在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

攻めの栄養療法を科学する⑯~KTバランスチャートの信頼性と妥当性

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エビデンスと臨床現場での実感 ―

エビデンスからみたKTバランスチャート

Koyama らは、高齢者肺炎において入院後早期から食支援を開始することで、入院期間の短縮および経口摂取率の改善が得られることを示しました¹)。
この結果は、「食支援は後回しにするものではなく、治療と並行して早期に取り組むべき介入である」ことを示唆しています。

一方で、食支援を効果的に行うためには、
単なる経験や感覚ではなく、

  • 対象者の丁寧な観察

  • 食支援の実践

  • そこから得られる評価(アセスメント)

  • 支援方法の検討と改善

という構造化されたプロセスが必要です。

Maeda らは、この点に着目し、
KTバランスチャート(英語名:KT index) を評価ツールとして検証し、
その信頼性(再現性)および妥当性を明らかにしました²)。

特筆すべき点は、
信頼性の検討を「介護施設スタッフ」による評価で行ったことです。
これは、KTバランスチャートが専門職に限らず、
現場で実際に使われるツールであることを前提に設計されていることを裏づけています。


リハビリテーションアウトカムへの影響

KTバランスチャートを回復期リハビリテーション病棟へ導入した研究では、

  • FIM利得

  • FIM効率

  • 実績指数

のいずれもが有意に改善しました³)。

さらに、

も導入前と比較して有意に増加しており、
入院期間短縮の可能性も示唆されています³)。

これらの結果は、
KTバランスチャートが単なる評価表ではなく、
栄養・摂食嚥下・リハビリをつなぐ実践ツールであることを示しています。


KTバランスチャートの使用例

― 熊本リハビリテーション病院の場合 ―

当院では、
脳卒中後の嚥下障害により経腸栄養を要する患者を中心に
KTバランスチャートを活用しています。

● 運用方法

  • 管理:言語聴覚士が中心となって実施

  • 経腸栄養〜3食経口摂取までは 毎週入力

  • 経口摂取が安定後は 毎月入力

● カンファレンスでの活用

毎週火曜日に実施している摂食嚥下カンファレンスでは、
電子カルテ上のレーダーチャートを用いて、

  • 摂食嚥下機能の変化

  • 実施しているアプローチ

  • 今後の予後予測

について多職種でディスカッションを行っています。


■ 多職種による評価分担(当院の例)

KTバランスチャート項目 担当職種
① 食べる意欲 ② 全身状態 ③ 呼吸状態 看護師
④ 口腔状態 歯科衛生士
⑤ 認知機能(食事中) ⑥ 咀嚼・送り込み ⑦ 嚥下 言語聴覚士
⑧ 姿勢・耐久性 理学療法士
⑨ 食事動作 ⑩ 活動 作業療法士
⑪ 摂食状況レベル ⑫ 食物形態 ⑬ 栄養 管理栄養士

■ 実際に使って感じるKTバランスチャートの強み

筆者自身が強く感じている利点は、
患者の強みと弱みが一目で把握できることです。

例えば、
「他の項目は改善しているが、栄養状態だけが改善していない
といった状況も、レーダーチャート上では明確に可視化されます。

これにより、

  • 再栄養アセスメントの必要性

  • 栄養計画の修正

  • 介入優先度の再検討

へと自然につなげることが可能になります。

また、KTバランスチャートを共通基盤としてディスカッションを行うことで、

  • 情報共有の質が向上

  • 多職種間の相互理解が深化

  • 共通目標が明確化

  • 訓練進捗に応じた栄養調整が可能

  • 今後想定される問題への事前対応

といった効果を実感しています。


■ まとめ

KTバランスチャートは、
信頼性・妥当性が検証された評価ツールであり、
栄養・摂食嚥下・リハビリをつなぐ実践的な共通言語です。

評価を「記録」で終わらせず、
行動につなげるためのツールとして活用することで、
「口から食べる」をあきらめない医療・ケアが現実のものになります。


▼ 参考文献

  1. Koyama et al.

  2. Maeda et al.

  3. 回復期リハ病棟におけるKTバランスチャート導入研究

(※正式表記はブログ注釈・参考文献欄に記載推奨)


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