地域差から見える「診断の難しさ」
以下の表は、厚生労働省が実施した高齢者を対象とした大規模疫学調査の結果です(平成21~22年度)。認知症と診断された方のうち、各疾患の占める割合には地域・施設によって大きなばらつきがあります。
たとえば、血管性認知症の割合は、ある施設では0.0%、別の施設では28.6%と極端に異なります。レビー小体型認知症も、0.0%〜10.3%とばらつきがあり、診断能力の差異が原因と考えられます。
この結果は、「たとえ専門医であっても、認知症の診断は決して簡単ではない」ことを示しています。一般臨床医にとって、早期・正確診断を無理に目指す必要はなく、典型的な症例を見逃さないことが何より重要です。
血管性認知症(Vascular Dementia)とは?
● 病態と特徴
血管性認知症は、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害によって発症する認知症です。アルツハイマー病に次いで頻度が高く、記憶障害以外にも多彩な神経症状がみられます。
重要なのは、血管性認知症という「単一の疾患」は存在しない点。これは複数の病態を総称した言葉であり、症状の出方も多様です。
● アルツハイマー病との違い
以下の表に、血管性認知症とアルツハイマー病の違いをまとめました。
血管性認知症では、記憶障害が必ずしも出現せず、初期から身体症状(歩行障害や頻尿など)がみられることがあるのが特徴です。また、認知機能の変動(朝はしっかりしているが夕方からぼんやりするなど)もあります。
● 典型的な進行パターン
脳卒中の発症をきっかけに急激に認知機能が低下し、その後は一定期間安定、再度の脳血管障害でさらに悪化する…といった**階段状の進行(ステップワイズ)**が典型です。
ただし、小血管病変が中心の場合には、アルツハイマー病と似た緩徐進行の経過をとることもあり、区別が難しいことがあります。
血管性認知症の分類(NINDS-AIRENによる)
血管性認知症は、原因病変に応じて以下のように分類されます。
一般臨床医に求められる姿勢
専門医の診断であっても、盲目的に信じて治療方針を決めるのは危険です。とくにレビー小体型認知症では、抗精神病薬の投与が症状を悪化させる危険があるため、慎重な判断が求められます。
一般医として重要なのは:
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典型的な症例を見逃さない
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専門医の診断を「確定」とせず、経過観察を重ねる
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誤診による不要な薬物療法をしない・させない
おわりに
血管性認知症をはじめとする非アルツハイマー型認知症は、多様な症状と経過を呈し、診断・対応には熟練を要します。とはいえ、「典型例を押さえる」「薬物療法の落とし穴を避ける」など、一般臨床医にもできる重要な役割はあります。
次回は、レビー小体型認知症(DLB)や前頭側頭葉変性症(FTLD)についても紹介していく予定です。