超高齢社会における歯科医療の使命
日本は世界でも類を見ないスピードで高齢化が進行しています。要介護高齢者が増える中、歯科医療の現場では、「健康寿命」や「生活の質(QOL)」の維持に、どう貢献できるかが問われています。中でも注目されているのが「口腔ケア」の役割です。
単なる歯磨きではなく、「口の健康を保ち、食べる・話す・笑う・生きる」力を支えるケア――それが本来の口腔ケアです。
誤嚥性肺炎とは? 高齢者に多い"見えない肺炎"
高齢者の死因の上位にある「肺炎」。中でも「誤嚥性肺炎」は、食べ物や唾液、口腔内の細菌などが気道に入り込んでしまうことで発症します。特に「夜間、眠っている間に気づかぬうちに唾液などを誤嚥している」状態(不顕性誤嚥)は、高齢者に非常に多いとされます。
咳や発熱といった典型的な症状が出にくく、倦怠感や食欲不振、認知機能の低下といった"わかりにくいサイン"だけが現れることもあります。そのため早期発見が難しく、進行してから肺炎と診断されることも少なくありません。
口腔ケアが肺炎予防につながる科学的根拠
● 咽頭の細菌数が減る
特別養護老人ホームを対象に行われた研究では、専門的な口腔ケアを継続したグループでは、咽頭部の細菌数が顕著に減少し、5か月後には1/10以下になったという結果が報告されています。
● 発熱・肺炎の発症率が低下
全国11施設での2年間の追跡研究によると、歯科医師や歯科衛生士による専門的なケアを併用したグループでは、発熱や肺炎による入院・死亡が有意に少なかったという結果が出ています。
特に、有歯顎者(歯がある人)・無歯顎者(総入れ歯や歯がない人)いずれにおいても効果が認められました。これは口腔内の細菌の種類だけでなく、「量のコントロール」が誤嚥性肺炎の予防に大きく影響することを示しています。
● 口腔ケアは「心のケア」でもある
単に口の中を清潔にするだけでなく、口腔ケアを通じて高齢者の表情が明るくなり、コミュニケーションが増えるという報告もあります。口腔ケアは、「生きようとする意欲」を支える重要なケアなのです。
専門的ケアの必要性と現場への提案
介護現場では、綿棒での拭き取りなど簡易的な清掃が行われがちですが、細菌数を減らすには歯ブラシやスポンジブラシなどによる機械的な清掃が不可欠です。
また、総入れ歯の人や寝たきりの人に対しても、「できる範囲で機能的な口腔ケアを行う」「義歯の管理を徹底する」などの工夫が求められます。
さらに、摂食・嚥下障害を持つ高齢者やICUでの人工呼吸管理中の患者においても、口腔ケアは誤嚥性肺炎や人工呼吸器関連肺炎(VAP)の予防に有効であることが注目されています。
誤嚥性肺炎予防のためにできること(戦略のまとめ)
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毎日の基本的な口腔ケア(家族や介護者による)
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定期的な専門的口腔ケア(歯科衛生士や歯科医師による)
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食形態の工夫(できるだけ常食に近づける)
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脱水の予防・睡眠時の体位調整
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ADL(活動能力)と精神的健康の維持
口腔ケアは、感染予防だけでなく、要介護高齢者の生活の質そのものに大きく寄与します。歯科医療者だけでなく、介護や医療の多職種が連携しながら、「口から命を守る」ケアに取り組むことが、これからの社会においてますます重要になるでしょう。詳細は公式HPをご覧ください。
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