在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

在宅医療における認知症について13~アルツハイマー病以外の「四大認知症」──血管性認知症・レビー小体型認知症・前頭側頭葉変性症

地域差から見える「診断の難しさ」

以下の表は、厚生労働省が実施した高齢者を対象とした大規模疫学調査の結果です(平成21~22年度)。認知症と診断された方のうち、各疾患の占める割合には地域・施設によって大きなばらつきがあります。



たとえば、血管性認知症の割合は、ある施設では0.0%、別の施設では28.6%と極端に異なります。レビー小体型認知症も、0.0%〜10.3%とばらつきがあり、診断能力の差異が原因と考えられます。

この結果は、「たとえ専門医であっても、認知症の診断は決して簡単ではない」ことを示しています。一般臨床医にとって、早期・正確診断を無理に目指す必要はなく、典型的な症例を見逃さないことが何より重要です。


血管性認知症(Vascular Dementia)とは?

● 病態と特徴

血管性認知症は、脳梗塞脳出血などの脳血管障害によって発症する認知症です。アルツハイマー病に次いで頻度が高く、記憶障害以外にも多彩な神経症がみられます。

重要なのは、血管性認知症という「単一の疾患」は存在しない点。これは複数の病態を総称した言葉であり、症状の出方も多様です。

アルツハイマー病との違い

以下の表に、血管性認知症アルツハイマー病の違いをまとめました。



血管性認知症では、記憶障害が必ずしも出現せず初期から身体症状(歩行障害や頻尿など)がみられることがあるのが特徴です。また、認知機能の変動(朝はしっかりしているが夕方からぼんやりするなど)もあります。

● 典型的な進行パターン

脳卒中の発症をきっかけに急激に認知機能が低下し、その後は一定期間安定、再度の脳血管障害でさらに悪化する…といった**階段状の進行(ステップワイズ)**が典型です。

 

ただし、小血管病変が中心の場合には、アルツハイマー病と似た緩徐進行の経過をとることもあり、区別が難しいことがあります。


血管性認知症の分類(NINDS-AIRENによる)

血管性認知症は、原因病変に応じて以下のように分類されます。

分類 特徴
① 多発梗塞性認知症 脳の広範囲に梗塞が起こり、階段状に進行
② 戦略的部位の単一病変 視床・角回など高次機能部位の梗塞が原因
③ 小血管病変性認知症 ラクナ梗塞や白質病変が中心、緩徐進行しやすい
④ 低灌流性認知症 心停止や低血圧による循環不全が原因
脳出血認知症 視床出血やくも膜下出血後に発症
⑥ その他 CADASILなどの遺伝性脳血管病変による

一般臨床医に求められる姿勢

専門医の診断であっても、盲目的に信じて治療方針を決めるのは危険です。とくにレビー小体型認知症では、抗精神病薬の投与が症状を悪化させる危険があるため、慎重な判断が求められます。

一般医として重要なのは:

  • 典型的な症例を見逃さない

  • 専門医の診断を「確定」とせず、経過観察を重ねる

  • 誤診による不要な薬物療法をしない・させない


おわりに

血管性認知症をはじめとする非アルツハイマー認知症は、多様な症状と経過を呈し、診断・対応には熟練を要します。とはいえ、「典型例を押さえる」「薬物療法の落とし穴を避ける」など、一般臨床医にもできる重要な役割はあります。

次回は、レビー小体型認知症(DLB)や前頭側頭葉変性症(FTLD)についても紹介していく予定です。