在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

在宅医療における認知症について17~正常圧水頭症とは? 〜歩行障害・物忘れ・尿の悩みは治せるかもしれません〜

画像が生成されました正常圧水頭症とは

正常圧水頭症NPH)は、頭蓋内に脳脊髄液が余分にたまっているにもかかわらず、脳圧が正常範囲内に保たれている病気です。原因としては、くも膜下出血や頭部外傷後に起こる続発性と、原因がはっきりしない特発性があります。

主な症状は次の3つです。

  • 歩行障害

  • 認知機能障害(物忘れよりも動作や判断の遅れ、注意力低下、アパシーなど)

  • 排尿障害(初期は頻尿、進行すると尿失禁)

これらはいずれも脳外科治療で改善の可能性がある症状です。早期発見が大切です。


歩き方の特徴

初期から現れやすく、かつ手術で最も改善しやすいのが歩行障害です。
小刻みで、すり足、外股で左右に広げた不安定な歩き方になります。歩き始めや方向転換が特に遅くなり、ペンギンの歩き方のように見えることもあります。転倒もしやすくなります。

下図は、正常圧水頭症の歩行と健康な人の歩行の比較です。
左がNPHの患者さんの足跡で、左右の足幅が広く、すり足気味で歩いているのが分かります。右の健常者は歩幅も安定しています。

 


診断のポイント

症状だけでNPHを見分けるのは難しく、加齢や他の認知症(例:血管性認知症レビー小体型認知症)でも似た症状が出ます。
そこで重要になるのが画像診断です。

  • CT/MRIで脳室拡大、シルビウス裂以下のくも膜下腔拡大と、高位円蓋部の狭小化を確認

  • アルツハイマー病では脳室拡大はあっても高位円蓋部の狭小化は見られないため、鑑別に有用

  • 冠状断MRIが推奨され、脳血流シンチで特徴的な血流パターン(脳梁周囲・シルビウス裂周囲の低下、高位円蓋部の増加)が見られることもあります


治療と予後

髄液排除試験(腰椎穿刺で脳脊髄液を抜き、症状改善の有無を確認)で手術適応を判断します。
治療はシャント術(脳脊髄液を腹腔などに流す手術)で、腰椎腹腔短絡術(L-Pシャント)や脳室腹腔短絡術(V-Pシャント)が行われます。

研究によると、手術後は59%の患者さんで症状が改善し、特に歩行障害の改善率が高いとされています。ただし、患者さんの約20%はアルツハイマー病を合併しており、この場合は歩行は改善しても認知機能は改善しないことがあります。


まとめ

正常圧水頭症は、見つければ治療できる可能性のある認知症様疾患です。
「歩きにくい・よく転ぶ・尿のトラブル・物忘れ」などが気になる場合は、早めに脳外科での画像検査を受けることをおすすめします。


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