在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

誤嚥性肺炎を科学する52~「軽くあごを引く」が飲み込みやすさと誤嚥しにくさを同時に叶える理由

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頸部前屈位──「軽くあごを引く」が飲み込みやすさと誤嚥しにくさを同時に叶える理由

Message

ポジショニングの一環として、軽くあごを引いた頸部前屈位の姿勢をとろう

頸部前屈位には、①飲み込みやすくする、②誤嚥しにくくする、という2つの目的がある

ポジショニングには首の姿勢を調整することも含まれています。軽くあごを引いた頸部前屈位とよばれる姿勢です。逆に、首のポジションを適切にとっていなければ、飲み込みにくく誤嚥しやすいということになります。

誤嚥性肺炎を予防するためだけでなく、治療中にさらなる不要な誤嚥・窒息を引き起こさないためにも、要介護者の首の姿勢には注意を払いましょう。


頸部前屈位の2つの目的

目的①
飲み込みやすくする
軽くあごを引くと首前面の皮膚と筋の張力が緩み、少しの力があれば喉頭を挙上して飲み込めるようになる。
目的②
誤嚥しにくくする
下咽頭のスペースが広がり、口腔から咽頭への通路に角度がつくことで、気道に誤って入りにくくなる。

飲み込みやすくする──喉頭挙上のしくみ

「ゴクン」と飲み込む運動は、舌・咽頭筋群・舌骨上下筋群など多くの筋が連動して出力される筋の協調運動です。このなかに喉頭(喉ぼとけ)を挙上する運動が含まれます。

喉頭は重みがあり、足側へも筋が張っていますので、ある程度の筋力がないと十分に挙上できません。喉頭挙上が不十分であれば、咽頭収縮力が低下し、食道入口部の開きも悪くなり、うまく飲み込めなくなります。

健常者が体験するとしたら、天井を見上げて(あごを上げて)ゴクンと唾を飲み込んでみましょう。喉頭を挙上するのにかなりの力が必要なことがわかります。要介護者で首の筋力が低下している方にとっては、少しでもあごが上がっていると嚥下できなくなることが想像できます。

軽くあごを引き、首の前屈位をとることで、首前面の皮膚と筋の張力が緩みます。少しの力があれば飲み込むことはできるようになります


誤嚥しにくくする──気道を守るメカニズム

気管の入り口(喉頭)は、上に上がってきた喉頭と、舌骨が前に引かれて喉頭蓋という蓋が倒れこむ(反転する)ことで、嚥下の瞬間にふさがれます


。喉頭挙上が不十分だと、気管の入り口を閉鎖することも不十分になり、嚥下の瞬間に誤嚥しやすくなります

頸部前屈位で誤嚥が減る流れ

頸部前屈位をとる(軽くあごを引く)
下咽頭のスペースが少し広がる
口腔から咽頭への通路に角度がつく
飲み込み損ねた食物や分泌物が一時的に溜まるスペースが確保される
気道に誤って入りにくくなる
⚠️ 分泌物が多くゴロゴロしているときは特に注意

喉にゴロゴロと分泌物が溜まっているようなときには、頸部が伸展したままの体位を避けなければなりません。ゴロゴロしたものがいつまでも飲み込まれずにいると、気道に入っていく危険性が高くなります。

まとめ

「軽くあごを引く」頸部前屈位は、①喉頭挙上を助けて飲み込みやすくし、②下咽頭のスペースを確保して誤嚥しにくくする、という2つの効果をもたらします。食事時だけでなく、日中の姿勢全般で首の位置に意識を向けましょう。