在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

在宅医療における認知症について11~アルツハイマー病の診断とは ~病理評価と症状の進行をめぐる理解~

 


アルツハイマー病の主な症状と分類

アルツハイマー病は、記憶障害・見当識障害・言語障害などを主症状とする認知症のひとつです。ICD-10では発症年齢により以下のように分類されます:

病理診断と正常加齢との境界

アルツハイマー病の確定診断は**病理所見(剖検脳)**によって行われます。特徴的な病変として、以下の2つが知られています。

  • 老人斑(senile plaques)

  • 神経原線維変化(neurofibrillary tangles)

ただし、これらの病変は正常な高齢者の脳にもある程度認められるため、「出現していれば即アルツハイマー病」とはいえません。ある“閾値”を超えると病的とされるという連続性が、がん病理のような明確な境界線とは異なります。

この曖昧さこそが、アルツハイマー病の診断をより難解にしている点です。

複数ある病理評価法とNIA-AAの提案

病理診断基準は一つではなく、以下のように複数の指標が存在します:

  • Khachaturian基準

  • CERAD基準

  • Braak分類

  • Thal分類

特にCERAD分類に関しては、実証的エビデンスが不足しており、再現性に乏しいとの批判もあります。

これを受けて、米国の専門家グループがまとめたのがNIA-AA(National Institute on Aging–Alzheimer's Association)病理評価ガイドラインです。

この評価法では、以下の3要素を点数化して統合的に評価します。

病理指標 評価方法
老人斑の広がり Thal 分類(A)
神経原線維変化の広がり Braak 分類(B)
神経突起を伴う老人斑の密度 CERAD 分類(C)

この3要素を組み合わせ、病理変化レベルを「なし・低度・中等度・高度」の4段階で評価します(下図参照)。

 

🔍 ポイント
中等度以上であっても、必ずしも認知症の原因とは限らず、あくまで“確からしさ”を示す確率的診断である点が重要です。

症状の進行とBPSD(行動・心理症状)

アルツハイマー病の症状は時間とともに変化し、中核症状(記憶障害など)→BPSD→身体症状へと段階的に進行する傾向があります。

 

BPSD(行動・心理症状)は一時的に目立ち、介護現場を混乱させることがありますが、やがて落ち着き、身体機能の低下が前面に出てきます。

安易な診断・治療に注意

近年では、「長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)で20点未満だからアルツハイマー認知症」といった乱暴な診断が横行しているケースもあります。明確な病歴や画像所見、場合によってはバイオマーカー等を組み合わせた慎重な評価が必要です。

認知症薬は慎重に処方されるべきであり、不正確な診断が有害な投薬につながる可能性もあることを、臨床の現場では常に意識すべきです。

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