在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

新型コロナウィルスの診断方法は

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新型コロナウィルスの診断方法は

感染症の診断は、病原微生物と感染臓器の特定から成ります。つまり、どのような名前の病原微生物がどこの臓器についているかが分かると、感染症の診断が成立することになります。
 例えば、肺炎球菌が肺で悪さをしていれば肺炎球菌肺炎となりますし、EBウイルスが全身で悪さをしていれば、EBウイルスによる伝染性単核球症という診断(病名)になります。
 しかし、診察の最初から病原微生物の名前が分かるわけではありません。病原微生物の検査にはいくつかの方法がありますが、あくまで「検査」をして判明するものになります。場合によっては、病原微生物の名前が分かるまでに、数日〜数週間の時間が必要になることもあります。
 では、実際にどのような順番で診断がついていくのかを考えてみましょう。
話を聞いて診察をして、「どこの臓器に問題が起こっているのか」を推測する。
必要に応じて血液検査や画像検査を追加して、「問題となっている臓器」を確定する。
感染症の可能性があれば、「問題となっている臓器」に感染しやすい「病原微生物」の名前を推測して適宜微生物に関連する検査を追加する。
追加の検査から「病原微生物」の名前が確定して、感染症の診断が確定する。
 という順番になります。つまり、「何が起こっているのか」→「誰が問題を起こしているのか」の順番で考えるということですね。
 新型コロナウイルス感染症でも同様です。「2.新型コロナウイルスによる病気」でも書きましたが、元々は風邪を起こす病原微生物の仲間ですので、
上気道:喉の痛み、鼻水など
下気道:咳、痰、息苦しさ
 などの症状がまず参考になります。ただし、これは風邪を起こす全ての病原微生物でも引き起こされますので、これらの症状があるからといって「=新型コロナウイルス感染症」ではありません。
 もちろん、発熱や頭痛といった全身症状も出ます。ただ、発熱や頭痛も新型コロナウイルス感染症を示す手がかりとしては弱く、他の多くの感染症でも発熱や頭痛が出ます。これらを見てくると、単に症状だけで「新型コロナウイルスがいる」ということはとても難しいことが分かると思います。特に発症1週間以内は難しいです。逆に、熱もなく、上気道・下気道症状がない場合、新型コロナウイルス感染症はほぼ否定的と言っていいでしょう。実際、中国CDCの報告でも、無症候であったのは1.2%のみとなっています。
 そこで重要なのは、病原微生物をもらう相手が周りにいたか、ということになります。つまり周囲の流行状況です。繰り返しになりますが、バイ菌の病気はバイ菌が体内に入り込むことで発症し、バイ菌が存在しなければ、その病気は発症しません。誰か、あるいはどこかから持ちこまれる必要があります。その手がかりは、地域の流行状況だったり、すでに発症した人が近いところにいたかということになります。例えば大阪のライブハウスの集団発生のように、換気のしにくい狭い空間に新型コロナウイルス感染症の患者がいたとして、その中にいた人が発熱・咳で受診すれば、新型コロナウイルス感染症の可能性はとても高くなります。「換気のしにくい狭い空間に同席した」というのはキーワードになります。
 もしも周囲の流行がない状況だとしたら、「普通の風邪」と「新型コロナウイルス感染症」を初期に見分けるのは難しいことは説明をしました。
 ただし、新型コロナウイルス感染症で重症になる患者の特徴は、「普通の風邪は治りつつある1週間以降」に症状が悪化していく点です。ここを見つけることで診断の可能性が高まり、重症患者を適切に診療することができます。右図(厚生労働省 高山義浩医師作成)を参考にしてください。さらに、抗菌薬をきちんと使用しても良くならないというのも重要なポイントになります。

「当初大丈夫と判断しても、7日目までに電話にてご連絡いただき状態を再評価するシステム」『軽症の場合、早期に診断してもメリットが少ない』という背景があると同時に『重症は確実に拾い上げたい』という意図が含まれています。
早い段階
1週間前後(5~9日目)
遅い段階
労力多いが、偽物が多く混じる
多少偽物混じるが、介入必要な患者は確実に拾える
本物しかいないが、介入が遅くなり手遅れのリスク
 ただし、これは新型コロナウイルス感染症に関連した問題の場合であり、
どんどん状態が悪化していく
食事・水分が摂れない
体がだるくて動けない
 などの場合は上記の限りではありません。早い段階でかかりつけ医にご相談ください。
 話を聞いて診察を行った時点で極めて新型コロナウイルス感染症の可能性が高いと判断されれば、PCR検査を行う場合があります。『場合があります』と書いたのは、可能性が高くても医師の判断でPCR検査を行わない場合もあります。PCR検査の詳細は次回に譲ります。
 逆に、まだ新型コロナウイルス感染症の可能性が高くないと判断されれば、軽症なら経過観察を行ったり、他の治療の反応性を見ることもありますし、必要に応じて血液検査や画像検査を追加することもあります。ここでのポイントは
血液検査でウイルス感染を疑う所見があるか
画像検査で肺炎があるか
 になります。「ウイルスによる肺炎の場合に、このような影になりますよ」というのはあるようですが、「まさに新型コロナウイルス感染症による肺炎の影」とまでは診断できないようです。あくまで、「新型コロナウイルス感染症でも矛盾しない」というところまでです。
 患者との接触した歴がなくても、1週間ほどの経過の肺炎があって、原因が細菌ではなくてウイルスのようで、インフルエンザウイルスが否定されていれば、新型コロナウイルス感染症の可能性は高くなります。この段階までくれば、PCR検査を行って病原微生物の名前を決めるか検討します。理想的には「誰が問題を起こしているのか」が決まると、とても診療がやりやすいです。ただ、なんでもかんでもPCR検査やればいいというわけじゃないというのが、次回の話になります。
 
 そうすると、風邪をひいたら「普通の風邪」である可能性のほうが高いですし、肺炎になっても抗菌薬が効く細菌性肺炎の可能性の方が高いと思います。肺炎球菌というバイ菌による肺炎は致死率15%と報告されていて、抗菌薬治療を適切に用いれば10%ほどに低下させることができることを考えると、細菌性肺炎を見逃さないようにし、結核をしっかりと見極められることが現時点では多くの市民の方々にとっては重要になります。