高齢化が進む今、認知症を患う高齢者の数は年々増加しています。そして、肺炎はその終末期における代表的な合併症のひとつ。特に在宅や施設で療養されている方々にとって、病院のような医療体制がない中での診断・対応には、現場の工夫と知見が求められます。
今回は「在宅における末期認知症の肺炎の診療と緩和ケアの指針(2022年 国立長寿医療研究センター)」をご紹介します。
認知症高齢者の肺炎治療はなぜ難しい?
認知症が進行すると、ご本人の訴えは限られ、誤嚥や不穏、感染症のリスクが高まります。肺炎に罹患した際には、
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症状をうまく伝えられない
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多くの併存疾患がある
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入院や検査が難しい環境(在宅・施設)
といった課題が重なり、診療やケアの選択が非常に難しくなるのです。
指針が示す8つの視点
この指針では、重度~末期認知症の方が肺炎にかかった場合における診療・ケアの方向性を、以下の8項目にわけて提示しています:
この記事では、特に「①診断法」に注目してみましょう。
在宅での診断はどうする?
McGeer Criteria の活用
在宅や施設では、X線撮影ができない場合がほとんど。そんなとき、診断の一助となるのが **McGeer Criteria(マクギア基準)**です。
これは米国CDCなどが示す、高齢者施設における感染症スクリーニング基準で、以下のような特徴があります:
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医師でなくとも、看護師や介護職が観察可能な所見に基づいて判断できる
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肺炎や下気道感染が疑われる際の初期判断ツールとして使える
📚参考論文:Stone ND et al. Infect Control Hosp Epidemiol. 2012
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22961014/
ただし注意点として、これはあくまでスクリーニング基準。肺炎以外にも類似症状を起こす疾患(心不全、COVID-19など)との鑑別は、可能な限り行う必要があります。
現場で使える観察ポイント
McGeer Criteriaでは、発熱や胸痛に加え、次の5つの症状が評価に有効とされています:
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咳嗽(がいそう)
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痰の増加
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SpO₂ 低下(94%未満)
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頻呼吸
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聴診異常(ラ音など)
実際には、高齢者では発熱が見られないケースも多く、日頃からの丁寧な観察が重要です。日々の看護記録や介護記録が、肺炎の早期発見につながる可能性もあります。
最後に:在宅医療の現場から
今後、誤嚥性肺炎をはじめとした感染症は、認知症高齢者の在宅医療において避けられない課題になっていきます。
治す医療から、支える医療・看取る医療へ。
指針に基づいた合理的な対応と、ご本人の尊厳を守るケアを両立させながら、これからも在宅での肺炎ケアに真摯に向き合っていきたいと思います。👉 当院では、地域の在宅医療ニーズに応え、安心と尊厳ある療養生活を支援しています。
詳細は公式HPへ:
さくら在宅クリニック|逗子市・在宅医療