薬剤誘発性
Drug-Induced Cognitive Impairment
ベンゾジアゼピン系薬剤による認知機能障害・離脱症状・異常行動および脳波異常
70歳前半の右利き男性。現役の会社社長。1年前から職場で同僚に同じことを何度も聞くようになった。半年前から不眠悪化・食事摂取量減少・意欲低下で出勤しなくなった。家族に言われたことや自分が言ったことを頻繁に忘れるようになり、4カ月前から妻が内服薬を管理するようになった。その後夜間に冷蔵庫や戸棚にある食べ物を探して口にするようになり(night eating)、体重が急増。
意識清明。自分から話すことが全くなく、質問に短く答えるのみ。神経学的診察では応答の小声の傾向があったが、大きく声を出すように指示すると十分に大きな声が出せた。明らかな異常所見なし。
全般性注意障害と近時記憶の再生障害(再認は良好)に加えて、概念化・語想起・反応抑制能力の低下といった前頭葉関連機能もしくは遂行機能の障害を疑われる所見が認められた。言語機能(呼称・復唱・理解・書字・読字)に明らかな障害なし。視空間認知障害・失行も認められなかった。
3単語遅延再生1/3
(再認は2問とも正答)
反応抑制1/3
1点失点のみ
アパシーと全般性注意障害を主とした認知機能障害が緩徐に進行しており、食行動の異常も認められたことから、行動障害型前頭側頭型認知症(bvFTD)が鑑別に挙がる。
血液検査(血糖・ビタミンB₁B₁₂・葉酸・アンモニア・肝腎甲状腺機能・梅毒・膠原病関連)・髄液検査:異常所見なし。
診断:薬剤誘発性(ベンゾジアゼピン系薬剤)による認知機能障害
ベンゾジアゼピン系薬剤はγ-アミノ酪酸(GABA)の神経伝達の亢進に起因する催眠・鎮静作用のみならず抗コリン作用も有しており、認知機能障害の原因となる代表的薬剤の1つである。
| 作用時間分類 | 代表的薬剤 | 離脱症状リスク | 認知機能障害リスク |
|---|---|---|---|
| 超短時間〜短時間作用型 | トリアゾラム、ブロチゾラムなど | ▲高頻度かつ早期 | 中程度 |
| 中間〜長時間作用型 | ブロマゼパム(中間)、クアゼパム(長時間) | ▽比較的出現しにくい | ▲有害事象の頻度が多い(認知機能障害リスク↑) |
長期間内服すると身体依存が形成されやすく、減量や中止の際に離脱症状が出現する。本症例ではブロマゼパムとクアゼパムが超短時間〜短時間作用型ではなく中間〜長時間作用型であったため、漸減中の離脱症状の出現なく経過した。
高齢者における薬剤誘発性の認知機能障害やせん妄は抗コリン作用を有する薬剤の使用で出現することが非常に多い。以下のカテゴリが特に高齢者で頻繁に使用されるため注意が必要である。
認知機能障害を呈している高齢者の診療では抗コリン作用を持つ薬剤を内服していないかどうか必ず確認すること。