「不穏」とは、せん妄や認知症に伴う幻覚・妄想、興奮、暴言・暴力、不眠などの状態を指し、患者さん本人にも周囲にも大きな負担となります。非薬物的アプローチで対応しきれない場合、薬物療法が重要な選択肢となります。
今回は、不穏に対して用いられる代表的な薬剤とその選び方について、実臨床に即して紹介します。
薬剤選択の3つの視点
薬物選択時のポイントは以下の3つです:
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不穏の程度(軽度〜重度、急性か持続的か)
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投与経路(経口、注射、貼付剤など)
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患者さんの背景・既往症(認知症の型、糖尿病の有無、嚥下状態など)
代表的な薬剤と特徴
1. ハロペリドール(セレネース®/リントン®)
▶「不穏=ハロペリドール」とされる場面も多いですが、必要最小限の使用と経口薬への早期切り替えが鉄則です。
2. オランザピン筋注(ジプレキサ筋注用®)
▶急性不穏時に即効性を期待するなら選択肢。ただし慎重な適応判断が必要です。
3. ロナセンテープ®
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特徴:経口困難時に使える貼付剤(ブロナンセリン)。
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メリット:副作用が出た場合はすぐに剥がせる。
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デメリット:皮膚刺激やかぶれの可能性。鎮静作用は弱め。
▶嚥下困難な高齢者でも使いやすい選択肢として注目されています。
4. リスペリドン液剤/5. オランザピン口腔内崩壊錠
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特徴:どちらも水不要で服用可能な経口薬。
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使い分け:
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リスペリドン:幻覚妄想への効果あり、鎮静作用は控えめ。
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オランザピン:鎮静効果が強いが糖尿病には禁忌。
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▶注射は不要だが、経口内服に苦労するケースで非常に便利です。
6. クエチアピン(セロクエル®)/7. ペロスピロン(ルーラン®)
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特徴:
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クエチアピン:鎮静作用強め。糖尿病患者には禁忌。
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ペロスピロン:クエチアピンが使えない糖尿病患者向け。
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注意点:どちらも経口薬。内服困難時は選択肢が狭まる。
▶パーキンソン病やLBDでは安全性を最優先に、これらが主力となります。
抗精神病薬使用時の注意点
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多くの薬剤は統合失調症や双極性障害に対して承認されており、せん妄やBPSD(認知症に伴う行動・心理症状)には保険適応外である点に留意が必要です。
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短期間・最小限の使用を基本とし、可能であれば早期に中止・減薬を目指します。
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非薬物的アプローチとの併用が前提です。
まとめ
不穏に対する薬物療法は、緊急対応や療養環境調整の“つなぎ”として非常に有効ですが、薬に頼りすぎない姿勢が大切です。患者さん一人ひとりの状態に合わせた薬剤選択と、こまめな評価・調整が求められます。
次回は、不穏への介入とその評価について、より実践的なポイントをご紹介する予定です。