在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

攻めの栄養療法を科学する28~侵襲(しんしゅう)と栄養療法

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― 高度侵襲下では「攻めの栄養療法」は禁忌 ―

■ 侵襲とは何か

侵襲とは、

  • 重症感染症

  • 大手術

  • 多発外傷

  • 熱傷

など、生体を傷害し、生体恒常性(ホメオスタシス)を破綻させる強い刺激を指します。

侵襲が加わると、生体内では以下の反応が起こります。

  • **内因性エネルギー供給(endogenous energy supply)**の増大

  • ストレスホルモンや炎症性サイトカインの大量産生

  • 代謝の亢進とインスリン抵抗性の出現


■ 外因性エネルギー=栄養療法の落とし穴

栄養療法は、
**外因性エネルギー供給(exogenous energy supply)**に該当します。

侵襲下では、

生体内から供給されるエネルギー

外から投与するエネルギー

この両者の合計でエネルギー需要が満たされます。

そのため、

👉 「推定エネルギー必要量と同量の栄養を外から投与する」ことは、
過剰投与(overfeeding)になる可能性が高い

という点が、極めて重要です。


■ 侵襲時に最も注意すべき合併症:高血糖

侵襲が起こると、

  • 肝臓・骨格筋に貯蔵されたグリコーゲンが消費される

  • しかし

    • 骨格筋グリコーゲンは他臓器では利用できない

    • 肝グリコーゲンも 12~24時間で枯渇

その後は、

を材料とした糖新生によって血糖が維持されます。


■ 飢餓と侵襲の決定的な違い

飢餓時と異なり、侵襲下では

その結果、

  • 高血糖が起こりやすい状態になります。


高血糖がもたらす悪循環

高血糖は単なる数値異常ではありません。

  • 好中球機能低下

  • 細胞内殺菌能低下

  • 免疫能低下

を引き起こし、
👉 感染症リスクを著明に増加させます。

そのため、侵襲下では

🎯 目標血糖値:180 mg/dL以下

を基本とします。


■ 侵襲時の栄養投与量の考え方

● エネルギー量

  • 間接熱量計による測定(可能であれば)

  • または
    25~30 kcal/kg/day(簡易式)

👉 ※「多ければ良い」ではありません。

たんぱく質

  • 1.2~2.0 g/kg/day(実測体重)

  • 腎機能を評価しながら慎重に調整


■ 侵襲性低栄養の本質

侵襲による低栄養は、

  • 飢餓

  • 悪液質(カヘキシア)

とは異なり、
短期間で急速に進行します。

そして最も重要なのは、

👉 侵襲の原因(感染・炎症・外科的問題など)が制御されなければ、
栄養だけで低栄養を改善することは不可能

という点です。


■ 結論

高度侵襲下における「攻めの栄養療法」は禁忌

  • 高度侵襲下では
    内因性エネルギーがすでに過剰

  • そこに攻めの栄養を重ねると
    👉 過剰投与・高血糖・感染リスク増大

  • まず優先すべきは
    侵襲の制御(治療)

👉 侵襲が落ち着いた段階で、初めて「攻め」を検討する

これが、安全な栄養療法の原則です。


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