在宅診療医 内田賢一 奮闘記

三浦半島の根本である逗子・葉山及び横須賀、神奈川で在宅診療行っています。長らく血管障害を中心として脳外科医として働いてきましたが、自分のキャリア後半戦は自分の大好きな湘南の地の人々が本当に自宅で安心して医療受け過ごせるお手伝いをできたらと考えております。自身の医療への思いや分かりにくい医学の話を分かりやすく科学的根拠に基づき解説して参ります。

神経障害性疼痛疼痛を科学する10~「うつの薬」が痛みに効く理由 — 神経障害性疼痛における抗うつ薬の使い方

「うつの薬」が痛みに効く理由
— 神経障害性疼痛における抗うつ薬の使い方

糖尿病性神経障害・帯状疱疹後神経痛・がん性神経痛などの神経障害性疼痛に、抗うつ薬が有効であることはRCT(無作為化比較試験)で示されています。IASP・EFNS・カナダ疼痛学会のガイドラインでも第一選択薬として推奨されています。なぜ「うつの薬」が痛みに効くのか、その機序と使い方を解説します。
抗うつ薬が疼痛に使われる2つの理由
① 鎮痛薬として(直接的な効果)
抗うつ効果とは別の、直接的な鎮痛作用が存在する。うつ症状のない患者でも、抗うつに必要な量の1/2〜1/3の少量投与で鎮痛効果が発現する。
② 併存するうつ・不眠への対応
神経障害性疼痛患者にはうつ・不安・不眠・食欲不振が合併しやすい。これらへの対応にも抗うつ薬が有効であり、QOL全体を改善できる。
主な適応となる神経障害性疼痛
末梢神経障害によるもの
糖尿病性神経障害・帯状疱疹後神経痛・幻肢痛・CRPS・術後瘢痕疼痛症候群
中枢神経障害によるもの
中枢痛(視床痛など)・脊髄損傷性疼痛
灼熱痛・アロディニア
持続性の灼熱感やアロディニアに特に有効。三環系のノルトリプチリン・アミトリプチリンが電撃痛にも有効とされる。
がん性神経障害性疼痛
しびれ・締めつけ感・突っ張り感に対してアミトリプチリンが非常に有効との報告がある。
抗うつ薬の種類・鎮痛効果・副作用一覧
世代・系統 代表薬 鎮痛効果・作用機序 主な副作用
第一世代
三環系
アミトリプチリン
イミプラミン
ノルトリプチリン
クロミプラミン
最も強い鎮痛効果
NA<5-HT再取込阻害
NNT: 2.5〜3
口渇・便秘・眠気・起立性低血圧・心毒性(高齢者での使用に要注意)
第二世代
四環系
ミアンセリン
マプロチニン
セチプチリン
弱い鎮痛効果
抗コリン作用なし
高齢者で使いやすい
頻脈・発汗・眠気・低血圧
抗コリン作用なし
第三世代
SSRI
フルボキサミン
パロキセチン
鎮痛効果は弱い(第四選択)
5-HT選択的再取込阻害
NNT: 6.7
悪心・嘔吐・口渇・便秘
抗コリン作用なし
循環器への影響少ない
第四世代
SNRI
ミルナシプラン 第二選択薬
NA+5-HT再取込阻害
NNT: 4.6〜5.2
口渇・悪心・嘔吐・頻脈
抗コリン作用あり
副作用が早く出て即効性も高い
具体的な使い方(用量・増量法)
第一世代三環系(イミプラミン・アミトリプチリン)
高齢者:就寝前10mg/日から開始。通常成人:25mg/日から開始。4〜7日ごとに同量ずつ増量。症状改善で増量停止。維持量:通常40〜100mg/日。口渇が出れば十分な投与量の目安。
第三世代SSRI(フルボキサミン・パロキセチン)
フルボキサミン:50mg/日分2から開始、150mgまで増量。パロキセチン:20mg/日分2から開始、40mgまで増量。
第四世代SNRI(ミルナシプラン)
50mg/日分2から開始、100mgまで2か3分割で漸増。高齢者は30mg/日から開始、60mgまで。副作用発現が早く即効性も高い。
第二世代四環系(ミアンセリン)
30mg/日就寝前1回または分3で開始。効果なければ5〜10日で60mg/日まで増量。副作用が少なく高齢者でも比較的使いやすい。
 鎮痛効果の発現タイミング
鎮痛効果の発現は抗うつ効果より早く、投与後4〜7日で現れることが多い。抗てんかん薬と異なり効果は緩徐に現れ、1カ月ごろから痛みの性質が変わり弱くなってくる。3〜6カ月にわたって痛みが寛解するようなら、さらなる減量も可能。
副作用と使用上の注意
系統 頻度が高い副作用 頻度が低い副作用 禁忌・注意
三環系(MARI) 全身倦怠感・便秘・口渇・眠気・起立性低血圧 悪心・嘔吐・排尿困難・錐体外路症状・発疹 緑内障・排尿障害・心筋梗塞回復期は禁忌
四環系 頻脈・発汗・眠気・口渇・めまい・動悸 便秘・脱力感・興奮・せん妄 MAO阻害薬との併用禁忌
SSRI 悪心・嘔吐・口渇 便秘・眠気・めまい・倦怠感 MAO阻害薬・リチウム・クマリン系との併用注意
SNRI 悪心・嘔吐・口渇・頻脈 便秘・眠気・排尿困難 MAO阻害薬との併用禁忌
 在宅医療での抗うつ薬使用のポイント
  • 高齢者では三環系の副作用(ふらつき・鎮静・起立性低血圧)に注意し、ミアンセリン(四環系)などを優先的に検討する
  • 「痛みだけでなく不眠・うつ・食欲低下も改善したい」場合は積極的に抗うつ薬を選択する
  • 口渇が出れば十分な投与量の目安 — 過不足なく調整できる指標として活用する
  • 他の薬剤(抗精神病薬・MAO阻害薬・アルコール)との相互作用に注意する
  • 鎮痛効果の発現まで4〜7日 — 患者・家族に「すぐには効かないが1週間様子をみてください」と説明する
CLINICAL TIPS
  • 神経障害性疼痛の第一選択は三環系抗うつ薬(ノルトリプチリン・アミトリプチリン・イミプラミン)
  • 高齢者では副作用の少ない四環系(ミアンセリン)を第一選択とすることが多い
  • 鎮痛効果はうつ治療に必要な量の1/2〜1/3の少量で発現する
  • SSRI(第三世代)は鎮痛効果が弱く神経障害性疼痛では第四選択
  • SNRI(ミルナシプラン)は副作用発現が早く即効性も高く、第二選択薬として有用
  • 痛みだけでなく合併する不眠・うつ・QOL全体を見据えた薬剤選択が重要