはオムツに行い、廃用が進み寝たきりになる。一方、自分でトイレに行き、転倒して麻痺が起こり寝たきりになる。寝たきりという結果は同じでも、後者では人間の尊厳は保たれているのです!尊厳を踏みにじる命と尊厳を保たれた天命 どちらをとるか私自身も認知症になる前に決めておくつもりです。

逗子、葉山、横須賀、鎌倉を撮影される山内様の写真です