在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

不穏へのアプローチ④ ― 薬物治療の実際と薬剤選択のポイント

「不穏」とは、せん妄や認知症に伴う幻覚・妄想、興奮、暴言・暴力、不眠などの状態を指し、患者さん本人にも周囲にも大きな負担となります。非薬物的アプローチで対応しきれない場合、薬物療法が重要な選択肢となります。

今回は、不穏に対して用いられる代表的な薬剤とその選び方について、実臨床に即して紹介します。


薬剤選択の3つの視点

薬物選択時のポイントは以下の3つです:

  1. 不穏の程度(軽度〜重度、急性か持続的か)

  2. 投与経路(経口、注射、貼付剤など)

  3. 患者さんの背景・既往症認知症の型、糖尿病の有無、嚥下状態など)


代表的な薬剤と特徴

1. ハロペリドールセレネース®/リントン®)

▶「不穏=ハロペリドール」とされる場面も多いですが、必要最小限の使用と経口薬への早期切り替えが鉄則です。


2. オランザピン筋注(ジプレキサ筋注用®)

▶急性不穏時に即効性を期待するなら選択肢。ただし慎重な適応判断が必要です。


3. ロナセンテープ®

  • 特徴:経口困難時に使える貼付剤(ブロナンセリン)。

  • メリット:副作用が出た場合はすぐに剥がせる。

  • デメリット:皮膚刺激やかぶれの可能性。鎮静作用は弱め。

▶嚥下困難な高齢者でも使いやすい選択肢として注目されています。


4. リスペリドン液剤/5. オランザピン口腔内崩壊錠

  • 特徴:どちらも水不要で服用可能な経口薬。

  • 使い分け

    • リスペリドン:幻覚妄想への効果あり、鎮静作用は控えめ。

    • オランザピン:鎮静効果が強いが糖尿病には禁忌。

▶注射は不要だが、経口内服に苦労するケースで非常に便利です。


6. クエチアピン(セロクエル®)/7. ペロスピロン(ルーラン®)

  • 対象パーキンソン病レビー小体型認知症の患者に第一選択。

  • 特徴

    • クエチアピン:鎮静作用強め。糖尿病患者には禁忌。

    • ペロスピロン:クエチアピンが使えない糖尿病患者向け。

  • 注意点:どちらも経口薬。内服困難時は選択肢が狭まる。

パーキンソン病やLBDでは安全性を最優先に、これらが主力となります。


抗精神病薬使用時の注意点

  • 多くの薬剤は統合失調症双極性障害に対して承認されており、せん妄やBPSD(認知症に伴う行動・心理症状)には保険適応外である点に留意が必要です。

  • 短期間・最小限の使用を基本とし、可能であれば早期に中止・減薬を目指します。

  • 非薬物的アプローチとの併用が前提です。


まとめ

不穏に対する薬物療法は、緊急対応や療養環境調整の“つなぎ”として非常に有効ですが、薬に頼りすぎない姿勢が大切です。患者さん一人ひとりの状態に合わせた薬剤選択と、こまめな評価・調整が求められます。

次回は、不穏への介入とその評価について、より実践的なポイントをご紹介する予定です。