摂食嚥下運動は、求心性神経伝達を受けて出力される遠心性神経伝達の結果としてあらわれる筋肉の運動です。わかりやすくいうと、感覚入力が食べるための運動をコントロールしているわけです。重度認知症の方は、この感覚入力を総括する中枢神経機能に大きな問題を抱えています。健常者は食物を食べるとき五感をフル活用しており、これらすべてに配慮した食事介助が重度認知症の方へは必要です。
- 現在食事時間であるということを認知する
- 何を食べるか考えるために食物を見分ける
- どのようにして食べるか見分ける
- 捕食する行為につなげる
- 口の中で味覚を通じて味がわかる
- 口の中で触覚・温覚・痛覚を通じて食物がどのような状況にあるか判断する
① 視覚情報五感をフル活用する
視覚は食べる場面で最も大切な感覚です。重度認知症の方は覚醒していても常時閉眼したままで過ごしているかもしれません。食事中であること、何を食べようとしているのか、スプーンがどのように口に向かってきているのかなどを目で見て認知することは安全に食べるための第一歩です。
自分で開眼しない場合は、もしかしたら開眼しようとしているけれども失行症状でできていないのかもしれません。ケア提供者の手でやさしく開眼を補助することが効果的な場合があります。
また、過度のリクライニング位は視覚情報の遮断につながることがあります。現状を把握できない状況で突然スプーンが口唇に当たったり口腔内に入ってきたとしたら、健常者でも食事のリズムを崩してしまいます。リクライニングが必要な方への視覚情報入力には、見せる意識を高くもち介助を行うべきでしょう。
② 手指の知覚五感をフル活用する
視覚についで食事場面の把握をしやすい感覚は、手指の感覚です。食べようとしている料理の入った食器を持つ、または食器に手を添える、スプーンを持つなどして手指の知覚を活用しましょう。
食器を持つ知覚は、どのようなお碗に入った料理なのか、冷たいのか温かいのか、たくさん残っているのか少ないのかという感覚を脳に伝えます。
スプーンを持つ手からの知覚は、食べ物をどのようにすくったのか、今スプーンは口の近くに向かってきているのかという情報の元になります。
手指を動かす機能が少しでもあるならば、この知覚を活用することで誤嚥リスクを減らしたり、食事拒否や注意散漫症状を軽減したりできると考えられます。
③ においと聴覚入力五感をフル活用する
嗅覚や聴覚も食事中の状況把握や食べる意欲にかかわる要素です。認知症の方のなかには嗅覚や聴覚の機能も衰えてきている方が多くいます。しかし、においや音を全く検知できなくなっているのではなく、感度に支障をきたしているという場合がほとんどです。感度に問題があるならば、それなりの対策を講じればよいのです。
対象の食物を鼻に近づけることで、においを感じやすくなります。スプーンを近づけるだけでは、においを十分に感じることはできないかもしれません。できれば食器ごと鼻に近づけてにおいを感じてもらうのがよいでしょう。
どのような料理や味のものを口に運ぼうとしているのかを言葉で伝える(例:「今が旬の秋鮭ですよ」「きのこのいい香りがしますね」)ことで、聴覚を通じて食物認知を高めることができます。聴力が低下しているのであれば、はっきりと聞きとれるスピードに落として耳元で伝えます。
④ 舌と口唇の知覚五感をフル活用する
食物を認知するのは、食物を目で見て口の中に入る前だけではありません。口の中に入った食物の状況を舌や口腔粘膜、口唇の知覚で感じています。認知機能が高度に低下した方のなかには、食物が口の中に入ったことをすぐに察知できない場合があります。
スプーンの背面を舌の中央(舌背)に少し押しつけるくらいの感覚刺激が必要かもしれません。口腔底(下顎前歯と舌先端のスペース)に食物を落とし込むような食事介助では、口腔内の食物認知を高めることはできないので、舌背に届くようなスプーン操作に気を配るべきです。
口唇の知覚も口腔内の食物認知に重要です。健常者は必ず口唇でスプーンを挟み、食物をぬぐいとっています。もしスムーズに口唇閉鎖ができないようであれば、ケア提供者の指を患者さんの唇に添えてスプーンの表面をぬぐえるように口唇閉鎖を援助しましょう。
⑤ 味覚五感をフル活用する
食べ物の味覚は明らかに食物認知の助けになります。味覚を認知することが困難になってきている場合、工夫が必要です。
・味の濃いもの、甘みの強いもの
・食べなれた味(日本食の出汁や味噌の味)
・人によっては柑橘系の味など
食物認知をしやすいものを提供する工夫が必要です。個人によって食物認知しやすい味が異なっていることがありますので、手を変え品を変えアプローチしてみてください。
⑥ 次の一口五感をフル活用する
健常者は食事中に次の一口を準備しながら食べています。食事介助が必要な方にも次の一口を準備している様子を見せながら食事介助するのが理想的です。
食べるリズム(ペース)が遮断されることなく食事が進むことで、嚥下躊躇・嚥下失行とよばれるような口の中に食物をため込む症状の軽減につながる可能性があります。次の一口を見たり感じたりすることで、舌の送り込み運動や口を開けるきっかけになります。
- 食物認知が途切れない
- 運動の連動性が保たれる


食具を持つ手の介助(概念図)

