言葉が出なくなり、体も動かなくなる
— FTD-ALSという「二つの難病」の重なり
「言葉が出にくい」という訴えから始まり、やがて呼吸機能まで失われた70歳代の女性。前頭側頭型認知症(FTD)と筋萎縮性側索硬化症(ALS)が同時に進行する「FTD-ALS」という病態は、ALSとFTDが同一の疾患スペクトラム上にあることを示しています。在宅での終末期を支えるためにも、この病態を知ることが重要です。
症例の概要
患者は70歳代前半の女性。10カ月前から言葉が出にくく滑舌が悪化。3カ月前から自転車で転倒するようになり、長年続けていた新聞配達を辞めた。自ら神経疾患の精査を希望して受診。
言語症状
発語失行・喚語困難・統語理解障害・書字での拗音・長音符の脱落
神経学的所見
右上下肢の軽度麻痺・筋強剛・腱反射亢進・Babinski陽性・舌の萎縮
画像所見
左側頭葉前方部の著明な萎縮(初診時〜8カ月で拡大)
経過・転帰
初診後8カ月:胃瘻・気管切開
初診後1年8カ月:永眠(TDP-43陽性確認)
初診後1年8カ月:永眠(TDP-43陽性確認)
FTDとALSは同一疾患スペクトラム
ALS
運動ニューロン障害が主体
運動ニューロン障害が主体
⟷
FTD-ALS
TDP-43病理で連続
TDP-43病理で連続
⟷
FTD
前頭側頭葉変性が主体
前頭側頭葉変性が主体
2006年にALS症例の下位運動ニューロンとFTD症例の大脳皮質に認められるユビキチン陽性封入体がいずれもTDP-43蛋白によって構成されていることが発見され、ALSとFTDが病理学的に同一の疾患スペクトラムを形成していると考えられるようになりました。
5%
ALS患者におけるFTD併存率(日本)
10%
FTD患者における運動ニューロン疾患併存率(FTLD-J)
2.98
FTD併存によるALS生存期間短縮(ハザード比)
本症例の経過(全2年6カ月)
初診時
発語失行・喚語困難・統語理解障害・右上下肢の軽度麻痺。PPA(分類不能)+ALSと診断。
初診後6〜7カ月
頸部筋力低下による首下がり。垂直性核上性注視麻痺・舌の萎縮出現。右上下肢にも全麻痺。
初診後8カ月
随意的な嚥下・発声・歩行が不能に。内視鏡的胃瘻造設術(PEG)・気管切開術。経管栄養と定期的な痰の吸引開始。
初診後1年8カ月
人工呼吸管理による延命措置は希望されず永眠。剖検でTDP-43陽性神経細胞内封入体を広範に確認。
FTD-ALSと失語(PPA)の関係
FTD-ALSに合併する失語症状はPPA(原発性進行性失語症)として現れることが多く、nfvPPA(非流暢/失文法型)またはsvPPA(意味型)の診断基準を満たすことがあります。
nfvPPA(非流暢/失文法型)
non-fluent/agrammatic variant PPA
- 発語失行(努力性・試行錯誤)
- 統語の理解障害
- 音の途切れ・発語開始困難
- プロソディーの障害
svPPA(意味型)
semantic variant PPA
- 単語の理解障害
- 低親密度語での呼称・理解の低下
- 流暢な発話は保たれやすい
FTD-ALS症例の32例を対象とした病理学的研究では、31%がPPAの診断基準を満たす言語症状を呈していました。nfvPPAやsvPPAの特徴を持つ患者が急速な運動障害を伴う場合、FTD-ALSへの移行を念頭に置く必要があります。
在宅での急速な進行に備えた早期準備が重要
FTD-ALSはFTDの併存がALSの予後不良因子(ハザード比2.98)となります。嚥下・呼吸機能の低下が急速に進む可能性があるため、早期からの胃瘻・呼吸管理・終末期の意思決定支援を患者・家族と話し合うことが在宅医療の重要な役割です。在宅医療での関わり方
FTD-ALS在宅ケアのポイント
- 言語症状の進行と運動障害の両面をモニタリングする
- 嚥下機能評価(ST連携)を定期的に行い、PEGの適切なタイミングを検討する
- 呼吸機能低下(非侵襲的陽圧換気NPPV→気管切開)について意思決定支援を早期から行う
- 認知・行動症状(行動障害型FTDの場合は脱抑制・アパシー)への対応
- コミュニケーション補助機器(AAC)の早期導入を検討する
- 指定難病(ALS・FTD)としての医療費助成の申請を支援する
CLINICAL TIPS
- nfvPPAやsvPPAに急速な運動障害が加わる場合 → FTD-ALSへの移行を疑う
- 言語優位半球(多くは左)の側頭葉前方部萎縮がみられるPPAは要注意
- ALSへのFTD併存は生存期間を大幅に短縮する(ハザード比2.98)
- FTD-ALSは人工呼吸管理なしでは生存期間が非常に短い — 早期の意思決定支援が必須
- TDP-43病理がALS・FTD双方の共通基盤 — 今後の治療標的として研究が進む