在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

誤嚥性肺炎を科学する69~重度認知症患者の食事介助

重度認知症患者の食事介助

五感(視覚・触覚・嗅覚・聴覚・味覚)をフル活用したアプローチ

📅 2026年3月28日重度認知症 / 食事介助
Message
  • 五感(視覚、触覚、嗅覚、聴覚、味覚)をフル活用しながらの食事介助を行おう

摂食嚥下運動は、求心性神経伝達を受けて出力される遠心性神経伝達の結果としてあらわれる筋肉の運動です。わかりやすくいうと、感覚入力が食べるための運動をコントロールしているわけです。重度認知症の方は、この感覚入力を総括する中枢神経機能に大きな問題を抱えています。健常者は食物を食べるとき五感をフル活用しており、これらすべてに配慮した食事介助が重度認知症の方へは必要です。

📋 食物認知の段階(6ステップ)
  1. 現在食事時間であるということを認知する
  2. 何を食べるか考えるために食物を見分ける
  3. どのようにして食べるか見分ける
  4. 捕食する行為につなげる
  5. 口の中で味覚を通じて味がわかる
  6. 口の中で触覚・温覚・痛覚を通じて食物がどのような状況にあるか判断する
👁️
① 視覚食事環境・食物・スプーンの動きを認知
② 触覚(手指)食器・スプーンを持つ感覚で食事認知
👃
③ 嗅覚においで食物認知・食欲を高める
👂
③ 聴覚声かけ・言葉で食物認知を補助
👅
④ 味覚なじみの味・濃い味で食物認知を助ける
🥄
⑤ 次の一口食べるリズムを遮断しない連続した介助
 

① 視覚情報五感をフル活用する

視覚は食べる場面で最も大切な感覚です。重度認知症の方は覚醒していても常時閉眼したままで過ごしているかもしれません。食事中であること、何を食べようとしているのか、スプーンがどのように口に向かってきているのかなどを目で見て認知することは安全に食べるための第一歩です。

👁 開眼補助のポイント

自分で開眼しない場合は、もしかしたら開眼しようとしているけれども失行症状でできていないのかもしれません。ケア提供者の手でやさしく開眼を補助することが効果的な場合があります。

また、過度のリクライニング位は視覚情報の遮断につながることがあります。現状を把握できない状況で突然スプーンが口唇に当たったり口腔内に入ってきたとしたら、健常者でも食事のリズムを崩してしまいます。リクライニングが必要な方への視覚情報入力には、見せる意識を高くもち介助を行うべきでしょう。


 

② 手指の知覚五感をフル活用する

視覚についで食事場面の把握をしやすい感覚は、手指の感覚です。食べようとしている料理の入った食器を持つ、または食器に手を添える、スプーンを持つなどして手指の知覚を活用しましょう。

✋ 手指知覚がもたらす効果

食器を持つ知覚は、どのようなお碗に入った料理なのか、冷たいのか温かいのか、たくさん残っているのか少ないのかという感覚を脳に伝えます。

スプーンを持つ手からの知覚は、食べ物をどのようにすくったのか、今スプーンは口の近くに向かってきているのかという情報の元になります。

手指を動かす機能が少しでもあるならば、この知覚を活用することで誤嚥リスクを減らしたり、食事拒否や注意散漫症状を軽減したりできると考えられます。


 

③ においと聴覚入力五感をフル活用する

嗅覚や聴覚も食事中の状況把握や食べる意欲にかかわる要素です。認知症の方のなかには嗅覚や聴覚の機能も衰えてきている方が多くいます。しかし、においや音を全く検知できなくなっているのではなく、感度に支障をきたしているという場合がほとんどです。感度に問題があるならば、それなりの対策を講じればよいのです。

👃 嗅覚活用のポイント

対象の食物を鼻に近づけることで、においを感じやすくなります。スプーンを近づけるだけでは、においを十分に感じることはできないかもしれません。できれば食器ごと鼻に近づけてにおいを感じてもらうのがよいでしょう。

👂 聴覚活用のポイント

どのような料理や味のものを口に運ぼうとしているのかを言葉で伝える(例:「今が旬の秋鮭ですよ」「きのこのいい香りがしますね」)ことで、聴覚を通じて食物認知を高めることができます。聴力が低下しているのであれば、はっきりと聞きとれるスピードに落として耳元で伝えます。


 

④ 舌と口唇の知覚五感をフル活用する

食物を認知するのは、食物を目で見て口の中に入る前だけではありません。口の中に入った食物の状況を舌や口腔粘膜、口唇の知覚で感じています。認知機能が高度に低下した方のなかには、食物が口の中に入ったことをすぐに察知できない場合があります。

👅 舌背への感覚刺激

スプーンの背面を舌の中央(舌背)に少し押しつけるくらいの感覚刺激が必要かもしれません。口腔底(下顎前歯と舌先端のスペース)に食物を落とし込むような食事介助では、口腔内の食物認知を高めることはできないので、舌背に届くようなスプーン操作に気を配るべきです。

💋 口唇閉鎖の援助

口唇の知覚も口腔内の食物認知に重要です。健常者は必ず口唇でスプーンを挟み、食物をぬぐいとっています。もしスムーズに口唇閉鎖ができないようであれば、ケア提供者の指を患者さんの唇に添えてスプーンの表面をぬぐえるように口唇閉鎖を援助しましょう。


 

⑤ 味覚五感をフル活用する

食べ物の味覚は明らかに食物認知の助けになります。味覚を認知することが困難になってきている場合、工夫が必要です。

🍱 味覚活用のポイント

味の濃いもの、甘みの強いもの
食べなれた味(日本食の出汁や味噌の味)
・人によっては柑橘系の味など

食物認知をしやすいものを提供する工夫が必要です。個人によって食物認知しやすい味が異なっていることがありますので、手を変え品を変えアプローチしてみてください。


 

⑥ 次の一口五感をフル活用する

健常者は食事中に次の一口を準備しながら食べています。食事介助が必要な方にも次の一口を準備している様子を見せながら食事介助するのが理想的です。

🥄 次の一口を見せる効果

食べるリズム(ペース)が遮断されることなく食事が進むことで、嚥下躊躇・嚥下失行とよばれるような口の中に食物をため込む症状の軽減につながる可能性があります。次の一口を見たり感じたりすることで、舌の送り込み運動や口を開けるきっかけになります。

  • 食物認知が途切れない
  • 運動の連動性が保たれる

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#重度認知症#食事介助#食物認知#視覚情報#開眼補助#手指知覚#セルフケア支援#嗅覚#食欲#聴覚#舌背刺激#口唇閉鎖#味覚#なじみの味#嚥下失行#嚥下躊躇#誤嚥リスク

在宅医療を科学する67~オフ症状への治療対応と問題点

#オフ症状#パーキンソン病#ドパミンアゴニスト#MAO-B阻害薬#在宅医療#高齢者ケア#薬物療法#神経内科#レボドパ
 
パーキンソン病の治療において「オフ症状」は患者さんのQOLを大きく損なう重要な問題です。本記事では、オフ症状に対する主な薬物療法とその臨床上の問題点を整理し、特に在宅医療の現場での実践的な視点からまとめました。
ドパミンアゴニストの追加・増量
例:ロピニロール、プラミペキソール、ニュープロパッチなど

貼付剤(ニュープロパッチ)は在宅での安定化に有利です。

経口薬と異なり、血中濃度を安定して維持できるため、飲み忘れや嚥下困難のある患者さんにも適した選択肢です。在宅での管理のしやすさから、訪問診療でも積極的に活用されています。

問題点
  • 幻覚・妄想・眠気・衝動制御障害など副作用が高齢者で強く出やすい
  • 腎機能低下で用量調整が必要(特にプラミペキソール)
MAO-B阻害薬(サフィナミド、セレギリン等)
レボドパの補助療法として使用

レボドパ効果の延長を目的に使用します。

モノアミン酸化酵素B型(MAO-B)を阻害することでドパミンの分解を抑え、レボドパの作用時間を延ばす効果があります。オフ時間の短縮に一定の有効性が示されています。

問題点
  • 高齢者では効果が限定的なこともある
  • 不眠・幻覚などの精神症状が出現する場合あり

まとめ:在宅医療での実践ポイント

貼付剤の活用

ニュープロパッチは血中濃度が安定し、在宅管理のしやすさが高い

高齢者への注意

ドパミン系薬は精神症状・認知機能悪化に特に注意が必要

腎機能評価

プラミペキソールなどは腎機能に応じた用量調整が必須

MAO-B阻害薬

補助療法として有効だが、精神症状リスクと効果のバランスを個別評価

 

誤嚥性肺炎を科学する68~食形態の工夫、リクライニング、頸部回旋といった代償法を用いることがある。デメリットもあるため、十分な評価と観察をしながら進めよう

代償法

リクライニング・頸部回旋による誤嚥リスク軽減の技術

📅 2026年3月28日食事介助 / 代償法
Message
  • 食形態の工夫、リクライニング、頸部回旋といった代償法を用いることがある。デメリットもあるため、十分な評価と観察をしながら進めよう

摂食嚥下障害の程度や症状によって、代償法といわれる手法を要することがあります。代償法には食形態の調整を含みますが、食形態の工夫については第6章「3つの工夫 ①食形態」(70〜79ページ)で解説しましたので、本項では食形態の工夫以外の代償法について説明します。

 

リクライニング

背もたれを使い体幹を背側に傾けることで、食塊や水分が咽頭の背側(後側)寄りを通過しやすくする手法です。体幹後傾位とよぶこともあります。

🧠 メカニズム

気道は体幹の腹側(前側)に位置していますので、飲み込むものを背側(後側)に移動させることができれば誤嚥するリスクを軽減できるという効果を期待して実施します。咽頭残留が多いような摂食嚥下障害でリクライニングを用いると、残留した食塊や水分が嚥下後に喉頭に侵入しにくくなります。嚥下反射惹起が高度に遅延しているような場合、嚥下前に誤嚥することを軽減することも期待できます。

 
リクライニングすることで食物は重力にしたがって咽頭の背側をとおりやすい
30°〜60°(前側)(後側)食物重力

図9-13 リクライニング(30°〜60°)―咀嚼・嚥下・食物認知にデメリットとなる場合もあるので、益と害を勘案する

角度設定 主な対象・効果 注意点
30° 咽頭残留が多い・嚥下反射遅延が高度な方 食物認知・食欲低下のリスク大
45° 中等度の嚥下障害全般 体幹・頸部筋緊張増大に注意
60° 軽度の誤嚥リスクがある方 健常者でも食べにくい角度
⚠ リクライニングのデメリット

なんでもリクライニングすればよいというわけではありません。筋肉量や筋力が低下した摂食嚥下障害者では、リクライニングすることで頸部や体幹の筋緊張充進、舌根沈下、頸部過伸展となる場合があります。また、患者さんの上肢動作能力を奪ってしまうことにもつながる場合や、視野に食器が入りにくくなり食物認知を妨げることがありますので、設定したゴールと咽頭残留の程度などを勘案して、リクライニングが必要か常に検討すべきでしょう。


 

頸部回旋

リクライニングは食塊や水分をできるだけ咽頭の背側寄りを通過させることを目的とした手法でしたが、頸部回旋は、左右どちらかの咽頭を通過させることを目的とした手技です。

🔄 メカニズム

頭部を左右に回旋すると回旋側の中・下咽頭腔は虚脱し、嚥下すると食塊や水分は右側の咽頭を通過します。
頭部を右向きに回旋すると左側の咽頭を通過します。

つまり、患側に頸部を回旋させることで、健側(機能が保たれている側)の咽頭を通過させる手法です。

📋 頸部回旋を検討すべき場合
  • 片側の咽頭収縮機能低下
  • 片側の上部食道括約筋開大不全
  • 嚥下造影検査の正面視で、左右どちらかを優位に食塊が通過し、非優位側に残留が多い所見
  • 嚥下内視鏡検査で、片側性に喉頭侵入を伴う咽頭残留が認められる所見がある場合
| 頸部回旋の原理(患側=左側の例)
正面患側(虚脱)健側(通過)患側へ回旋食物の流れ患側(左)に頭を回旋→ 患側咽頭が虚脱→ 健側(右)咽頭を通過→ 誤嚥・残留リスク↓

図9-14 頸部回旋 ―患側に頸部を回旋する(この場合は左側が患側)。頸部回旋時には片側の咽頭だけを食物が通過する

⚠ 頸部回旋のデメリット

ただし、機能がある程度保たれているにもかかわらず、頸部回旋で一側嚥下を続けることは、患者さんにとって機能的デメリットになる可能性があります。健側の咽頭を有効活用する一方で、常時使用することで健側への過負荷が生じうることも念頭に置いてください。


 

代償法を用いる際の原則

📌 実践の鉄則

代償法(リクライニング・頸部回旋)には明確な効果が期待できる反面、必ずデメリットも存在します。

① 十分な評価(嚥下造影・嚥下内視鏡など)に基づいて適応を判断する
② 実施中は常に観察を続け、益と害を勘案する
③ 必要がなくなれば速やかに中止・変更を検討する
④ 担当医・言語聴覚士など多職種と連携して進める

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#代償法#リクライニング#体幹後傾位#頸部回旋#咽頭残留#嚥下反射遅延#健側活用#片側咽頭収縮低下#食事介助技術#摂食嚥下障害#誤嚥リスク#誤嚥性肺炎#嚥下造影#嚥下内視鏡#多職種連携#言語聴覚士

在宅医療を科学する66~オフ症状への治療対応と問題点——在宅でできることを考える

パーキンソン病オフ症状レボドパ在宅医療服薬管理神経内科高齢者ケア訪問看護

オフ症状とは

内服薬の効果が切れ、動作緩慢・すくみ足・筋固縮・振戦・嚥下低下・不随意運動の減弱などが出現する状態のことをいいます。パーキンソン病の長期治療において避けて通れない課題のひとつです。

パーキンソン病の在宅療養を続けるなかで、「薬が切れる時間帯に体が動かない」というご家族やご本人の声は少なくありません。このオフ症状に対して、在宅でできる治療の工夫と、同時に生じやすい課題についてまとめます。

① レボドパ製剤の調整
投与回数の増加(頻回少量投与)

在宅で最も現実的な対応です。L-DOPAの血中濃度の谷を減らすことで、オフの時間帯を短縮できます。1日の投与回数を増やし、1回量を少なめに調整することが基本的な方針となります。

徐放製剤の併用(例:レボドパCR)

夜間のオフに有効な場合があります。就寝前に徐放製剤を加えることで、朝の動き出しが改善される例もあります。即放性製剤との使い分けがポイントです。

時間遵守の徹底

食事タイミング(タンパク制限など)も含めた服薬スケジュールの管理が重要です。訪問看護・家族のサポートを組み合わせることで、血中濃度を安定させることができます。

問題点:治療を難しくする要因
多剤・頻回化で服薬負担が増える——一日に何度も服薬することは、患者・介護者双方の負担になります。
高齢者では飲み忘れが増え、血中濃度が不安定になりやすい——記録や声かけの仕組みが必要です。
吸収の個体差・食事の影響が大きい——同じ量・タイミングでも効果にばらつきが生じることがあります。
オフ症状への対応は「調整の連続」です。完璧なコントロールは難しくても、訪問診療・訪問看護・ご家族が連携することで、日常の安定を少しずつ積み上げることができます。気になる症状の変化があれば、お気軽にご相談ください。

 

誤嚥性肺炎を科学する67~食事介助時はセルフケア支援という視点ももって、対象者ができることの維持ならびに向上を目指そう

セルフケア支援

「できることの維持・向上」を意識した食事介助のかたち

📅 2026年3月28日食事介助 / セルフケア
Message
  • 食事介助時はセルフケア支援という視点ももって、対象者ができることの維持ならびに向上を目指そう

食事介助の一番の目的は摂食量を確保することですが、摂食量を確保することだけを唯一の目的としてはいけません。

患者さん自身ができることを維持し、場合によってはその能力を向上させることも考えた食事介助が求められます。

高齢者の場合、運動・動作機会が奪われると身体機能はすぐに落ちてしまいます。全面的に食事介助をしてしまうと、これまでやっていたことやできる動作を行う機会が失われてしまいます。そうではなく、これまでやっていたことは続けられるように支援しながら食事介助をすることが大事です。
 

スプーン・食器を持つ

完璧に食具を自分で持てない状態であっても、少なからず持つ能力があるならば、スプーンや食器を持ってもらいましょう。

✅ 持つことのメリット

身体機能を維持できるだけでなく、スプーンや食器を持つことは食事中であるという環境認知(メタ認知)や、どのような食物を食べようとしているかといった食物認知、どのタイミングで捕食するのかといった現状把握にも有用です。つまり、食欲や安全な摂食嚥下運動にも関連してきます。

十分な握力や手指動作の巧緻性がない場合には、患者さんが食具を持つ手を介助します。

 


| 食具を持つ手の介助
手背側から包み込む
スプーンの柄をケア提供者が直接把持して介助すると、患者さんの手からスプーンが離れてしまいやすくなります。

手背側から患者さんの手全体をケア提供者の手で包み込んで介助すると食具が離れることなく、有効なセルフケア支援が可能です。お皿、コップを持つ手も同様に介助します。

 食具を持つ手の介助(概念図)


 

食事中の姿勢

セルフケア支援の観点から考えると、食事中の姿勢にも注目するべきです。

🪑 椅子での食事が基本

自分で座位をとれる(=椅子に座れる)方は、椅子で食事をするようにしましょう。背もたれのリクライニングが必要かどうかはその方の咽頭機能次第ですので、リクライニング車いすを「一律に使用する」ことは避けたほうがよいです。

食事姿勢 適否 理由・注意点
椅子(自力座位可能な方) 推奨 セルフケア支援・誤嚥リスク軽減に最適
リクライニング車いす 個別判断 咽頭機能次第。一律使用は避ける
ベッド上(車いす座位可能な方) 非推奨 下肢が臀部と同高に。腹圧上昇・体幹バランス不良
⚠ ベッド上食事のデメリット

車いすに座ることができるのにもかかわらず、ベッド上で食事をするのにもデメリットがあります。ベッド上では下肢が臀部と同じ高さになってしまいますし、場合によっては膝が臍より高く上がる方もいるかもしれませんので、腹圧が上がりやすくなります。さらに、ベッド上だと足底を地面につけないので、座り直しが難しい、体幹バランスがとりにくいといったこともデメリットとなります。


 

口腔ケア

食前や食後に行う口腔ケア時もセルフケア支援を意識してください。手に持ってもらった歯ブラシやスポンジブラシを患者さん自身、または介助を添えて口腔清掃に役立てます

🪥
患者さん自身で行う
歯ブラシ・スポンジブラシを手に持ってもらい、自分でできる範囲で口腔清掃を行う
🤝
介助を添えて行う
外側からケア提供者が支援。手背側から包み込む介助法(食具と同様)を活用する
💡 仕上げ介助のポイント

なかには、十分な清掃ができない場合もあるかもしれません。セルフケア支援をしたのちに、ケア提供者が仕上げとして全面的な口腔ケアを行うとよいでしょう。患者さん自身の能力を最大限引き出した上で、不足部分を補うというアプローチが重要です。

 

セルフケア支援の実践ステップ

1
できることを把握する
握力・巧緻性・座位保持能力・口腔清掃能力などを個別に評価する
2
食具・食器を持ってもらう
少しでも持つ能力があれば積極的に持参。手背側から包み込んで介助する
3
姿勢を整える
椅子座位を基本に。ベッド上食事は可能な限り避ける
4
口腔ケアでもセルフ優先
まず患者さん自身に行ってもらい、不足部分をケア提供者が仕上げる

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#セルフケア支援#食事介助#できることの維持#食具把持介助#手背側介助#環境認知#食事中の姿勢#座位保持#リクライニング#腹圧#体幹バランス#口腔ケア#歯ブラシ#誤嚥リスク#高齢者ケア#ADL維持#多職種連携

在宅医療を科学する65~治療後期になるほど 治療域が狭くなる

# パーキンソン病# 神経疾患# ドパミン療法# 在宅医療# JAMA 2020

治療後期になるほど
治療域が狭くなる

パーキンソン病の進行とともに、ドパミン濃度の「ちょうど良い範囲」がどんどん狭まっていく——その理由と対策を、わかりやすく解説します。

📅 2025年👨‍⚕️ さくら在宅クリニック 編集部📖 参考:JAMA. 2020;323(6):548-560


パーキンソン病とドパミンの関係

パーキンソン病(PD)は、脳内のドパミン産生ニューロンが徐々に失われていく神経変性疾患です。ドパミンは運動の調節に不可欠な神経伝達物質であり、その不足が振戦・筋固縮・無動といった運動症状を引き起こします。

治療の基本はレボドパ(L-DOPA)によるドパミン補充ですが、病気の進行とともに、ドパミン濃度が「効き過ぎず・効かな過ぎず」という治療域(Therapeutic Window)がどんどん狭くなっていきます。これが在宅医療における管理の核心的な課題です。

病期ごとのドパミン動態の変化

Early Stage
早期 — 安定した治療域

レボドパへの反応は良好。残存ドパミンニューロンが「バッファー」となり、血中濃度の変動を平滑化。

  • 治療域が広く、管理しやすい
  • Off 時間はほぼなし
  • ジスキネジアも起こりにくい
Middle Stage
中期 — 揺らぐ安定性

ニューロン減少が進み、血中レボドパ濃度の変動が直接的に症状へ影響。ウェアリングオフが出現し始める。

  • 治療域がやや狭化
  • ウェアリングオフ(効果切れ)が出現
  • 用量調整が必要になる
Advanced Stage
後期 — 極めて狭い治療域

治療域は著しく狭小化。少し低ければ Off 期(治療無効期)、少し高ければジスキネジアが出現する綱渡りの管理。

  • Off 期(治療無効期)が頻発
  • ジスキネジア(不随意運動)が出現
  • 薬物療法の限界に近づく

ドパミン濃度と治療域のイメージ

📊 治療域の経時変化(概念図)

早期
▓▓▓▓▓▓▓▓ 治療域(広い) ▓▓▓▓▓▓▓▓
中期
▓▓▓▓ 治療域(中程度) ▓▓▓▓
後期
▓▓ 治療域(狭い) ▓▓
Off 期
 
 
 
 
治療域(Therapeutic Window)
 
Off 期(治療無効期)
 
ジスキネジア

重要な概念を理解する

Off 期(治療無効期)とは

レボドパの血中濃度が治療域を下回り、パーキンソン症状が強く出てしまう時間帯。後期では食事前や服薬前に顕著になる。

🌀

ジスキネジアとは

ドパミン濃度が治療域を上回った時に起こる不随意運動(体がくねる・ねじれる動き)。後期では高濃度時に頻発する。

📉

ウェアリングオフ現象

服薬後の効果持続時間が短くなる現象。中期以降に顕著になり、「効いている時間」と「効いていない時間」が交互に現れる。

🧠

ベースライン・ドパミン

薬剤非依存の内因性ドパミンレベル。病期が進むほど低下し、レボドパへの依存度がより高くなる。

後期パーキンソン病の薬物療法的対策

対策
治療域の狭小化への 3 つのアプローチ
  • L-DOPA の少量頻回投与

    1 回あたりの投与量を減らし、投与回数を増やすことで、血中濃度の急激な上下を抑制。ピーク時の過剰とトラフ時の不足を同時に防ぐ。

  • ドパミンアゴニストによるベースラインの底上げ

    ドパミン受容体を直接刺激する薬剤(プラミペキソール、ロピニロールなど)を併用し、レボドパの効果が切れた時でも最低限のドパミン活性を維持する。

  • ドパミン系以外の薬剤の投与

    MAO-B 阻害薬(ラサギリンなど)でドパミンの分解を抑制、または COMT 阻害薬(エンタカポンなど)でレボドパの代謝を遅らせ、治療域内の時間を延長する。

参考文献

本記事は以下の文献をもとに作成しています。詳細な臨床的判断は専門医にご相談ください。

📚 PRIMARY REFERENCE
Bloem BR, Okun MS, Klein C. Parkinson's disease. JAMA. 2020;323(6):548-560. doi:10.1001/jama.2019.22360

誤嚥性肺炎を科学する66~摂食嚥下機能によい影響をもたらす薬剤もある。ACE阻害薬やドパミン産生亢進薬は、嚥下反射惹起・喀出の感度にかかわるサブスタンスPの濃度を高める

よい影響をもたらす
可能性のある薬

サブスタンスP・ACE阻害薬・ドパミン産生亢進薬と摂食嚥下機能

📅 2026年3月28日薬剤管理 / 嚥下ケア
Message
  • 摂食嚥下機能によい影響をもたらす薬剤もある。ACE阻害薬やドパミン産生亢進薬は、嚥下反射惹起・喀出の感度にかかわるサブスタンスPの濃度を高める

生成された画像:摂食と咳反射に影響を与える薬


薬剤の副作用には、悪いものだけではなく、よい影響をもたらす可能性がある薬もあります。前項(90〜93ページ)まで、摂食嚥下機能に悪影響を及ぼす可能性のある薬剤について述べました。この項では副作用が摂食嚥下機能にとってよい面をもつ薬剤を紹介します。

 

サブスタンスPの役割

誤嚥性肺炎の予防や発症に関連する神経伝達物質(神経興奮に関連する物質)として、サブスタンスPというペプチド(アミノ酸が連結した物質)が注目されています。サブスタンスPは中枢神経・末梢神経の終末に存在していて、感覚神経の感度調整に役立っています。

中枢神経(脳幹)末梢神経終末(咽頭・喉頭・気道)サブスタンスP嚥下反射惹起喀出(むせ)感度
📌 摂食嚥下との関係:
咽頭のサブスタンスPは嚥下反射惹起、喉頭・気道のサブスタンスPは誤嚥したものの喀出(むせ)の感度とかかわりがあります。

図8-3 サブスタンスP(概念図)


 

ACE 阻害薬

高血圧治療薬の一種にACE阻害薬(アンギオテンシン変換酵素阻害薬)というものがあります。これは血管収縮抑制効果が主目的の薬ですが、サブスタンスPを増加させるという副作用をもっています。

💊 副作用メカニズム

ACE阻害薬の副作用の1つとして、空咳が増えることが知られています。これは喉頭・気道でのサブスタンスP濃度が高くなり、咳嗽反射感度が高くなった結果であると考えられます。

人を対象としたいくつかの研究で、ACE阻害薬を投与していると肺炎発症が予防できたというエビデンスが報告されていることから、誤嚥性肺炎の予防や治療に役立つ可能性が示唆されています。

✅ 実践のポイント

誤嚥性肺炎を繰り返している方で何らかの降圧剤をすでに服用中であれば、ACE阻害薬へ変更するのは1つの選択肢かもしれません。担当医と相談してみましょう。


 

ドパミン産生亢進薬

ドパミン作動性神経の刺激でサブスタンスP濃度が高まりやすいことがわかっています。パーキンソン病の治療薬として用いられることがあるアマンタジン(シンメトレル®)は神経終末でドパミン放出を助長しますので、結果的に末梢(咽頭・喉頭・気管)でのサブスタンスP濃度が高くなると考えられています。

🌿 葉酸補充も検討

葉酸欠乏はドパミン産生減少の原因になりますので、葉酸欠乏があれば補充を検討します。


 

その他の薬剤

誤嚥予防や摂食嚥下運動にとってよい影響がある薬剤は、前述のほかにいくつか報告されていますので、表にまとめました(表8-3)。

表 8-3誤嚥予防や摂食嚥下運動によい影響があるかもしれない薬剤
  • ACE 阻害薬
  • アマンタジン(シンメトレル®)
  • シロスタゾール(プレタール®)
  • 半夏厚朴湯
  • カプサイシン
  • メンソール
  • 黒コショウ
⚠ 重要なポイント

薬剤変更や休薬だけで誤嚥性肺炎が必ずしも予防できるものではないという考えをもつことです。「ほかに何か工夫ができるとしたら薬剤調整だ」というくらいの理解でよいと思います。多くの疾病は薬の選択が治療の主体ですが、誤嚥性肺炎の予防と治療においては、薬の選択は1つのオプションにすぎないということです。

COLUMN
摂食嚥下機能評価

飲み込む機能を評価することは、食支援を展開するうえで、ならびに、誤嚥性肺炎の予防や治療を行ううえでも、とても重要です。最も正確な機能評価法は放射線を用いて行う嚥下造影検査ですが、必ずしも嚥下造影検査を行わないといけないわけではありません。ベッドサイドで行う簡易評価法があります。

💧 水飲みテスト

大がかりな準備なくできる簡易評価法として有名です。3mLの水を飲んでもらい、嚥下運動が惹起されるか、むせがあるか、呼吸状態が変化するか、声の変化があるかなどを観察します。

🧪 V-VST(世界的に最も精度が高い水飲みテスト)

volume-viscosity swallow test:ネクター状→水→プリン状の3段階と、飲み込む量を3段階に調整して安全に飲み込めていないサインがあるか、効果的に飲み込めていないサインがあるかを評価します。V-VSTを行うのが専門職でなくても信頼性が高いことが証明されています。

1) Clavé P, Arreola V, Romea M et al : Accuracy of the volume-viscosity swallow test for clinical screening of oropharyngeal dysphagia and aspiration. Clinical Nutrition 27(6) : 806-815, 2008.
不顕性誤嚥の評価法

「摂食嚥下機能を評価すること」と「不顕性誤嚥(むせのない誤嚥)を評価すること」は、少し意味合いが異なります。不顕性誤嚥の評価は誤嚥性肺炎発症リスクに直結するものであり、摂食嚥下障害の評価はどうやって(how to eat)・何を食べるか(what to eat)、つまり食支援の進め方に直結するものであると考えられます。

不顕性誤嚥の評価法は、現在のところ2つの有力な検査法があります。

① S-SPT(簡易嚥下誘発試験)

simple swallowing provocation test:とても細いチューブを鼻から咽頭に挿入し、チューブから水をわずかに注入し、嚥下運動が惹起されるかを見るものです。

② 水飲みテスト+クエン酸咳テスト

水飲みテストで異常を呈し、かつ1%クエン酸生食水吸入で咳誘発が遅延している場合、不顕性誤嚥が高度であると判定します。

1) Teramoto S, Sudo E, Matsuse T et al. Impaired swallowing reflex in patients with obstructive sleep apnea syndrome. Chest 116(1) : 17-21, 1999.
2) Wakasugi Y, Tohara H, Hattori F et al. Screening test for silent aspiration at the bedside. Dysphagia 23(4) : 364-370, 2008.

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