在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

在宅医療における認知症について15~前頭側頭葉変性症(FTLD)とは?

ree前頭側頭葉変性症(FTLD: Fronto-Temporal Lobar Degeneration)は、前頭葉や側頭葉が徐々に萎縮することで起こる認知症の総称です。アルツハイマー病に次いで多い神経変性型認知症で、症状やタイプは多様です。


主なタイプ(表16)

  1. (行動異常型)前頭側頭型認知症
    前頭葉の機能が低下し、感情や行動のコントロールができなくなります。

    • 無関心(自発性低下)

    • 脱抑制(欲求を抑えられない)

    • 時刻表のように同じ行動を繰り返す

    • 模倣行動・反響言語など周囲に反応しやすくなる

  2. 意味性認知症
    側頭葉の障害で「言葉の意味」がわからなくなります。

    • 単語や物の名前が出てこない

    • 写真や物はわかっても名称が言えない

    • 信号や標識の意味が理解できず、運転トラブルの危険も

  3. 進行性非流暢性失語症
    話すことが困難になり、言葉が途切れ途切れになったり、発音や文法が崩れます。


アルツハイマー病との違い(表17)

項目 前頭側頭葉変性症 アルツハイマー
神経病理 蓄積タンパクの種類が多様 アミロイド+リン酸化タウ
行動 他人の目を気にせず行動 家族や場面で行動変化
記憶 言葉の意味理解が障害されやすい 直近の出来事が思い出せない

病気の進行と予後

  • アルツハイマー病よりも進行が早い傾向
    (MMSE低下速度:FTLDは年間6.7点、ADは2.3点)

  • 平均生存期間は 8〜9年(ADは約12年)

  • 運動ニューロン疾患を伴う場合は予後がさらに短縮


治療について

残念ながら根本的な治療法は未確立です。

  • 行動障害には抗うつ薬(例:トラゾドン)が有効な場合あり

  • 一方で、認知症薬(ドネペジル等)はむしろ症状を悪化させる可能性があるため推奨されません


注意すべきポイント

  • 初期から社会的ルール違反(窃盗・交通違反・性的行動など)がみられることがあり、認知症の初期症状として見逃されやすい

  • 言語障害や意味理解の障害は日常生活や安全運転に直結するため、早期の環境調整が必要


まとめ
前頭側頭葉変性症は、「人格や行動の変化」「言葉の意味がわからない」「話しにくい」など、タイプによって症状が大きく異なります。アルツハイマー病とは原因や症状の出方が違うため、正しい診断と対応が重要です。周囲の理解と環境の工夫が、患者さんの生活の質を守る鍵となります。